橋本さん「きっと、ここの従業員の方は、私を不思議な目で、見ているんでしょうね・・・。いい年した、オバさんが、若い子達に交じって、ホストクラブなんて、自分でも情けないって思うわ。でも、一人きりのお酒は、淋しすぎて・・・。こーして、楽しそうにしている若い子達の中にいると、気が紛れるのよね。お店の子たちには、申し訳ないって思ってるの。お酒に飲まれて迷惑をかけた事も、あったから・・・。茶ら男君だったかしら?」





茶ら男「はい。」





橋本「誰かを死ぬ程好きになって苦しんだ事ある?」





茶ら男「・・ありません。」




橋本「まだ若いから仕方ないか(笑)茶ら男君は、死ぬ程苦しい恋を経験するのと、穏やかに平凡な一生を送るのと、どっちの人生がいい?」





茶ら男「死ぬ程誰かを、好きになる事なんて、一生に一度あるかないかでしょ?俺は、まだ出会ってないから、何とも言えないっす。」





橋本「思い出がなければ、こんなに苦しまなくてすむのよ(笑)早く忘れて楽になりたい。」





茶ら男「死ぬ程、誰かを愛した事とかないけど、大切な人を失う辛さならわかります。ガキの頃に、事故で両親亡くしてるんで・・・。毎日楽しく笑ってたオヤジとオフクロが、家を出たきり、事故起こして、二度と会えなくなったんです。大切な人の死は、一生忘れる事はできません。どんなに時間が過ぎても・・・。だから、橋本さんの今の気持ち、なんとなくわかります。」









橋本「・・・ありがとう・・。あなたに話して良かったわ。なんだか気持ちが、ラクになった・・。」
茶ら男から見た、婦人は、ホストと、会話を交わしたいように、見えなかった。
ただ誰かが、側にいればいい。

