王君の母親は俺に大変良く世話をして下さった。女手ひとつで王君を養って居られた。関西から熊本へ越して間もなく夜の仕事で生計を立てていらっしゃった。中でも一番記憶に残っている出来事は仕事帰りの料理屋でお好み焼きを買って来て貰ってご馳走になった事だ。とにかく ハングリーな夏だった。幾つもの思い出をかき集めているが映像の中の俺は どの場面でも腹を空かしている。俺の育った街には たこ焼きはあったけれど、お好み焼きは無かったのだと思う。それ以前の記憶に食べたという認識が無いから……。いや、仮に食べた事が有ったとしても あの夜に食べたお好み焼きの鮮烈な美味しさの前に記憶から消去されてしまったのだろう。 「デラだから高かったけど本当に美味しいよ」 関西弁に転換出来ないけれど「熱い内に食べなさい。」と声を掛けて頂き ワンパックの包みの中身を王君と半分に分けてご馳走になった。俺も親となり あの夜の見えなかった親心が有り難く感じている。恐らく あのお好み焼きは、王君親子の遅い夕食だったのだろう。「私は食べて来たがら 二人で食べなさい。」…… あの時のお好み焼きの味を俺はいつまでも忘れる事はないでしょう。