ロボトミー。
ボクが今の病院に入職した頃から数年間、ロボトミーを受けたことのある患者さんを何名か看させていただいていた。
1名は統合失調症であったが、病状的には平凡な情意の減弱状態で目立つような症状もなかった。
もしこの患者さんはロボトミーを受けたという情報がなかったなら、それに気がつかなかったかもしれない。
彼のCTでは前頭葉に両側性に「切れ込み」が入っているような所見があり、これがロボトミーの手術による傷と思われた。
場所的にはシルビウス裂あたりであったが手技がどのようなものなのか情報がなかった。
ロボトミーは戦前の1935年、ポルトガルの神経科医エガス・モニスが外科医と組んで世界で初めて行った。
終戦後、モニスにノーベル生理学・医学賞が与えられている。
ある時期、ロボトミーは世界的に行われたが、副作用が大きいことと、その後、薬物療法が進歩したこともあり、1975年以降はほとんど実施されていないはずである。
その患者さんがロボトミー手術の前にどのような症状だったのか、情報が不備であまりわからなかった。
ただ、そういう手術をしたくらいなので、相当に病状が悪かったのではないかとは思っていた。
彼は、日常、「今日の晩御飯は何かな~?」くらいの関心しかなかったような気がする。
それほどまでに空虚な病棟生活だった。
時々、不機嫌の日がみられたが、それが統合失調症によるものか、あるいはロボトミーによる副作用なのかはわからなかった。
それでも暴力を振るったり、大声を出したりは全然なかった。それなりに扱いやすい患者さんではあったのである。
彼は、今、どうしているんだろう?
ひょっとしたら、もう亡くなっているのかもしれない。