◎前回のお話




夏休み中、私は息子にサプライズをした。

『ねぇ、お母さんと一緒にディズニーシー行こうか?』

『え?ホント??行く行くー!!』


ボランティアを頑張った息子への久しぶりの大きなプレゼント。

ボーナスも入ったしたまにはいいか?と、私の休みと息子の休みを合わせて計画した。

旦那と別れてから行くのは初めてだった。


息子との初の二人旅だ。


前日、息子に

『よし!明日ディズニーに行くためにも今日はお母さんが帰ってくるまでに家を片付けておくこと!』

と、言うと


『わかった!』

と、朝から元気に返事をした。


『行ってくるからね!よろしくね!』


そう言い仕事に出掛けた。


旦那がいなくたって私はちゃんとやってあげられる!

ちゃんと思い出を残してあげられる…


私にとって家族との思い出は大切なものだった。


私の子供の頃の思い出…


確かにお金の不自由も友達とのトラブルもなかった。


でも…私の心には今でもあの奥の部屋の暗い過去が残っている。


兄の家庭内暴力…祖母の認知症…


各々いろんな理由があったことは今なら分かる。


でも思春期に見てきたあの光景が私の家族の記憶なことは悲しかった。


だからこそ私は明るい家庭に憧れた。

17歳で妊娠なんて傍から見たら『何してるの?』だと思うが

私にとったら『希望』でしかなかった。


息子には楽しい思い出をたくさん残してあげたかった。


その思い出を息子が成長していつか結婚して

その家族に繋いで欲しかった。


お金のかからない旅しか出来ないけど


それでも一緒に笑うことに意味があると思った。



仕事が終わり家に帰り玄関を開けると

汗だくになった息子が元気よく迎えに来た。


『おかえり!ちゃんと掃除したよ!』

どれどれ…と中に入り見回すが


まぁ…丸い掃除だった。


もともと掃除の苦手な息子がここまでやってくれたなら良しとしよう…。


『はい!頑張った!

ご飯食べて早起きするぞ!』


『おう!』


私たちは息子が拭いてくれたテーブルの上で夕食を食べた。


中1の息子の就寝時間は21時。

同級生より明らかに早い。


多分同級生は深夜まで起きている年頃だろう。


でも息子はまだまだ素直な子供のままだった。


反抗期も少しはあったが私が怒っても少し目を逸らしたら話さなくなる程度で『こんなもの?』と思うくらいだった。


寝る時間を考えるとやっぱりまだ心が幼いんだなと思った。

でもだからこそ中1でも一緒にディズニーに行ってくれるんだよな…

ゆっくりもこれでいいもんなんじゃないかな?と息子が眠ったあとに思った。


少しだけ私の親としての成長に息子が合わせてくれているような…そんな風に思えたのだ。

『ありがとう』

自然とそう思えた。


親子だけど兄弟みたいな…

そして成長させてくれるのはいつも息子なのだ。


私も早く寝よう…


次の日の着替えと持ち物を用意し布団に入った。




朝3時。

ケータイのアラームが鳴る。


眠い目を擦りながらリビングに行くと既に息子は起きていた。


『早くね?』


息子は笑顔で用意を始めていた。


外は真っ暗。

それだけでワクワクする。


『よし!行くぞ!』


車に乗り、栃木から千葉へと車を走らせた。

車の中では

学校のこと、部活のこと、仕事のこと、私の彼氏のこと

思えば何でも包み隠さず話していた。


友達のように、楽しかったこと腹が立ったことで盛り上がる。


3時間以上もの間、誰にも邪魔されることなく話せるのが二人旅のいいところだ。


7時過ぎ、ディズニーシーの駐車場に到着。


凍されたペットボトルをお互いの背中に当たるようにリュックサックにたくさん入れてきたものを背負う。


『暑くなったらずぶ濡れになるぞー!!』

『おーー!!!』

テンション高すぎる親子ディズニー。


夏の開演時間は早い。

確か8時には空いていたと思う。


開くのと同時に私たちにも魔法がかかる。


毎日大変でちょっと悲しいことがあったり
辛いことがあった日常がその時だけは別の世界の話みたいになるのが毎回不思議だ。


ここにいる時は私たちは何も考えなくて良いのだ。

『餃子ドックで朝ごはんにしよう!』

『お母さん!アイスも食べよう!』


『よし!お母さんとジェットコースター乗るぞ!

お前がお父さんになった時、こんなのにも乗れなかったら子供に示しつかねーからな!』

と、絶叫系が苦手な私はやたら頑張っていた。

お父さんがいないからこれが出来ない、諦めるなんて嫌だった。

私がどっちもやるんだから…いいの!

そんな気持ちだった。


ここから出てしまったらまた現実がやってくる。

でも息子が今笑っていてくれるから私は頑張れるんだ。

『お母さん、ジュース買ってきてあげるよ!』

午後の暑い時間帯。既に持ってきたペットボトルの飲み物も尽きた時

木陰で休んでいる私に息子が言った。


『ありがとう。』


息子の優しさは天下一品だなと親バカながらに思った。


これからきっと大きくなって私とは来てくれなくなっても、彼女が出来たら同じことしてあげなよ?と心の中で言った。


1日中ずっとずっと笑った。

ずっとずっと笑えることが幸せで

なんだか涙が出た。


夜のショーが始まる前

『並んで待とうか?』

と、観覧場所に行くと

私たちが最初のお客さんだった。


スタッフさんが

『一番乗りですよ!一番素敵な席へどうぞ!』


と、湖の真ん中に私たちを案内してくれた。

2人でそこに座って夕飯用に買ってきたホットドッグを食べた。

『お金かけないディズニー旅行だったけど楽しかったね。』

『うん!』

『お父さんいないけどたくさん笑えたね。』

『うん。』

『なんか今日、お母さん…お父さんに勝てた気がした!』

『えー??なんだよそれ!』

息子は声を出して笑った。


でもそれを育ててくれたのは君なんだよ。


最後のショーを観ながら息子が楽しむ顔を見れてとても満足だった。