おどろおどろしい光景だった
薄暗い部屋でジェイソンのようなマスクを装着し
患者を落ち着かせるためなのかBGMが流れていたが、その違和感がより一層不気味さを増し不安をかき立てた
一体何が始まるのだろう
妻を残して部屋を出た
脳転移のため脳には癌細胞がいくつも散らばっていて、その細胞に水が溜まり、それが脳を圧迫し言語や運動機能に障害が出ていた。その細胞が無くなるか小さくなれば症状が出づらくなるらしい。そのための全脳照射だった。既に3回水を抜く処置は施されていた。そのため頭にはプラスチックのチューブが埋め込まれたままだ
先生からは
全脳照射による害は直近としては髪の毛が抜ける。数年後に記憶に障害が出る可能性があります。本人にとっては嫌な説明になりますけど3年 5年先まで命頑張れますよというならば考慮しなければなりませんが、今の状況を見てみるとそんなに頑張れるという状態ではないと考えると全脳照射による弊害を必要以上に恐れる事は無いのかなと考えます。 と
2度目の余命宣告を受けたようなものだ
去年の今頃
最初の抗がん剤の副作用で抜けてしまった髪がまた生えてきて、あんなに嬉しそうにして写真まで撮ったのに
この全脳照射でまた髪の毛が抜けてしまった
1日中ソファーに座り、少しづつ抜ける自分の髪の毛を粘着テープで取っている
それを毎日毎日繰り返す姿は見ていられなかった
「ねぇ もうやめて もうやめよう」
そう言って妻を抱きしめた
この全脳照射という治療は本当に必要だったのだろうか?
また辛い思いをさせている
少し遡ってみればそもそも抗がん剤治療をやるべきだったのだろうか?
辛い思いをして
この先何があるわけでもなく
薬によってただ生かされている
たとえ寿命が縮まったとしても もっと自分らしく生き、短いながらも人生を全うした方が妻は幸せだったのではないかと考えてしまう
正解がわからない