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地球最大の炭素バッファの実態
地球の大気に放出されたCO₂を最も多く受け止めているのは海洋だ。産業革命以降、人類が排出したCO₂の約3割を海が吸収し続けてきたと推計されており、海洋はまさに“地球最大の炭素バッファ(緩衝装置)”と言えます。
吸収の主役は三つの仕組みがあります。
第一は物理ポンプと呼ばれるプロセス。冷たい海水はCO₂を溶かしやすく、高緯度の海域では大気から取り込まれたCO₂が深海へ沈み込む。深海へ送り込まれた炭素は、数百年スケールで地表へ戻らない。
第二は生物ポンプ。海の植物プランクトンが光合成によってCO₂を固定し、食物連鎖を経て海底へ沈む。見えづらいが、極めて強力な炭素輸送の仕組みです。
第三は化学的な緩衝作用。海水には炭酸塩のバランスを維持する機能があり、CO₂を炭酸・重炭酸・炭酸塩イオンへと分離して保持する。この化学的キャパシティこそ、海洋が膨大なCO₂を受け止めてきた理由です。
しかし、吸収能力には確実に“限界”が現れつつあります。
大量のCO₂が海に溶け込むほど海水は酸性に傾き、化学的緩衝能力が低下していく。海水温の上昇はCO₂の溶解度をさらに下げ、物理ポンプの効率も悪化する。簡単に言えば、海洋はこれまでのような吸収速度を維持できなくなりつつあります。
この反応はビジネス現場にとっても無関係ではない。排出量取引、ブルーカーボン、海洋関連インフラ、海運業の規制など、海洋CO₂吸収能力の変化は複数の産業に影響を及ぼす。海洋が“静かに引き受けてきたリスク”が減速するなら、陸上の排出削減努力は不可避になる。
海という巨大システムは、黙々と仕事をするが、無限ではない。未来を読む上で、海洋吸収能力の行方は、気候リスクのコア指標のひとつになっている。地域ではなく地球規模の大問題であると認識する必要がある。