-1993年4月6日-<社会事業団蕣会児童養護施設雨奏学園>あれから7年の歳月が経過した尚晞が国立樟臈院大学附属総合病院精神科特別病棟から退院したのは5年6ヶ月前の出来事で今日から中学3年生を迎えた未だに周囲からの好奇的な視線が向けられおり正直しんどく息苦しい日々を送っては居てただただ尚晞的には[一日でも早くこの施設から離れられるのだったならそれで良い]と思っているしかし持っている知識として上限は18歳か22歳までとなっている為結局人生で計4~5回目の進学をしなければならない事に絶望感しかなくそして何の前触れ無しに毎回必ずと言って良い位のかなり重い罵声雑言が色んな場所から聴こえたでもその声は全て尚晞自身が口にしている言葉である為[辞めろ!]と強く耳を塞ぎ何度も呟くのだが辞める気は全くないみたいでさらに側頭部の周りを強く力を込めて深爪した爪で減り込ませたその時遠くの方で[おーい飯が出来たぞぉ]と少し大きめに夜間勤務の男性職員である諸菱 亘が呼んでいたその一声で育ち盛りの腹ペコ怪獣達が火を噴きながらリビングに集まって来て其々の位置に座りテーブルを囲む[あれ?尚晞は?]と言い諸菱が辺りを見回すが肝心な尚晞が居ない[まだ部屋か]と言って尚晞の部屋をノックする返事が無い[入るぞぉ]と言いドアノブに手を伸ばし左に回して扉が開いた真っ暗にした部屋の中に学生制服のブレザー等を着崩した尚晞が立っているまだ耳の奥で色んな声や音が聴こえるのだろう掌で耳を覆い強く力を込めて側頭部の周りを深爪した爪で減り込ませていた諸菱は呆れたように小さく溜め息を吐き態とらしい大きな舌打ちをしてから[まだやっているのか]と心無い言葉を言い[飯だぞ!さっさと来い]と言い残し扉を閉めた音と同時か数秒の誤差かはっきり周りは分からなかったのだが諸菱の叫び声が響き渡った近くから順に職員達と子供達が叫び声を上げた諸菱と扉の窓から覗く尚晞達が居る部屋に入ってきて次々と[どうしたんですか?]と諸菱に訊ね目を移すとテーブルに置かれた食器の上で白目を向いた子供達の顔だったそれを見て職員達は体を硬直し目で自体の把握を図ろうと辺りを見回し後ろに居る人物達に電話するよう要請したり子供達が中に入って来ない様に促していたしかし極一部の子供達は既に部屋の中に入りもう息が無いように見える友人達の姿を目の当たりして其々のリアクションを繰り広げられていた小さい子達は職員達に無理矢理に引き剥がし小脇に抱えられて部屋に戻されて行くそしてもう大きくなった子達に関してはどうする事も出来ず冷めた目で眺めるしかないっていった所だったそれから程無くして警察車両と救急車両等が到着し複数台の救急車両には次々と白目を向いて硬直した子供達が搬送されて行ったそれと入れ替わるようにして警察関係者が数十名が現場となった部屋に上がり現場検証を開始した先ず鑑識捜査官次に科学捜査研究所そして捜査官の順だと思うのだが順番なんて御構い無しって言っても良い位に鮨詰め状態であったと思われる廊下には尚晞と複数人の職員が列んでいるその中で少数派の職員だけは様子が見たいのか規制線ギリギリまで歩み寄り首をありったけ伸ばして覗こうとしても全くの無駄でがっかりした顔をしていた[それでは事情聴取を行いたいと思います]と捜査員が言うとちょっと浮足立っていた職員達が一斉に緊張感に包まれたが[ご安心下さいこの事情聴取はあくまでも聞き込みのような物ですどんな些細な情報でも構いませんなんでも聞きますので宜しくお願いします]と案外気さくな物言いだったせいで誰もが拍子抜けしてしまったそんな事等御構い無しに捜査員に依る事情聴取が開始された<応接会議室>ここの場所は沢山の椅子やテーブルが収納されている会議室で特徴は徒広さが強調されておりまるで裁判所のような冷え冷えする空気を