◎前回のお話






『何かあった?』


センター長にそう言われ、私は


『はい。送迎中にスタッフのDさんが利用者さんを叩きました。

しかも利用者さんはいつも叩くと言いました。

私はそんなことをする為に介護士になったんじゃありません。』


『え?Dさん?』

『はい。』

センター長は信じられないと言わんばかりの顔をした。


『わかりました。それは私から本人に注意します。』


『制服はあとでクリーニングしてお返しします。』


私が頭を下げて帰ろうとすると


『待って!』


と呼び止められた。


『柏崎さん、柏崎さんみたいに明るくてハッキリ言える人が現場には必要なの。

ちゃんと注意するから残ってはもらえない?』


私は少し考えて


『わかりました。今回は残ります。

でも本当に有り得ないことが目の前で起きてショックでした。

私は息子が小さいながら障がいがあります。

あの叩かれた利用者さんが息子だったらと思うと辛くなります。

だから絶対に止めさせてください。』


『わかりました。』


家に帰り利用者さんのことを思った。


独居で目も耳も不自由で

理不尽に叩かれて…どんな気持ちで夜を迎えているんだろうと。


『お母さん、どうしたの?』


息子がテーブルで宿題をしながら話かけてくる。


『うーん、ちょっとねー。

嫌な奴がいてさー』


息子が私の顔を覗いて

『お母さんなら大丈夫だよ!』


と、笑顔で言った。


『そうだよね。お母さん大丈夫!』


息子のために始めた介護士人生。


ここで諦めてたまるか!


そんな気持ちだった。


次の日、また会社に行く足は重い。


でも行かなきゃ…


頑張らなきゃ…


息子の為だ!母ちゃん働くぞ!!


『おはようございます!』


デイサービスへ続くドアを開けると…




返事は返ってこなかった。



私は一瞬で理解した。




あ…無視ね?


スタッフのDは相変わらずため息をつきながら仕事をしていた。


私は2週間で覚えた仕事の中で出来ることを始めた。


送迎の時間になり、私は女性スタッフと一緒の車になった。


『何かあった?』


と聞かれ、前日あった事

そしてやめようとした事を話した。


『そーかぁ。まぁDさんもイライラしてるんだよ。

うちのデイってとにかく人を入れちゃうんだよね。スタッフの人数足りないのに。

しかも他の施設に行けなかった重度の人も。

だからスタッフはみんなクタクタでイライラしてるの。』


『そうですか…』


確かに大変だ。

スタッフ7人で30名以上の利用者をお風呂に入れ、食事を提供し

排泄介助やレクリエーション、そして家への送り迎えをしなければならない。


重度の利用者も多く、身体の大きな利用者も抱えて

家のベッドからデイへ

帰宅時はその逆を行わなければいけない。



でもそれが叩くに直結してはいけない。


『そうゆうの改善されないんですか?』


『上は聞かないよ。私たちの意見なんて通らない。』


スタッフは諦めムード。


介護や福祉の世界に光はないの?そう思った。



『こんにちは!〇〇デイサービスです。』


私たちは利用者を自宅へ送る。


『今日もありがとう。』


ご家族や利用者が笑顔で言ってくれる。


こんなにもありがとうって言葉があったかいのに…


とにかく早く仕事を覚えよう。


そして変えよう!!


人が人を助けてあげられる福祉が提供できる自分になろう。


私はそう心に誓った。