昭和55年 夏。大好きな入道雲はビルに遮られて見えない。智恵子抄では無いけれど見上げる青は、色褪せていた。岩田屋伊勢丹の地下街はセンタープラザというテナント街で噴水の前で熱く火照った身体を冷ましながらの一服は頭がクラクラして別世界に訪れた感覚だった。周囲の視線も気にならなくなっていた。目をギラギラさせた痩せこけた糞ガキが半人前の分際で一人前を気取って美味くもないホープを味わう演技はまるで素人芸人。見せ物小屋の蛇女に自身を重ね合わせていたのだろう。今朝 自宅療養中の立場故に、家族が朝食の傍ら視聴していたテレビの番組から某お笑いタレントの自伝の情報が流れていた。幼い頃 彼もホームレスだったらしい。物珍しそうに コメンテ一タ一が会話していたが、そんなに珍しいものでもないぜ。少なくとも俺の周囲には俺も含めて二人は居たぞ。まあ どうでもいいけど……。 王君の奢りでセンタープラザにある京屋うどんで彼と最後の会食をした。素うどんだといって馬鹿には出来ない。スープのダシがしっかりして旨いもんだ。生まれつきの大富豪には この味わいは解るまい。旨い料理ばかり口にしてたら舌が麻痺してしまう。ご馳走はたまに食するから旨いんだ。最後のスープを呑みほし店を後にする。階段上の出入り口から焼けつくような風が俺たちの横を通り過ぎていく。もうすぐ二人のありふれた夏は終わる…。