◎前回のお話




周りの景色がグラグラした。

汗が目の中に入ってくるが、それより目が熱くなって眼球が水分で包まれているのがわかるくらい涙が込み上げてきた。


『ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!……』


『早く横になって!

冷やすものください!』


ハァハァと呼吸をするが苦しくて仕方ない。

上手く吸えないし上手く吐けない。


床に座り込んだ私は横にされタオルで頭を高くした状態で氷の入った袋を額に当てられた。

『袋持って!』

口に袋を当てられ乱れた呼吸を整えた。


『ごめんなさい…トレーニング止めちゃってごめんなさい…』


悔しくて恥ずかしくて涙が止まらなかった。


『いいよ!大丈夫だよ!』

みんなが言ってくれた。


『1人で頑張り過ぎなくていいんだよ?』


自分の人生に言われてるみたいで、心から水が溢れてるみたいに涙が込み上げてくる。


呼吸が落ち着くのを待って、スタッフさんにコテージに送ってもらった。

部屋に入るとスポーツドリンクを渡された。


『飲んで休もう』

救護班のスタッフさんが優しい笑顔で言ってくれた。

『すみません…私のせいで撮影止めちゃって…』


『いいの!元気でやらなきゃ意味ないんだから!飲んで休んで。』


そう言われ私はベッドに横になった。



思えば合宿ロケに入ってから眠れていなかった。

慣れない環境、プレッシャー…


スポーツドリンクを飲むとたくさん出てしまった水分が体に染みたような気がした。


次の日のトレーニングはドクターストップになった。


その日は外での筋トレ。


みんなは離れたところでトレーナーさんと運動に励んでいる。

私は救護班のスタッフさんとテントで見学をした。


『昨日はすみませんでした。』

『いいよいいよ!疲れもでたんだよ。
眠れないって言ってたもんね?』


飲み物を渡されチビチビと飲みながら話をした。


『みんなに迷惑かけちゃった…』

『仕方ないよ。
あ、柏崎さんはお子さんいるんだよね?』


『はい。』

みんなの運動する姿を見ながら世間話が始まった。


今までのこと。

何故ここにいるのか。

どうしてこの仕事を始めたのか。


するとスタッフさんが


『柏崎さんはもっと自分のために生きていいと思う。』

『あ…』

『家族のため、息子さんのため、みんなのため…
自分のためが全然なかったね。

いいんだよ、もっと自分のために生きて。

誰かの幸せは自分の幸せだけど、

自分の幸せをもっと考えていい。

自分を甘やかしてあげなよ。』


そうだ。

誰かの幸せが自分の幸せだった。

みんなが笑ってくれるから自分も嬉しい。


じゃぁ自分は?


このロケはダイエットの為のものだけど


私を一度立ち止まらせてくれる場所にもなった。

仕事と育児だけを目まぐるしくしてきた私を振り返る場所。

旦那の分も1人で頑張ってきた自分、

シングルマザーになってからの時間を振り返る

世間の普通の女性の意見をもらえた時間。


走ってきた体の中の時計が少し穏やかに回り始めた気がした。


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