私は精神発達遅滞という障害を持っていますそれでも私はこの子の里親なのです<区立明瞭小学校1年2組>の教室内担任教師の今井菜穂乃が一人の少年を当てるすると少年は静かに立ち上がり作文用紙を手にし読み始める[僕のママ 1年2組 関池悠真 僕のママは精神発達遅滞という障害を持っていますその障害は知的機能が平均より明らかに低く年齢に応じた行動が取れずそれが成長期に現れたもの知的指数その他の総合的な診断に基づき軽度・中度・重度・最重度に分けられるそうです1970年頃から精神薄弱に代わって用いられていて1999年から法令上は[知的発達障害][知的障害]という語が用いられているってママはいつも言っています子供の僕にそんな事解らないのにと思ったりするけれど大人になったら解れば良いなと思っていますそんなママのお仕事は印刷事業所の職員をしています毎日いろんな印刷物を印刷したりデパートや会社などに配達出来るように準備したりして夕方には帰ってきます帰ってきたら一緒にお風呂に入ったりご飯を食べたりします…休みの日は僕の行きたい所にも連れて行ってくれお洒落もしてくれます…それから怒ると怖いですそれでも僕はママの事が大好きです…終わり]と言うと親達からも拍手が起こりそれと共に悠真が席に着き後ろを振り向いて女性に手を振る女性も悠真に小さく手を振り口パクで[前を向きなさい]と言うと黒板の方に向き直しクラスメートの作文を聞いている放課後となり父母会議も終わり悠真が[ママ]と呼び女性に抱き付く女性は悠真を抱き上げ頬を寄せ頬擦りをし[帰ろうか]と言うとニコニコ笑って[うん]と言い頷くと同時に少し歩いて悠真を降ろし手を繋いで生徒玄関を目指した途中他の親御さんに逢って挨拶も交わして行く[私はこの子と暮らして5年が経つ最初は懐かなくって困った時期も有ったけれど今はいつも私を[ママ]と呼びどこへでもまとわり付いて行く甘えん坊になってしまった私が里親になりたかった理由は単純に[たぶんもう恋人が出来ないだろうな]と言う諦めと[一度でも良いから子育てしたい]という気持ちが強かったせいなのだ(回想)-2006年10月13日-<玄関先に[関池]という苗字と4人の名前が書いてある>[真陽琉]と言い母親と思われる女性がとある部屋を軽くノックする部屋の中ではまだタオルケットにくるまって眠る[真陽琉]と呼ばれる女性の部屋のドアを開け[真陽琉起きてバスに遅刻するわよそれに仕事でしょ]という一言でやっと目が覚める[お母さんおはよう今何時]と真陽琉が訊くと[テレビが有るんだからテレビを見なさい]母親に言われいつも置いて有るリモコンの電源を入れると6:23と表示され同時に最高気温27℃最低気温24℃と表示していたがそれよりも不意に右に書かれていた[里親]という言葉に注目してしまった真陽琉にとってあまり聞き馴れない言葉に全く意味が解らなかった様子だったけれど事情により保護されている36,836人以上の子供達のうち里親家庭で育つ子供は1割にも満たない3,633人前後だという事だけ理解していた[ほら急がないと遅刻よ野菜だけでも良いから食べてちょうだい]と再び母親に言われ渋々リビングへ行き続きを観ようとリモコンを持ったがまた注意されたら嫌だと思い我慢しようリモコンを置いたけれども結局点けて観ていたしかし最後まで解らず仕舞いで心にも残らなかったけれども[里親]と言う言葉を頭の片隅に置いて置く事にした<特例施設会社:>と書かれた看板が玄関に入ると印刷製本作業部署がある[めげない心を持ち弛まない努力と明るい笑顔で今日も1日真心を込め力を合わせて勤めていきます]と社員全員で言い終わり印刷部係長の留蘂由加が[今日は次々と事を運ばないといけない仕事になります手際よく確実に行ってくださいまた焦ると怪我の元になります怪我や事故だけは十分避けて下さい]と言って次に総務部課長の餌取鷹榛が[来週から小百合が丘女子高等学校の生徒さんが来られますので宜しくお願いしますそれとインフルエンザが再び猛威を振るっているみたいです体調管理等をしっかり整えて下さい]と言い事務所に向かってしまったすると留蘂が[では今日も1日宜しくお願いします]と言って仕事が始まった私は精神発達遅滞という障害を持っていますが一般就業者としてこの会社で働かせて貰っています仲が良い人はこの会社には誰もいません常に付かず離れずの関係を保っているだけです周囲からは[コミュニケーションが足りないからもっと話してみたら]と言われますけれど下手な事言えないし言ってしまったら所長室に行かされ[明日から来なくても良い]と言われるのがオチだから敢えてこっちから相手に振らない事にしています[あっ関池さん今日のCSレジ印刷全般を担当してくれないかしら3人とも手が塞がっていて出来ないのよ]と留蘂が言うと[はい解りました]と返事をし作業の場所に行こうとしたら続けるように[焦んなくて良いから確実にやってね焦ると良い結果にならないから]と言われ[はい解りました]と言い作業の場所に行った<印刷機械の機械音それから警報装置の音>私がここの仕事を始めて2年が経ちましたまだまだ仕事内容が覚えられずにいますでもこの会社に居る皆さんは私が出来ていない分フォローをしてくれています私も出来る事は進んで挑戦しょうと常に心掛けているつもりですしかし元々不器用な人はなかなか器用になるまで凄く時間掛かる物です本人的には必死になって頑張っているつもりでも評価っていう物は低いんだろうなと思ってしまいますまっ私は今の所褒められる事はなにもないかもしれませんけれど<ぼろアパートの一室>小学生なのか中学生なのか見分けが付かない少女が玄関先で立っている[お母さんちょっと話があるんだけど]と少女が言う[ごめんね今日ちょっと忙しいんだ帰って来てから訊くから]と慌ただしそうに一室を歩き回りながらまたもや母親らしき女性は言ったそれを横目で追いながら痺れを切らして[私!赤ちゃん出来ちゃったみたい]と少女が言うと母親は[あらそう]と言いながらまだ一室をうろちょろしていたが[えっ?ちょっと待って]と思ったのかその足を止め少女の方へ歩いて行き前に立って[それ本当なの?]と訊いた少女は[うん]と言い頷くと母親は血相を変えて少女を一室から追い出して慌てて鍵を掛けた無理も無い[この母親に赤ちゃんなんて禁句だった]本当はこんな事言いたくなかったでも言わなかったらいつかバレてしまうしどっちにしてもこの赤ちゃんの父親は母親が予想している人物とは全く違う人物だなんて言ったとしても絶対聞く耳も持たないはず結局ああでもないこうでもないと言い争ってしまうだけ無駄だと思った少女は仕方がなくアパートを出て街を少しずつ歩き始め辿り着いた場所は郭だった[いらっしゃいませ]と見世番らしき人が言うと少女は声を震わせ[あのここで働かせて下さい]と少女に言われ見世番は少し考えた末[解った良いよ入りな]と言い郭の奥を親指で指してドアを閉めた少女ははぐれないように見世番の後ろを付いて行った奥に入るや否や点々と灯りが灯り少し大きな音量で音楽が流れていたすると1つの牢の前で立ち止まり[君今孕んでいるんでしょう?]と見世番に訊かれ少女は青ざめた[心配しなくても俺らはプロだからねそれぐらい判るよ孕んでいるかいないか]と見世番は冷めた表情で言い鍵を開け牢に入るよう何も言わず促した少女は牢に入りそれを見ると再び鍵を掛け[安定期に入るまでここに居ろ働くのはその後でも良いから]と言い見世番は来た道を歩いて行ってしまったがまたやって来て[っていうかさ君の名前は?]と見世番に訊かれ[私の名前は坂戸実花です]と言うと[実花ね]と言って再び来た道を歩いて行った-2007年2月13日-実花と名乗った少女のお腹は5ヵ月に入り牢から出られるようになったが追い出されてしまった[悪いな察が出回っているようだしばらく身を隠した方が良いだがまだ君を雇っていない訳だから君は自由だ家に帰るのも良いし頼れる人に匿って貰っても良い訳だ]と見世番に言われ[お願いですここで働かせて下さい察に捕まっても良い獄中出産しても構わないです]と言ったが[冗談じゃない君もしかしてここを潰したいの?