纏っているまぁ今日は今回の事が起きたので机が2つと椅子が3脚準備されている[それでは始めさせて頂きます一先ず私は南高朧中央警察署刑事部捜査第1課4係の警部補の顎木霽爾と言います]と言われ[あっえーと私はここの調理職員の目黒多恵乃と言います]と言うと顎木警部補は小さく微笑み[それでは目黒さん最初の質問から入らせて貰います貴方の行動からお聞きしたいんですが]と言われ目黒調理員は大まかかつ少々正確に質問に答えられた[兎に角考えられません我が施設の調理室から異物が混入するなんて絶対に有り得ませんなんでこんな事に…]と言い無意識に膝に置いてあった手がきつく握り拳を作っていたのが見え[お気持ちはよく分かりました一日も早く真相が解明出来よう務めていますのでまた何かあれこれと質問しますがその時は宜しくお願いしますもちろん目黒さんが何かに気が付いたり思い出した事があれば我々はいつでも聞きますよもし他の刑事が嫌なら自分にでも構いませんから]と顎木警部補に言われ目黒調理員は[お心遣いありがとうございますどうか犯人を見付けて下さいじゃないと我々職員達は子供達に顔向けも出来ませんしそれに我々職員達が報われません]と言って顔を俯い大声で泣きじゃくったまるで犯人が自供したかのようなそんな泣き方に聞こえてしまうくらいにそして余談だがこの事が切っ掛けに今後目黒を含む数人の職員が地獄に落とされるとは誰も知る由もしなかった話を少し戻して目黒の事情聴取が始まる前 尚晞と諸菱はこんなやり取りをしていた[いったいどういう事なんだぁ?さっぱり分からんなんで選りにも選ってここなんだよ]と体育座りをし頭を抱え震えた声でそう諸菱が言ったあまりにも信じられないのであろう自分が担当している場所でこんな有様を目の当たりしてしまったのだから動揺も恐怖もするに決まっている一方尚晞自身もこの状況にまだ慣れてはおらず体中に走る震えが止まらなかった変な話ではあるが自分で手を下すという精神とどっかの誰かが下したという精神は紙一重に違うんだなと初めて実感し不意に周囲を確認をすると少数派の職員だけは中の様子が見たいのか規制線ギリギリまで歩み寄り首をありったけ伸ばして覗こうとしても全くの無駄だったのかがっかりした顔をしていたのを横目で見て余計に嫌な物を見せつけられているような気分になり吐き気をもようしたので直ぐに目の前ある壁に目を移したまぁこんな事しても意味なんて持たない事ぐらい分かってはいるがこうする事によって正気に戻れるのならそれで良いと思えたそれから何分くらい経ったのだろう自分が思う時間はもう1時間ぐらい経った気がするっていうかまだ諸菱は横で体育座りをし頭を抱え震えた声を出して呟いているのだろうかいやさっきより小さい声になっている別に耳を欹てるつもりはないが微かに聞こえたのは尚晞の名前だった尚晞は思わず目を見開き即座に諸菱の方へと目を移し斜め下方向で凝視してみると諸菱もずっと尚晞の方に目を移して斜め上方向に冷酷を纏う様に見ていたのだろうそして延々と[そうだ尚晞のせいにしよう尚晞は元々前科持ちなんだしそれで捕まるのはなんの問題無いはずだそれにアリバイだって証証拠が無い以上凶実は無効だそうしよう]と繰り返し言っていたのかもしれないそこからスクっと突然立ち上がり尚晞の両肩を痛いくらいに強く掴んで[尚晞よくも皆をあんな目に遭わせてくれたな先生悲しいよなんでこんな事をするんだあぁ皆には関係よな絶対許さないお前のような子供はとっとと地獄に落ちてこいよ]と言い放った尚晞は驚いた表情で[なんだよこの展開]と思ったが素直に[あぁそうする順番が来たら]と言い大人しく順番を待った朝に開始された取り調べは正午を通り越して間もなく夕方に差し掛かっている待っている職員達4人にも疲労感が達していて関係性が物凄く薄い職員