◎前回のお話




窓にぶつけた頭が痛くて事故を起こした週の日曜日、初めて養成所を休んだ。

数回休むと1年後にある事務所所属をかけた卒業ライブに出られなくなる。

相方に連絡をし謝った。


教務課の方にも事故があったことを伝え休ませてくださいと話した。

今回は仕方ないけど、休み多いとライブ出れなくなるよと言われた。


車のこと、お金のこと、生活のこと…

いろいろ考えたが保険があるから大丈夫だろう!

そう思っていた。


養成所には行けないが相方と電話でネタの話をしていると

『ピンポーン』


と、玄関のチャイムが鳴った。


『ごめん、誰か来た。』

電話を切り動くと痛む頭を支え立ち上がった。

『はい?』


玄関を開けると


『先日は申し訳ありませんでした』


トラックの運転手さんとその奥さんがお見舞いに来てくれた。

『あー、大丈夫ですよ?
骨折とかは無かったので。頭は痛いですけど。

そちらはどうですか?ぶつかって痛みとか無いですか?』

『自分は大丈夫です。』

2人で申し訳なさそうに頭を下げた。

『車はさすがにダメですけど、保険でどうにかなりますよね?』

『会社でちゃんと保険に入っているので大丈夫です。』

既に車は代車が無いのでレンタカーが貸し出されていた。


『あとは保険でどうにかなるはずなのでご心配なさらず。』

『ありがとうございます、これ良かったら。』

手土産に美味しそうなロールケーキを持ってきてくれていた。

痛みからそこまで笑えなかったので少し心配させてしまったかな?と思いながら玄関のドアを閉めた。


頭の痛みはあったが出血しているわけではないので仕事には出た。

仕事中保険会社から連絡が来た。

保険や事故の説明をされ、10対0で車や体のことは保証してもらえることになった。

『よかった!安心しました。で、どのくらい保険が下りるんですか?』

『20万円です。』

え!?20万!!?



残ったローンはあと1年。

20万では事故をした車のローンは終わっても新しい車は買えない。


『保険って私の生活を元に戻してくれる為にあるんじゃないんですか!?』

『柏崎様のお車の査定ですと…』


初めての事故で、初めての保険金で私はまた頭を殴られたような衝撃をくらった。


『ちょっと待ってください!
これだと車を買うことすら出来ません!困ります!』


やっと終わると思っていたローン。

10年乗ろうと思っていた車。

ローンが終わればその分貯金して息子の高校に備えよう!と思っていた。

ローンの分を私立の学費に当てられる!と。



保険会社の方はまた考慮してくれるとのことで電話を切った。

受話器を置き職場に戻る。




お金…

息子が進学する度この悩みがのしかかる。

稼げば手当は減る。


手当も年々減る。

ならばゼロになっても働かなければいけない。


車がなければ働けない!


息子のこと、学校のこと、お金のこと…


仕事の帰り、イルミネーションが飾られている公園の駐車場で思いふけってから帰宅することもあった。


なるべく自宅で暗い顔にならないように…。