この郭が潰れたら君みたいな子の居場所が無くなるんだよそれでも良いの?]と見世番に言われ何も返す言葉が出て来なかった[もう少しそういうのを考えて解れよ]と言い見世番は郭の中に入って行った実花は再び街を少しずつ歩き始めたがどこも行く所がない事に絶望感を感じて涙が一筋流れそして堰を切った様に溢れ出したそれをチラチラと見る人々は実花から見ると冷たく感じたそれから空を見上げると高いビルの屋上と無数の星が瞬きキラキラと光っている実花はふと頭に過った言葉は[この子と一緒に死のう]だったすぐさま目に付いた高いビルの中に入ろうとしたがどのビルも閉まっていた実花はビルの扉を背に膝を抱え顔を埋め再び涙が溢れたすると一人の少女が近寄り[実花?実花だよね]と言い確認にやって来たのだその声を聴いて顔を上げると少女は驚いた表情を浮かべたそれもそのはずだったこの少女は2年前と数ヶ月振りに見る元幼馴染みの中安簾梛であったのだ実花とは7歳年上で一昨々年高等学校を自主退学し同級生達より早く社会人になって実家を離れて一人暮らしを始めていた[待ちなどうしてこんな所に居るの?]と実花の腕を掴み訊いた[別に良いでしょ未成年禁止区域っていう標識が無いんだから]と実花が言うと[標識が無くてもここは未成年禁止区域だわともかくここから出るわよ]と簾梛が言い実花の手を引いたが[簾梛姉には関係無いでしょ変な真似しないで]と実花が言って簾梛に掴まれている手の甲に爪を立て細い赤い線が刻まれ[痛い]と言い一瞬だけ腕を放し実花はさっき座っていた場所の方向へと歩いて行ったしかし簾梛は再び実花の腕を掴み振り向かせ[一体何が有ったの実花おばさんとまた喧嘩でもした?]と簾梛は訊いた実花は何も言わずそっぽを向き再び簾梛の顔を見て[そんなに知りたい?だったら率直に言ってあげる私妊娠しているのもう5ヵ月になっちゃったけどね]と実花に言われ簾梛は愕然とした[5ヵ月?っていうより相手は誰なの?おばさんはその事は知っているの?]と実花に訊いた[えぇ妊娠については知っているわでも相手は全く知らないっていうか馬鹿みたいだけどあの人ったら相手を勘違いしているのよ本当はレイプ魔なのに]と実花に言われさらに簾梛は愕然とし[レイプ魔…?]と呟いて言葉を失った[そうよ何度も犯され脅されたでも犯された事に後悔はしていないむしろ良い体験出来たといるわだって私犯されたあの日から[遊女]になれたんだから]と聞いた瞬間簾梛の背筋が凍り付き鳥肌が立ったとてもじゃないが普通の中学生が考える言葉では無いと簾梛は思った<関池家>[ただいま]と玄関から女性の声がしたが真陽琉は机に向かって何かを書いている書き損じのルーズリーフが散らばっているけど女性は気にも止めず自分の部屋に入って行ったのは真陽琉の妹の真夏である真夏は梓杏学院大学大学院の薬科医学部に所属している大学院生であるがこの頃は[監察医になりたいなぁ]と思い再び勉強を始めた真陽琉とはあまり話をしないそれに気が付いたのは真夏が物心付いた半年後だった気が付く前までは母親の成保珂や父親の貴憲に何度も注意されておりそれでもその事を理解する事は出来なかったそして自らが変な事も含めて全部が解らなかったそれが悲しいとも思っていたその後どんどんと月日は流れお互いに屋内外で疎遠になってしまっていたそれからもう一人真陽琉には妹が居る真白である真白は出版編集者になるため総合放送専門学校に通っていて入学早々から毎日留守がちになっているもちろんこの子とも疎遠になってしまっている真夏とはほんの少し違ってはいるけども同じ理由である事には変わりはない新名美誓これが自らが考えた架空の名前つまりは筆名である真陽琉は中学1年生から脚本を書き続けては投稿をしている今までの全てが佳作ばかりだがごく稀に[自分の作品に参加してくれませんか?]