今俺の片手には准一の手と花が握られている
健の片手には准一の手とバナナが握られている
真ん中の准一4歳はちっこい手をぶんぶん振って
俺と健を引っ張るようにズンズン歩いていく
「剛くんも健くんもはよう来て~や」
「准ちゃんそんなに急がなくても大丈夫だよ」
「何言うてんねん!パパもまーくんもヒロチもまってるやろ」
「おとうさんを呼び捨てにしちゃだめ!」
健と准一の言い争いが始まった
あ~あ…そんな事よりみんな心配してっぞ
ふたりのやり取りに剛は少々呆れ顔
今日は我が家に義兄と弟が集まっていた
今日は亡くなった妻の命日だ
弟の快彦は世間では割と有名なアナウンサー
人の気持ちに敏感でとても優しい男
我ながら自慢の弟だ(本人には言わないけど(笑))
義兄の坂本昌行は亡くなった妻の兄であり高校の先輩だ
妻が亡くなってから剛と健の面倒もよくみてもらっていて自分の子供のように可愛がってくれている
花屋に花を取りに行こうと思ってたら
剛が俺が行って来るって言い出して
そしたら僕も行くって健が言い出して
ふたりの会話を聞いていた准ちゃんも一緒に行くって…
すぐ近所の花屋だから大丈夫だと思って見送ったが
いつもなら30分もかからないところなのに
1時間近く経つのに一向に帰ってこない
「なぁ、あいつら遅くないか?」
坂本くんが心配そうに呟いた
「そうだね…ちょっと遅いね」
「准ちゃんに何かあったら俺生きていけない」
准一の父である快彦はもう涙目になって部屋をウロウロ
「おかしいなぁ、ふたりとも何度も行ってるんだけど」
快彦…俺だって剛と健に何かあったら生きていけないよ
ピンポーン…インターホンが鳴って急いでモニターを見たら画面いっぱいにチビ達3人の顔が映っていた
慌ててオートロックを解除して玄関に向かった
ドアを開けてエレベーターの前で待ってると
真っ先に飛びついて来たのが准ちゃんだった
何故か片手にバナナを握ってた
ニコニコの笑顔で得意気に
「おばあちゃんにもらってん」と自慢している
遅れてきた弟の快彦を見付けると
「パパ、バーナあげる」
これまたニコニコの笑顔で快彦に食べさそうとしてる
准ちゃんそれ皮ついたままだから(苦笑)
それでも快彦は嬉しそうに笑って
「准ちゃんありがとう」ってギュギュギュと抱き締めた
「キャッキャッキャッ」准ちゃんの楽しそうな笑い声
剛と健がちょっとバツが悪そうにして立っていた
「剛、健ちゃん、ちょっと遅かったね」
「とーちゃん、『おとうさん』ごめんなさい」
ふたりの声が重なって今にも泣き出しそうだ
「どうしたの?心配したんだよ」
怒ってるんじゃないって伝えたくて優しく聞くと
「花屋行って帰ろうとしたら信号の所でばあちゃんが荷物抱えて大変そうだった…」
「おばあちゃん一人で大きなお荷物抱えてたの…」
「健と准一と3人で荷物運ぶの手伝ってたら時間かかっちゃってさ…」
「お荷物運んだお礼にっておばあちゃんがバナナくれたの」
「そうだったんだ。剛も健ちゃんも偉かったね」
くしゃりとふたりの頭を撫でると
「とーちゃん、『おとうさん』ただいま~」
やっと笑顔になって大きな声で抱きついてきた
ホント何もなくてよかったよ
隣で笑っていた坂本くんが
「さぁ剛、健、お母さんにお花見せなきゃ」
急いで帰って来たのだろう
力が入って握りしめたであろう花は少し萎れていたけれど一生懸命頑張ってくれた3人の気持ちが嬉しくて
「剛、健ちゃん、准ちゃんおつかいご苦労様」労いと感謝を込めてもう一度「ありがとう」とお礼を言った
部屋に戻るとたくさんの御馳走がテーブルに所狭しと並んでいてチビ達3人は狂喜乱舞だった(笑)
准ちゃんは父親である快彦の膝の上に座り目の前の唐揚げに夢中になっている
健は当然のような顔をして俺の膝の上へw
剛はお兄ちゃんだからなのかいつもなら俺の隣に座ってるのに何故か何食わぬ顔して坂本くんの膝の上へw
坂本くんも少し驚いてたが産まれた時から可愛がっている甥っ子に、しかもかなりのツンデレな剛に甘えられて照れながらも嬉しそうだ
目の前の豪華な料理は全て坂本くんの手作りだ
ちなみに坂本昌行(独身)
カフェレストランのオーナー兼小さな料理教室を開いていて料理教室は半年先まで予約がいっぱいだ
グルメライターの俺が贔屓目無しにお薦め出来る店だ
本人には言ってやらないけどw
この後一騒動あったことはまた別のお話(笑)