それだけに見えた。



時折、静にグラスを傾けるしぐさから、物思いにふけっていると感じた茶ら男は、黙って隣に座ったまま側に居た。


婦人の手から滑り落ちそうなグラスが茶ら男の目に止まった。




茶ら男は、婦人の手からそっとグラスを抜いた。




ワンテンポ遅れて婦人はグラスを抜かれた事に、気がついた。



茶ら男は出来上がった水割りを婦人の前に置きながら言った。





「グラス半分落ちてましたよ(笑)好きな人の事でも考えていたんすか?」




橋本さん「・・・鋭いわね(苦笑)」




茶ら男「何かあったんすか?」





橋本さん「・・・・帰ってこないのよ・・・。」





茶ら男「どっから?」





橋本「死んでから。」





茶ら男「亡くなったんすか?」




橋本さん「そう。もう、会いたくても会えないの・・・。・・ごめんなさいね。こんな重い話されて、迷惑でしょ・・。」
「まじきつい。あのババア!!」




茶ら男と入れ代わりに、13番テーブルから、待機席に帰って来た司が、やっと解放された・・と言わんばかりに、不満をぶちまけた。





「オバハンやし、金ないし喋る事あらへんわ。会話続けへんし。思わずライターで遊んでしまった(笑)」





「少しやつれたみたいやで。隣におって、生気吸い取られたんちゃう?(笑)」





「30分間で。(笑)」




「指名もせんと、喋らんと、何しに来とるんやろな?」




「やぁ喋るで。あのオバハン。前、どっかのおっさんと会社の不満こぼしとった。」





「会社のオッサンに、惚れて相手にされんかったから、ホスクラ来とるんちゃう?(爆)」





「俺もなんか聞いたで。興味ないから、上の空やったけど(笑)お金が、どーたらこーたら。」





「おっさんに、貢いだ金、戻って来んのんちゃう?(笑)」





「痛タタタタタタタタ(笑)」





爆笑







茶ら男「いらっしゃいませ!お邪魔しまっす!」
茶ら男は名刺を、婦人に渡した。
「茶ら男です。名前聞いてもいっすか?」





「橋本」





婦人は、短く答えた。
美香の隣にいた茶ら男に、移動の指示が出ていた。





ホールスタッフ
「美香ちゃん、ちょっと、茶ら男借りるわ!」





美香「えー何で?ウチしか指名してへんのやろ?何で他の席に行くんねん?」




ホールスタッフ
「ごめんな。美香ちゃん。」



人一倍独占欲の強い美香は、当て付けに足を組み横を向いた。





ホールスタッフ
「茶ら男!13番」



横目で13番テーブルを見た美香は、思わず吹いた。



美香「プッ(笑)何ねん?あの不細工なオバちゃん・・・」
視線の先には、推定五十代の、婦人が来ていた。




美香「あんなオバチャン、ホスクラに来るんや(笑)」





茶ら男「オバちゃんが、ホスクラ来たら駄目かよ?」



美香「・・・。」
美香は黙った。
茶ら男は13番に向かった。
暇な五人も13番に視線を移した。





「あっ!あの痛いオバちゃん、また来とる!」




「うわっ!!!ホンマや・・。俺、回って来ませんように。」





「フリーの上に、酒グセ悪くて有名な痛客やろ?確か。。。(汗)」





「俺、あのオバさんの、卓ついたで。ホンマきついで・・・。」




「金使わんし、ええとこないオバさんやな・・。あれで金持っとったら、誰か相手するやろけど、毎回焼酎やんな。」




「俺、あんな客絶対つきたない。パス。」




「俺もパス」




「シャンパン四本入れて、盛り上がっとる拓さんと反対に、茶ら男さんはフリーで入った痛客の相手か(笑)茶ら男さん、完全に負けてますね。」





「拓さんと、茶ら男さんやったら、絶対拓さんの下ついた方が、利口やな。」





「(笑)せやな。俺も拓さん選ぶわ(笑)」

シャンパンコールを終えた拓の表情から怒りを含んだ屈辱的な表情は消え、満足気な笑みが広がっていた。

が、その笑顔の下に、茶ら男に対する優越感が、潜んでいた。





「拓さん怒らせると、マジ、やばくね?」





「あの目は、やばい。目が笑ってない。」





「敵に回したら完全に、アウトやな。。。」





そう言いながら、待機席で、話をしていた、五人は、茶ら男に視線を移した。





「地味に鏡月。。。」





「マイペースな人やな。。。」





「煽られとるの気づいてへんのんちゃう?」





「それも、作戦かもわからん。。。」





五人は、茶ら男を観察し始めた。
「拓さんの席、のっけから、飛ばしてますね・・・。」




「・・・まだ二部営業始まって間もないのに、これでシャンパン三本目・・。」



「6卓被ってるし・・・。」





「何なんすかね。。。あの、すさまじい気合いは・・・・。」





お客と楽しそうに盛り上がる拓を、指名のないスタッフ達が、やっかみを交えてこぼした。





「噂やけどぉ~拓さんと、茶ら男さん、仲悪いんやて、せやからミーティングで、配った売り上げ表見て、拓さん熱くなってんちゃう?」





「かもなぁ。おい!また、拓さんの席シャンパン入ったぞ。」




「またぁ?!」




「これで四本目っすね。」




「まだ、営業開始して一時間たたないっすよね・・」




「えっナ~ントなんと!な~んと、当店色男、拓さんに、なぁんと!なんと!本日4本目の高級シャンパン入りましたぁぁぁ♪♪!!ありゃっす!!えっ、そぉぉれでは、さっそく恒例の、シャンパンコールで、もりあがって行こうぜぃ!!最高の夜にしようぜぃ!!」




シュポンッ!!





「ありゃーっす!!」

「ありゃーっす!!!」

「ありゃーっす!!!」

「ありゃーっす!!!」





「行くぜぃ!!」





「ありがとう!!ありがとう!!ありがとう!!今夜は!!今夜は!!最高!!最高!!こんなに!!こんなに!!素敵な!!素敵な!!シャンパンを!!本当に!!本当に!!ありがとう!!こんなに素敵な!!シャンパンを!ありがとう!!」






「ごっつぁぁぁぁぁん!!」
「ごっちぁぁぁぁぁん!!」
「ごっちぁぁぁぁぁん!!」




「えっ!それでわぁ、それでわぁぁ、拓さんに、高級シャンパン入れてくれたお姫様から一言。」




「ハイ!3、2、1.きゅぅ♂」




「拓ちゃん、大好き!!」



「ごっつぁぁぁぁぁぁぁん」
「あざーっす!!」       「あざーっす!!」「あざーっす!!」








美香「携帯なんかどうでもええやん!!」




美香に店に入るよう、急かされた茶ら男は、しぶしぶ店内に戻った。





しばらくすると、入り口に立っていた拓の前にタクシーが、一台止まった。
黒髪を巻き上げ、白いスーツを着た、華やかな女が降りて来た。





拓の客。
麻美だった。





麻美は自分の経営しているラウンジが終わった後、拓から電話で呼び出され、タクシーに乗って店に来た。





麻美「なんて顔してるの?拓ちゃん。こわい!こわい!」





麻美は、拓の形相を見て、クスクス、笑った。





普段店に呼ばない麻美を、呼び出した理由が何なのか、麻美は拓の説明がなくとも、わかっていた。




麻美「今回、拓ちゃんが、目つけた子は、どんな子かなぁぁ?!拓ちゃん、この頃つれないから、拓ちゃんが気に入らない、その子にボトル卸しちゃったりして(笑)」





ムッとした拓の首に、麻美は両手を回し上目遣いで見上げた。





麻美「営業終わったら拓ちゃんの部屋で待っててもいい?」





拓は返事の変わりに♀♂を、した。





麻美「じゃあ、拓ちゃんの為にロマネ入れちゃうかぁ」




拓は、ミーティング中クシャクシャにした累計表を、ポケットから取り出し道路に捨てると麻美を連れて店に入った。
ミーディングの後、お客or彼女eteに私用電話&営業電話をかける、6~7人の従業員達が、店の入り口に、たむろした。その中に、普段冷静沈着で落ち着きはらった、拓が、聞いた事のないような荒い声で営業電話をかける姿があった。