と誘われるしかし真陽琉は[佳作ばかり獲る下脚そんな人物に頼むくらいならもっと上脚な人物にお願いすれば良いのに]という思いを込めほぼ全てお断りをしているのだがこの3ヶ月間1通だけ毎週のように手紙が来るようになった送り主は[久坂智琉]もちろん面識は無いなぜ自らの事を知ったのか解らないけれどあまりにもお願いされるので1つ返事で承諾してしまったそのおかげで毎月500円は最初に消えてしまう成保珂が壁をノックし[いい加減諦めなさいこんな事お父さんも認めていないんだから]と言ったが[認めて貰うために遣っていない自分はこれが好きだから遣っているんだからほったらかしにしてよ]と真陽琉が言うと呆れた顔を作り[それならお父さんに見つからないうちに早く郵便ポストに出してきなさい]と言われ真陽琉は黙って成保珂を横切って玄関の方に行き靴を履いてドアを開閉したその日の夕食中再び真陽琉の耳に[里親]という言葉が入って来た真陽琉は無意識に頭の中に残っていたその言葉を思い出しながら聞き流していると父親らしき男性が帰って来たのだ今日もかなりのご立腹のようだけどもういい加減周りに煙たがられている事に気が付いて慣れてほしいと毎日思っている別にこの人の言っている事は間違えてはいないただその遣り方と言い方に厳しさと棘が有り真陽琉達を含めた周囲からは避けられているのだ[ご馳走様でした]と言い真陽琉が食器類を持ったまま立ち上がると男性が怪訝そうにテレビを見詰めていた成保珂は平然とした表情でその男性愛用のグラスにビールを注ぎスッと男性に差し出すと[ありがとう]も言わず一口飲みテレビに向かって[育てる気が無いなら産むなよ子供が可哀想だろうがって言うより先に今は忘れ去られているかもしれない赤ちゃんポストなんか知らないけれどそんな物が有る事態可笑しいと思うよそもそも里親なんて物心付いた子供がなつく訳無いんだよ本当に今時がよく解らない]等と自らが思っている事を言い捨て別のニュース番組に切り替えたそれを見て成保珂が小声で[もうお父さんったら]と呟きご飯を頬張った-2007年4月13日-実花のお腹は7ヵ月に入りマタニティーブルーが始まっていた[実花気分はどお?]と久しぶりに実花に出会ったあの夜とは別人のように大人の化粧をした簾梛が言うと実花は何も言わず布団にくるまって寝たふりをしていたそんな事はこの2ヵ月で既に気付いてはいるがあえて突っ掛かったりせず然り気無く[そろそろ仕事に行くけどご飯ここに置いて置くわね]と言い外に出て行った簾梛の職業は無料雑誌編集社のアシスタントをしている毎日のように中卒という理由で周りから雑用扱いされているがそれでも周りと対等に仕事をこなしている[おはようございます]と頭を下げ次々と諸先輩達に言いながらやっとの思いで席に辿り着き鞄を置いて給湯室に行くのが簾梛の日課でも簾梛は入社当初からこの日課を快く思っていない誰しも通る経験かもしれないがどうしても大嫌いで仕方が無いし時々だがコーヒーや紅茶に雑巾汁を少し入れたいという気持ちに駆られるしかしそんな事をしても鬱憤は晴れる訳が無い取り敢えず今日も愛想笑い等を使って遣り切るしかないと思い直しお茶を持って行くそれが終わるとやっと仕事に取り掛かれるでも一人前にアシスタントを遣らせて貰えるとは限らず…[おい中安これ頼むわ]と政督大学卒業で8年先輩の豊原颯頼のように嫌がらせで大量の書類整理を頼んで来るのだそれでも簾梛はそつなくこなす事に集中している<3時間後>[豊原さん出来ました]と言うとそれまで陽気にしていた豊原が目を丸くして簾梛を見て苦笑いをしながら[あ…ありがとう]と言った次は[中安さんこれお願い出来るかしら]と言う瀞誓女子短期大学卒業で4年先輩の稲垣由衣がまだ校正されていない原稿を持って来た本当にこの会社の人々は人を馬鹿扱いをするそんなに人を虐めたかったら虐めが出来る場所に行けば良いのにと簾梛は思うけれどもそんな場所なんてどこにも無い事を思い知らされ不意に悲しくなってしまったそれよりも校正なんて初めて遣る仕事であるこれの片付け方が解らないふと一瞬ある人物の顔が出て来た保育園園児時代から中学時代まで共に過ごし最近偶然的にブログを通して再会した間原月琉こと倉村郁聖[あの子だったらお願いを聞き入れてくれるかもしれない]と一か八かで郁聖のブログに[お願いがあるからこのコメントを見たらひかりを伝に私に連絡先を教えて貰ってくれる]と書き送信したひかりというのは園崎ひかりの事をいうひかりは小学校時代から高校時代の少し前まで共に過ごし気付いたら共通の友人になりそして親友にまでなっていた簾梛は取り敢えず連絡が来るまで校正作業の真似事でもしていようと思い適当に校正に使うであろう道具を用意したすると早速メールが入ったがホーム画面には[新規コメントが入っています]と知らせる物だった念には念を押して恐る恐るメールの受信ボックスを開くとそれぞれのフォルダに1件づつ入っていたつまりは合計8件そんなのはどうでも良いとして[おはよう倉村郁聖です]と書いて有りホッとして本文を読んだ[コメントの内容解ったよでも今学校な事忘れていない?学校に携帯電話持って来てないんだよ普通今日は奇遇に持って来ていてコメントを書いているけどで頼み事ってなに?]と書かれているのを見て苦笑いをした冷静に考えれば彼女達はまだ専学生で普段から携帯電話など持って来てはいけない校則があるちなみに専学生っていうのは以前廉梛が通っていた私立藍綬高等学校の専門学部学科生の事を言う[ごめんすっかり忘れていたわ入学前連絡取り合っていたのにね]と書くと[早く用件を言って出来る仕事なら手を貸すよ]と書いてあり[ありがとう突然で悪いんだけど校正を教えてくれない?]と書いたら[解った委せといて]と書いたあとものの数十秒間で郁聖はひかりに連絡先を教えて貰い電話をしてくれた出会ってからいつも感心する郁聖の能力は凄いとそれはこうして電話越しでも頭の中で記憶したテキストの中身を速読と暗記で校正が出来上がってしまうのだからこの能力を持った人は数少ないだろうと簾梛は思いながら小声で原稿を読み懸命にペンを動かしたがタイムリミットが来てしまいそこで切れてしまった致し仕方が無いとは言え色んな意味でがっかりしただってこのまま行くと誰も助けてはくれないはずだ仕方が無い降参しようと思い立ち上がって3~5歩歩いた瞬間誰かの胸元に当たってしまった[これはヤバい]と思い慌てて距離を離し[すみません]と頭を下げると[あっこちらの方こそすみませんでしたそれより…大丈夫でしたか?]と言い両肩を持ち簾梛の顔を覗き込むようにその頭を上げさせようとしたそのまま顔を上げると見知らぬ男性の顔が両目に映ったけれどもあまりにも簾梛にとっては嫌な空気だなと感じてしまいそのままその男性の横を通り過ぎ全く心からよく思っていない稲垣の机に置き[先輩申し訳ございませんが私校正なんて習った事ありませんので降参しても宜しいでしょうか?]と言うと稲垣は原稿に目を遣りそして次に簾梛を睨み付け[だったら早くこの会社から出て行ってよこの会社に中卒なんて必要無いんだから]と言われても簾梛には言い返す言葉も無くさっさと離れようと振り向いた時また誰かの胸元に当たってしまった今度のはさっきよりも軽くだったがちょっとびっくりした程度で良かったと思いそのまま通り過ぎようとしたが[ちょっと待って]と言い再び簾梛の前に立ち[君校正遣った事が無いの?]と訊いて来たこの問いには何度も訊かれた事がある[はい]と応えると笑い転げるというパターンだ[何を今更]と思いながらも正直に[はい]と応えると[じゃあ教えるよ]と言われ不意に拍子抜けしてしまったけれどもそんな事などこの人物は気にしていないのか稲垣の机に置いてあった原稿をひょいっと持ってそのまま簾梛の机に行ってしまい呆然と立っている簾梛に[早くおいでよ]と言っただがまだこの状況が呑み込められずに簾梛は戸惑ったような空返事をして自分の机に戻った席に着くや否や[君って新人?]