いつもありがとうございます。


『失敗の本質』は、太平洋戦争における日本軍の敗因分析を通じて、「組織がどうやって合理的に失敗するか」を描いた名著ですが、その骨格は驚くほど現代日本企業にもそのまま当てはまります。以下では、4点について、できるだけ“会社の会議室で起きていそうな風景”に引き寄せて整理します。


前提条件が崩れると、新しい戦略を策定できない


―前提が神話化すると、思考が停止する―


わかりやすい構図

「市場は右肩上がり」「この技術は今後も主流」「顧客は価格より品質を重視する」

こうした前提が、いつの間にか“検証不要の常識”になります。


企業の事例イメージ

国内向け高機能家電メーカーが、

「日本市場は高品質志向であり続ける」

という前提のもと、過剰機能・高価格モデルを継続投入。


しかし

少子高齢化

可処分所得の低下

シンプル家電・海外製品の台頭


という前提崩壊が起きても、

「じゃあ戦略を根本から組み替えよう」ではなく、

「営業が弱い」「宣伝が足りない」

という戦術レベルの修正に終始する。


結果として、市場が変わったのではなく「市場が悪い」という説明が増えていきます。


新しい概念を創造し、それを活用するという学習法のなさ


―経験は積むが、概念化しない―


わかりやすい構図

日本企業は「現場で学ぶ」ことは得意ですが、

「学んだことを抽象化して再利用する」のが苦手です。


企業の事例イメージ

あるプロジェクトが失敗したとき、


反省会では

「調整不足だった」

「コミュニケーションが足りなかった」

で終わる


本来なら


「意思決定権限が曖昧な組織構造」


「不確実性が高い案件にウォーターフォールを適用したこと」


といった**概念(再利用可能な知識)**に昇華すべきところが、

“今回の案件は特殊だった”として封印される。


その結果、

次の「似て非なる案件」で、まったく同じ失敗を新品の顔で再体験します。


目標のための組織ではなく、組織のための目標をつくりがち


―手段が自己目的化する瞬間―


わかりやすい構図

本来は


「目的 → 組織 → 目標」


の順であるべきものが、


「組織 → 目標 → 目的(後付け)」


に逆転します。


企業の事例イメージ


毎年同じ粒度・形式の中期経営計画


実態とかけ離れたKPI(会議開催回数、資料枚数など)



例えば

「新規事業創出」が目的のはずなのに、


評価指標は


検討会の設置

提案書の提出数


になる。


結果として、


新規事業は生まれないが、会議だけは異常に洗練される。

これは戦時日本軍が「作戦を成功させるために作戦を立てる」状態と酷似しています。


異質性や異端を排除しようとする集団文化


―同質性は安心を生むが、適応力を奪う―


わかりやすい構図

「空気を読む」「和を乱さない」は、

平時には効率的ですが、環境変化局面では致命傷になります。


企業の事例イメージ


海外経験者

異業種出身者

若手で鋭い仮説を持つ人


が会議で違和感を指摘すると、


「それは日本では難しい」

「うちはやり方じゃない」

「前例がない」


という柔らかい言葉の排除が行われる。


結果、組織は


安全

一体感

予測可能


になりますが、

現実への適応力だけが静かに失われていく。


総括:『失敗の本質』が突きつける一行要約


日本的組織の最大の弱点は、


「誤りを修正する能力がなく、誤りを概念化して次に活かす能力の欠如」


です。


優秀で誠実な人材が集まり、努力もしている。

それでも負ける。


そこにこそ、この本が今なお読まれる理由があります。戦争の話に見えて、実はこれは経営と組織学のSF小説なのです。舞台装置だけが変わり、間違った組織の思考は何度でも繰り返されます。