前回の出張で、那覇空港から福岡へと向かう飛行機の到着時間が、女房のパートの終了時間よりも早かったので  (迎えに行こう!)
冷たそうな霧雨の夕暮れに、車を急がせた。

もうすぐで、彼女が働いている商業施設。

コンビニエンスストアの交差点の信号待ちで閉じていた瞼を開けたと同時に  その(ハッとするような)素顔が、俺の数少ない記憶のメモリーに間違いなく  それこそ鮮明に焼き付いた。

自転車に乗った彼女は、瞳を大きく開けて、今、青色に変わった交差点の反対側の車線を走り過ぎて、俺が、たった今  運転してきた方向へと、走り過ぎて行ってしまった。

白い吐息と、子供のような  寒そうな君の  そんな素顔、初めて見た。



まだ、間に合うかも知れない。



早く、追いかけて自転車ごと車に乗せて、セブンイレブンのコーヒーを飲ませてあげたい。
次の交差点をUターンさせて、彼女の後ろ姿を目指して、薄暗くなった  灰色の雨空の街を俺は、急ぐ。

しかし、彼女の笑顔に追い付く事が出来なかった。車を無造作に駐車させて、アパートの玄関前を見ると、冷たい雨に射たれたままの自転車が見えた。

あららら…………。仕方ない。帰ろう。

ぎゅうぎゅう詰めの重たいバッグと黒砂糖が原料の沖縄のお菓子を両手に握りしめて  頭でドアをノックした。

(おかえりなさい!早かったね。)


いつもの、見慣れた笑顔が  そこにあった。

不覚にもポロリと涙が出た。

つい、先程  目にした素顔とのギャップが、本当にありがたくて。

(今日は、寒かったやろ?)

(うん。私も今、家に着いたばかりよ。)

汗を拭うような仕草で涙を長袖に染み込ませながら、靴を脱いで部屋に入るとニヤニヤと笑いながら  (パパ、おかえりなさい!)

コタツの中から娘たちが、手を振った。



今日、3月22日は  俺達が結婚した日で  また、君の43回目の誕生日。

午後から出張で広島に向かいます。