◎前回のお話





面接の日

ドキドキしながら施設の門をくぐった。


入口の自動ドアが開き中に入る。


右にある受付の窓から中にいる人に声を掛けた。


『こんにちは、今日面接のお約束をさせていただいた柏崎と申しますが…』


『あ、はいはい。』


軽い返事だな…と思いながら顔を見ると

『あ!』


息子の同級生のお父さんだった。


『ここにお務めだったんですかー!』


ドキドキしていた気持ちも和んだ。


面接室に通されると履歴書に目を通したあと


『だって柏崎さんのこと知ってるからねー』


と言い履歴書をしまった。


『私、前の施設を2ヶ月で辞めてるんです。

いろいろあって…

でもどうしてもやりたくて来ました。』


『うちの主任ちょっとキツイよ?』


『ぜんっぜん大丈夫です!』


利用者さんを思っての行動なら納得いく。

それなら全く問題ない。


『じゃぁ、今月末にちょっと来てみて。

ジャージ持ってきてね。』


『はい?』


『今月末。来れる?』


『それって…採用ってことですか?』


『そうだよー。』


『あ!ありがとうございます!!』


この時の嬉しさは今でも忘れられない。


私は家に帰るとすぐに息子に話した。


『お母さん介護士またやる!』


『よかったね。お母さんなら大丈夫だよ。』


『これで最後。ダメなら諦める。』


最後のチャンス…。


絶対にやり遂げてやる。



次の日、派遣会社に辞めることを伝えた。


一緒にご飯を食べてくれたみんなにも伝えた。


『ホントにありがとうね。』


私が仕事に対して自信を無くしていた時に支えてくれたみんな。

感謝しかなかった。


みんな派遣の仕事をしながら夢もあったりして

そんな話もしながらお昼休みを過ごしていた。


久しぶりに学生にでも戻ったかのような楽しい時間だった。



施設へ働きに行く日

前日にジャージやエプロンの用意が整っているか確認した。


『絶対に辞められない。』


自分に気合いを入れた。


施設へ行くと施設長がいた。

『よろしくお願いします!』

『明るい感じの人だぁ。よろしくお願いします。』

小柄な笑顔の施設長だった。

それを見た私はちょっと安心した。


施設内を見て周り最後にデイサービスの主任に挨拶をした。


『よろしくお願いします。柏崎です。』

『こちらこそ今日からよろしくお願いします。』


サバサバした感じだがキツイ感じはせず、嫌な感じは全くなかった。


『じゃぁ柏崎さん頑張ってね!』

そう施設長に言われ、再び私の介護士生活が始まった。


初日は利用者さんとのコミュニケーションやレクリエーションの手伝いをし終わった。


『明るくていいね!』


そう言われ『ありがとうございます!』と返した。


ホッと胸を撫で下ろし家に帰った。


その日のことを母子間で話すのは相変わらずだった。


私が落ち着いたからだろうか


息子の雰囲気が少し違うことに気付いた。


ため息が多く部屋にこもりたがる。


『どうした?』


『なんでもない…』


いや、うちの息子は分かりやすい。


『そう?何かあったら言いなよ?』


『うん…』


生きていると波がある。


私がうまくいくと息子がその逆になる。


息子の荒波が静かに近付いていた。