と訊かれ少し間を置いて[私は…]と言って少し考えた高校を自主退学したのは16歳の夏休みが間も無く終わろうとしていた日だったそれから1ヶ月後に父親の友人の紹介で入社してしまって…[もうすぐ2年ですけど]と卑屈っぽく言うと[へぇある意味俺と同じ新人みたいなもんなんだぁ]と納得した言い方で微笑んだ簾梛はその微笑み無視し間を空けて再び卑屈っぽく[とにかく今回は本当に申し訳ございませんが宜しくお願い致します]と言い無表情で深々と頭を下げた男性は[えっ良いよ敬語なんてさっきも言ったじゃん[同じ新人なんだね]ってだから新人同士仲良くしようよ]と軽く言われ簾梛は心の中で毎日痛感させられている悔しさが一気に爆発しその場から離れた涙をこぼしながら行き着いた場所は39号会議室だったここは簾梛が入社して7ヶ月後初めて企画を考える機会を与えてくれた会議室なのだが…[なんだね君はノックもせずに入ってくるなんて失礼だぞ]と別の部署に所属している部長の半村太輔の怒号が飛び慌てて[あっ申し訳ございません]と言い廊下に出て行き[そういえば今日は管理職社員会議だったんだっけ最悪と言うよりも今日という日が最低だ]と心の声で言い行き場の無い怒りをどこで吐き出せば良いのか考えていたでも答えはでなかったその時[一体どうしたって言うの?突然席を外したりして]と小声で言う言葉を左耳から聞こえそっと左を見るとほんの少し汗を滲ませたさっきの男性がしゃがみ込んで再び簾梛の顔を覗き込むように見詰めているその表現からして真顔で怒っているようだった簾梛はそれに臆さず[放っといて下さいどうせ私はろくに仕事が出来ない人間なんですから]と言い再び歩き始めると[それは良く無いよなんで諦めるんだよ少し出来ない事が有ったぐらいで]と言って小走りで簾梛を追い掛け追い付いた所で一緒に並んで歩き始めたすると突然簾梛が小さく鼻をふんと鳴らしその口元にははっきりとうっすら微笑みがこぼれまるで被虐快感に浸っている様に見えた[そうかもしれませんねまだ2年目だし評価されないのは当たり前なはずなのに]と言いその後徐々に表情を曇らせ[でもそれが毎日許せないんですいくら頑張って挑戦しても報われない悔しさが毎日繰り返されて今私心が折れそうになっているんです解りますか?貴方には?]と言われ男性は急に立ち止まり振り向いた簾梛にぶつかりそうになり慌てて立ち止まった瞬間バランスを崩し不意に簾梛の唇に口付けをしたその行動に驚いた簾梛は男性の顔のどこかに平手打ちしてしまい[最低]と言い放って来た道を折り返して自分の席に戻って行った男性も後を追い掛け簾梛の姿を探し席に着いて俯いている簾梛に[あぁ…さっきはごめん悪気は無いんだ本当に…ただ君が急に立ち止まったからバランスを崩して…あんな事をしてしまった訳で…悪いって思っているごめん]と言い[あっそうだった早くこの仕事終わらそうよじゃないとまた嫌な事言われてしまうでしょ]と言ってさっきより少し距離を取り校正を再び教える事にしたしかし簾梛の警戒心はしばらく続く結果になった<関池家>真陽琉には毎週金曜日欠かさず観る番組が有るそれは障害情報バラエティーこの番組を観て意見や感想をよく呟いて楽しんでいる今回のテーマは[親]ついてだった何度も話しているが私は妹の真夏が生まれて直ぐ位から[親]ってなんだろうと思い続けていたその答えはまだ見付かっていないし兄弟姉妹についてもいつまで経っても解らないまま大人になったと言っても過言では無いでも一度でも良いから親になってみたいという憧れはまだ数えられる範囲ではあるが持っている画面にはパラパラ漫画の様に1枚1枚写真を捲っている映像が出てから[皆のための障害情報バラエティー]と言うナレーション担当の戸倉由樹さんの声と同時に字幕が出て来てその後に障害情報バラエティーBFTと書かれたタイトルテロップが大きく表示されてから[今日のテーマ:親]と言うテロップと同時に再び戸倉さんの声が流れダイジェストの様に編集された映像と一緒