茶ら男は、営業電話を、かけ終えると、愛にもう一度連絡を入れようとメモリから、愛の番号を出した。
発信しようとしたその時、誰かが茶ら男に声をかけてきた。





拓「No.7おめでとう。お前には気が抜けねーよ(苦笑)。」



珍しい事に声をかけて来たのは拓だった。




拓「あいつ今日来る?愛。」




茶ら男「連絡がつかないんすよ・・。」





拓「だろーなー(笑)」





茶ら男は、拓の意味深な返事の仕方に不振を感じ聞き返した。





茶ら男「どういう意味っすか?」





その時、いきなり美香が現れた。


美香「わっ!!」
茶ら男は耳元で叫ぶ美香の、大声に思わず、耳をふさいだ。




美香「頼まれたワックス買うて来たで。それから、ブレスケアも買うて来た。気が利くやろ?」




美香は、店の入り口に突っ立っていた、茶ら男を店内に押し込んだ。
美香「早よ、飲も」





拓の横を通りすぎようとした時、拓と目が合った美香は、拓の口元に広がる狡猾な笑みを見て、思わず背筋が、ゾッとした。
美香は拓から、すぐに視線を外した。





茶ら男「俺、連絡入れるところあるから。先店入ってろよ。」





携帯を開くと愛から、メールが届いていた。





美香「見せて?」
美香が携帯を覗き込んで来た。茶ら男は美香に見えないように、愛からのメールを見た。






茶ら男

さっき、電話出れへんくてごめん。風邪ひいて声、出なかってん・・。
楽しみにしとったのに、ホンマに、ごめんな。





茶ら男「風邪じゃ仕方ねーよな。」





愛にメールを返信しようとした茶ら男の腕を、美香が引っ張った。





美香「もお何やっとるん!!」




茶ら男「離せよ。」





美香「嫌!どーせ他の女にメールするんやろ?絶対離さへん!」




美香がすさまじい力で、腕にしがみついて来た。




茶ら男「わかったよ・・・。」
茶ら男は、ため息を吐きながら携帯を閉じた。
主任「えーミーティング始めます。紙を回すので、それぞれ目を通して下さい。」
主任から、スタッフ全員に手渡された紙は、従業員全員の売上の累計表だった。



NO.4直人・6112000
NO.5希・5730000
NO.6拓・4810000
NO.7茶ら男・4736000
NO.8恋・3752000
NO.9信治・2175000
NO.10 純一・1435820
NO.11司・1187500
NO.12春樹・948500





ミーティングの話を聞いていなかった茶ら男の肩を純一が叩いた。
純一「茶ら男さん!茶ら男さん!すごいっすよ!茶ら男さんのナンバーまた、上がってますよ!」




そう言いながら純一が、累計表の茶ら男の欄を、指差しながら、言った。




茶ら男「えーっと、先月は愛と美香がでルイが四本にドンペリが・・」
茶ら男は数字を見ながら先月入った、ボトルとシャンパンを思い返した。
他のスタッフ達も累計表を見ながら、しばらく順位が上がった下がったの、ガヤガヤ賑わっていた。
その中で、拓も、累計表に、目を通していた。

自分の順位の真下に、茶ら男の名前を見つけると、拓の顔色は急に変わった。





半年前まで、No.3だったはずの拓は、現在No.6。


先月半年目でNo.入りした茶ら男が現在No.7。




拓は、累計表を握り潰した。



主任「えーナンバー確認できた?先月落ちた人は来月頑張るように、ナンバー上がった人は、追い越されないよう、個々に営業努力を、続けて下さい。えー今日のミーティングは以上です。」
電話をかければすぐに出る愛の携帯が、何度も留守電に切り替わる。
茶ら男は思わずため息を吐いた。



そんな茶ら男の肩を誰かが後ろからポンと叩いた。





純一「茶ら男さん!ミーティング始まりますよ!」
茶ら男と仲のいい後輩の純一だった。





茶ら男「・・おう。」
茶ら男は胸の中に、ひっかかった(何か)を残したまま携帯電話を、スーツのポケットに閉まいこんだ。