先日購入した「週刊文春」で語られた、ゆでたまご先生の生々しいエピソードが頭から離れない。
キン肉マンの連載が終わり、間髪入れずに連載された「ゆうれい小僧がやってきた!」は、たったの十か月で打ち切られた。
人気低迷の原因を、中井先生はストーリーのせいにし、嶋田先生は絵のせいにしたという。
つまり、互いに責任のなすり合いをしたのである。長年のファンからしたら耳を塞ぎたくなるようなエピソードである。
18歳の頃のゆでたまご先生。
固い友情で結ばれた不世出の友情タッグ漫画家が、不人気をお互いのせいにしてしまうなんて・・・。
「ゆうれい小僧がやってきた!」最終巻の著者近影から。
この頃、お二方の仲は険悪なものになっていたのか。そう考えると胸が痛い。
先日OAされた「ゆでたまごのオールナイトニッポンGOLD」のトークによると、「ゆうれい小僧がやってきた!」のアイデアはすでに小学生の頃にあったらしい。いわゆる嶋田先生が「キン肉マン」のプロト版を描いていた時期である。上の著者コメントにあるように、先生方にとって妖怪漫画を描くというのは子供の頃からの夢だったのだ。しかしその夢はわずか十か月後、打ち切りという悪夢に変わってしまう。
先生方の胸中を推し図るにはこのミカン未熟なれど・・・あえて語ろう。
まず、中井先生が批判した「駄目なストーリー」
これについては当時私も思っていた。
連載当初の妖怪退治物だった頃は、まだ面白かった。2人の少年が合体してヒーローに変身するという点は「超人バロム1」そのままではあるが、着目したのは斬新な妖怪のデザインである。
いかにも胴体の顔が本体っぽい陰陽入道
液体妖怪どろべら。この表情が良い。
出た~!大好きな蝦蟇あやし。
手足が上下逆になった強烈なビジュアルもいいが、この関西弁がなんともユーモラスで憎めない。
この百猫妖怪の元ネタは、江戸時代の浮世絵。
歌川芳藤作の「五拾三次之内猫之怪」である。
この絵は水木しげる先生のお手付きじゃなかったようで、ゆでたまご先生は安心してインスパイアされた模様。
亜鎖亜童子がこれらの個性的な妖怪たちを倒す勧善懲悪ヒーロー物だったのは、8話まで。
ここまでは私も楽しく読めた。
9話から、亜鎖亜童子のライバルである摩亜照童子が登場。
10話打ち切り回避の(あるいは人気をはねさせるための)てこ入れキャラであろう。
このあたりから「キン肉マン」ぽくなる。
さらに12話から、日本妖怪VS西洋妖怪が開戦。
かつての正義超人VS悪魔超人の二匹目のドジョウを狙ったかのような展開。
西洋妖怪を迎え撃つため、棺桶からよみがえるかつての強敵(ライバル)たち。
さらにキン肉マン臭がただよってきた。
このあとの展開は皆さんご存知。西洋妖怪と日本妖怪が、様々な趣向をこらしたリングで団体対抗戦を行うのである。
大ヒット作「キン肉マン」の成功ロジックになぞらえた展開に気付かないほど、読者は馬鹿じゃない。
「妖怪漫画なのになぜリングで団体対抗戦をする?」
中井先生は、そういう安易なストーリー展開に我慢がならず、嶋田先生の原作を批判したのではないか。
一方、嶋田先生が批判した「中井先生の絵」であるが・・・
これは私も当時読んでいてひどいと思えるものだった。「キン肉マン」の後期から始まっていた絵の破綻は、「ゆうれい小僧~」連載開始当初に幾分か持ち直したものの、物語中盤からまた下降線に。輪郭の太い線をマジックペンで描く、どうかすると手抜きのように感じさせる描線。
そして、明らかにアシスタントによるものと分かる稚拙なペン入れは、サブキャラだけでなくメインキャラにまで及んだ。
「ゆうれい小僧~」の最終回「走れ!感涙のVへ!の巻」は全31ページあるが、そのうち中井先生がまともに描いているのは最初の3ページのみ。
残りのページは摩亜照童子の顔をかろうじて中井先生が描いてる箇所があるが、サブキャラどころかメインキャラ、そして主役の亜鎖亜童子に至るまで、すべての絵をアシスタントに丸投げなのである。
このむごすぎる最終回の作画について、私はずっと「打ち切りだから中井先生がやる気をなくした」のだとばかり思っていた。
しかし本当は、今回「週刊文春」で語られたように、大親友である嶋田先生から絵にダメ出しをされたのが原因と考えるのは、いささかウェットだろうか。
その時の中井先生の心中はいかなるものだったか知る由もないが、絵が気に入らないというのならもう描かない。アシスタントが描けばいい・・・というように投げやりになってもおかしくはない。
その後、嶋田先生と中井先生は週1回の食事会を重ねて、仲直りをはたす。
スランプ脱出するきっかけになった「キン肉マン二世」の頃からだったと思うが、嶋田先生は事あるごとに中井先生の絵をほめるようになった。
それはまぎれもない、嶋田先生から中井先生への気遣いである。
二人の友情は、もう絶対にこわれる事はないだろう。永遠に。