達は足早に終わらせられたというのに灰色に近そうな職員達には少し粘っていた様子だったでもこの4人に関しては前者の方であるから尚晞は直ぐに呼ばれてしまった[次君ね]と落ち着いた口調で男性捜査官に言われ尚晞は徒広い会議室に入る初めて踏み入れたこの場所はキンキンとした氷より暖かいがヒヤッと冷えていて冷たい空気が頬に伝う感覚に息を呑んだ少し立ち尽くしている尚晞に対して初老間近だろうかそんな佇まいを持った捜査官が[どうぞこちらへ]と自らの目の前にある椅子の方に掌を差し出し促されその表情は一瞬たりとも崩さず尚晞に直視していたまるで[君が犯人か]と言われているように尚晞の目にはそう見えムッとしたがそっぽを向いて促された席にがさつに座るとこちらも初老間近に見えるが席を促した捜査員よりは若く感じ表情も豊かかもしれないと思えた[それでは始めさせて頂きます一先ず私は南高朧中央警察署刑事部捜査第1課4係の警部補の顎木霽爾と言います]と言われ尚晞は無表情で[澤井尚晞中学2年生]と言うと顎木以外の捜査員が一瞬だけ片眉を上げ尚晞の方に視線を集中させたが顎木は[そう尚晞君と言うんですね良い名前だそれでは澤井さん最初の質問から入らせて貰います貴方の行動からお聞きしたいんですが事件当時どこで何をしていたんですか]と顎木に訊かれ[現場の部屋の自室で新学期の準備をしていました事件が起きるまでは物凄く穏やかその物でしたよ]と応えると[そうじゃあ皆さん新学期を迎える予定だったのかな]と顎木に訊かれ[そうです未就学児以外は今日からでした]と言うと[なるほど準備に何分経っていたか覚えていますか]と顎木に訊かれ[いいえ覚えていませんよ俺時計を持つ柄でもないんで]と言うと[えっそうなんですかきっとお似合いだと思いますが]と本当に心無さそうなドライ過ぎる一言が返って来たけれども尚晞にとってはその一言がやけにもうどうでも良いと思えてきてそれ以上の返事は口を噤み代わりにふと頭に過ぎったヘンゼルとグレーテルの話をし始める事にした[捜査員の皆さん今からヘンゼルとグレーテルの話をしませんか?]と尚晞が言うと[それはなぜですか?]と顎木に訊ねられたが[まぁそう仰らずに何かヒントになるかもしれないじゃないですか]と尚晞は宥めるような作り笑顔で言うと3人はへの字口で怪訝そうな表情を浮かべたそんな事はお構い無しに尚晞はヘンゼルとグレーテルというお伽噺を始めた[昔々とある国に貧しい木樵の家族が暮らしていました家族は総勢4人 木樵の夫と家庭を守る妻それからまだ幼い兄妹ですこの家庭は多分 毎年 食べるにやっとの思いをしてきたのか分かりませんがこの年は大荒れな天候で作物も何もかもが不作になってしまい夫婦は今後の食料の調達等に頭を抱え苦しい思いをしていましたすると妻が苦渋の決断であり得ない事を言い出しました[逸その事あの子達を追い出そうそうすれば生き残れる筈だ]としかし夫はその言葉に驚き[いやいやそんな事は出来る訳が無い食べ物に関してはもう少し探してみるから待ってくれないか]と妻に説得するも妻は追い出すの一点張りで夫の説得に全くと言って良い程に納得して貰えないとうとう夫は妻の言い分に折れてしまい翌日4人で食料調達の為に出掛けて行きました暫く歩き回り兄妹は歩き疲れたのでしょうかその場でちょっとだけかがんでしまいそれを夫婦に見付かりました夫婦は心配そうな表情を浮かべて兄妹の為に色々としてくれ兄妹をそこに少しの時間迄休ませる事しましたその間に夫婦はきちんと真面目に食料調達をしているフリをしつつ家方向に向かって歩いて帰りましたずっと夫婦を待っている兄妹はまるきり置いてきぼりとなり妹は今になって泣き始め兄は冷静に月が出る時を待っていました軈て辺りは真っ暗になり少しづつですが月も顔を出してきました兄は昨晩に拾っておいた白く綺麗な小石を目印代わりに小道に落として歩いて来た事を妹に伝えそれに沿って家まで帰って来ました途中で道に迷ったり動物達に遭遇したりしたかもしれませんが滅気ずに歩いたのでしょう家に着くと夫婦が居ました夫は兄妹の無事を心から喜び妻は喜んだフリをして密かに舌打ちと憎しみを込めた言葉を口にしていたしかし諦めが付かない妻はその夜も夫を説得し兄妹を再び置き去りにする事を考えたそして翌朝妻はちょっと多めのパンを作っていた中身は木の実と毒に漬け込んだ干し果実であるその事を知らない兄妹はそのパンを受け取り昨日と同様 小道に点々と落として行き昨日よりも奥に入ってしまいましたそれでも夫婦は平然とした表情で食料調達をしているフリをし昨日と同様な行動で兄妹を置いてきぼりにしたのでしたここで不信には思わないだろうかなぜ兄妹が点々と落として行った毒入り干し果実たっぷりのパンに夫婦は気が付かなかったのかそして兄妹もその異変に気付かなったのか]と言われ捜査員達は[そういう茶番はもう良いから]という様な表情をしているでも一向に尚晞は平然としていてさっきがさつに席に着いた人物とは思えない程の落ち着きようである[僕的に捜査員の皆さんって馬鹿じゃないと思っていますなのでこの不信を説明出来るんじゃないかと思いましたが先に進めますねそのヒントは動物達なんですもし近くに動物達が居たのなら毒に漬け込んだ干し果実をなんの疑いも無く食べちゃうと思うんですまぁ虫だった場合は話が別ですがそれでも気付きますよね動物達が泡を吹き白目を向かせて叫びながら死んじゃっているのならばなのに誰一人気が付いていないってあり得ない話ですよねそれでも兄妹は道に迷い込み魔女と思われる老婆が暮らすお菓子の家に辿り着く恐らく死んでいる動物達の亡骸が有るはずなのに借りにもたとえ強い力を加えて遠くの方に投げ入れてもそう遠くまで届かないはずだし直ぐに力尽きるのは目に見えてしまうあとそれから回収した所で焼いて灰にするしかないのでさらに夫婦が飢えるのは推測出来る横道に逸れましたがそう思いませんか老婆魔女はどうして複数人の子供達を預かっていたんでしょう太らせなくても複数人居れば老婆魔女のお腹は満たされるのに貴金属はどこから出てくるのでしょう貰い受けた盗んだどちらにしろそれをして老婆魔女はなんの得が得られるというのかさっぱり分からないあっそっかお菓子の家のお菓子を買いに行く為かじゃないとあんな家出来上がらないもんなでも魔法が使えるならチョチョイのチョイで建てられるよなやっぱり意味が分からないでもあの兄妹の賢い所は直感力と観察力なんだろうなぁそれが無かったら唯の駄目な子達に成り得るものですもんね自分達が邪魔だと思う物は消すという考え方も奇抜過ぎてもう恐ろしい位だと思いませんかさてこれでヘンゼルとグレーテルの話でしたどうでしたか何かのヒントになったとは思いますが]と尚晞に言われ顎木は[尚晞君って流石ですね記憶力…いや暗記力の成績の方は良いんですかとても解り易いと思いましたよしかしそれがヒントになるとは私には到底思えません]と顎木が鼻で笑って言うと他の捜査員は同意と言わんばかりに小さく縦に振ったそれらを目の当たりにし尚晞は軽く鼻で呼吸し一回目を瞑って再び開き[分かりました僕の負けです僕が遣りました]と言うと顎木を始めとする捜査員はニヤリと笑みを浮かべたそして[手間を取っちゃいけないよ]と顎木に言われ[申し訳御座いませんでした]と尚晞は言い全員に頭を下げただが1人だけ違和感を覚えていたその人物は超人離れをした洞察力を持っているそう顎木はもう1人の捜査員に違う視点でこの凶実を聴くようにしていたのだある意味難を逃れた諸菱は何事も無い素振りで燃え盛る焼却炉の前に立ち小瓶を投げ入れ[これでおしまい]と言って頬には水滴が伝っていた