◎前回のお話




一体どうしてこうなってしまったのか…


地震が起きたと言うことは理解しているが、外はまるでさっきまでとは別世界で状況が飲み込めないのだ。

信号のつかない道路を横切るのは一苦労だった。

誰もが先に先にと急ぐためなかなか渡れない。

1箇所2箇所の停電なら警察官が来て交通整理をしてくれるが、もうどこの電気も通っていないような状況では大きな交差点のみしか見て回れないだろう。

どうにか利用者さんのお宅に着いても

1軒1軒家の中を見て周り安全確保が出来るかを確認しながらの送迎。

もちろん利用者さん宅も壁が崩れ、庭の大きな灯篭は倒れ

窓ガラスが割れているお宅もあった。


『電気もガスも水道も止まってるから気をつけて!復帰するまで夜はまだ寒いから布団にくるまって地震が来たら頭守ってくださいね!』と声を掛け

独居の方には近所の方に声を掛け帰った。


いつもなら16時から始める送迎を少し早め、15時40分頃から始めてみたが終わったのは暗くなった18時半頃だった。

送迎が終わって施設に戻るとホールにはベッドが集められていた。

特養の利用者さんを1箇所に集め夜を過ごすようだった。

『懐中電灯の電池が足りない…』

そんな声が聞こえてきた。

『うちに確かたくさんあったから取りに行ってくるよ!』

と、私は着替えをせずに自分の車に乗り込んだ。


自宅に駆け足で向かいドアを開け勢いよく飛び込んだ。

『〇〇!!』

息子の名前を呼ぶが居ない…

『どこ?どこ?』

部屋の中はテレビが倒れていたくらいでものが壊れたりはしていなかった。

乾電池を取りまた駐車場に走る。

近所の人に

『うちの息子見ませんでしたか?』

としばらく聞いて回った。

こんな時に近くにいてあげられなくてゴメン…そう思うと泣けてきた。

しばらく探すと

『おかあさーん!』

と別の棟から息子の声がした。

『〇〇ー!!』

あれ程安心したことはなかった。

息子が私に駆け寄ると『あぁ…よかった』と気が抜けた。

『Kくんちのお父さんが家にいなさいって一緒にいさせてくれたの。』

と、友だちのお家にいた事を教えてくれた。

Kくんのお父さんが窓から顔を出し頭を下げてくれた。

私は大きな声で『助かりました!ありがとうございます!』と声をかけると

『よかった!帰って来れたんだね!』と。

この時のご近所の対応には今でも感謝している。

私は息子を連れ実家に向かった。

実家は新築の為安全だろうと言うことでその日から泊まることにした。

『よかった!○○いたか!』

父も息子のことを探してくれていたようで

『心配かけちゃったね。Kくんちでみててくれたんだ。』

『そうかぁ。ご近所様々だな、よかった…』

と安心した様子だった。

『ちょっとじいとばあと居てくれる?

お母さん乾電池職場に置いてくる』

『分かった!気をつけてね。』


私は再び施設に戻った。

既に施設は真っ暗になっていた。


懐中電灯の明かりのみがボヤッと光っていた。

食事もベッドの上で摂っていた。

『乾電池持ってきたよ!』

そう言い渡す。

『ありがとう!』


日勤のスタッフも帰れずに残って食事介助をしていた。

私も手伝おうとするとポケットの中の携帯電話がブーっと震えた。

液晶には同じシングルマザーの同僚の名前が表示されていた。

『もしもし、どうしたの?』

【どうしよう…上のお兄ちゃんがいなくなっちゃったの…】

声のトーンから焦りが感じられた。

『今そっち行くから待ってて!』

私はまた施設を飛び出した。