2002年、山田洋二監督の時代劇。

山田洋二監督と言えば寅さんだが、3部作として制作され、その第一弾。

 

出演は、真田広之、宮沢りえなど。

 

山田監督は、徹底したリアリズムに拘った。構想に10年以上、時代考証に1年以上をかけて、家屋や城内の様子、さらには髷に至るまで従来の時代劇とは異なったアプローチを展開、苦心の末それらが見事に結実した。

 

特に夜間のシーン。

当時街灯など存在しないにもかかわらず不自然な明るさが見受けられる時代劇映画が多い中で、まさにこのような暗さであったであろうと観客を納得させ、映画全体の彫りを深いものにしている。

 

屋内での決闘シーンにおいても、その屋内の暗さは、その迫力と合わさってリアルな立ち回りを演出している。

 

時代劇において頻繁に見られるダイナミズムの欠乏やラストシーンの存在意義など、議論の対象とされる箇所も見受けられるものの、近年低迷する時代劇および日本映画の中で高い評価を得た作品となったのだ。

 

寅さんばかり語るのは、これまでにしたほうが良さそうだ。

 

日々の暮らしに追われ、着の身着のままの貧乏生活で身なりが薄汚れていく清兵衛(真田広之)。同僚の中には、そんな彼を陰で「たそがれ清兵衛」と呼んで小馬鹿にする者もいた。

 

ある日、清兵衛が帰宅すると、そこには美しい女の姿があった。朋江(宮沢りえ)であった。「機織ばかりさせられて退屈だから」と飯沼家を抜け出し清兵衛の家を訪ねていたのだ。楽しそうに幼少時代を懐古したり娘たちと遊んだりする朋江に、清兵衛は再び淡い恋心を抱いた。

 

一方その晩、飯沼家では酒に酔った甲田が朋江と離縁させられたことに腹を立てていた。夜道、朋江を飯沼家まで送ってきた清兵衛は、暴れる甲田を取り押さえ、果し合いの相手をすると宣言してしまった。

 

翌朝、城下の般若寺裏の河原で相対した清兵衛と甲田。真剣を抜き「斬るぞ」と息巻く甲田を、清兵衛は木刀1本であっさりと倒し、その噂は広まっていった。

 

旧体制を率いてきた藩士は後継者争いに敗れたため彼等の粛清がはじまった。粛清されるべき人物の中に、一刀流の使い手・余吾善右衛門がいた。余吾は切腹を拒絶したばかりか、討手の服部某を斬殺。自らの屋敷にたてこもっていた。

 

海坂藩は、甲田を倒した清兵衛の剣を見込み、その任務を命じる。清兵衛は断ったが、家老はそれを許さなかった。

 

翌朝、清兵衛は朋江を自宅に呼び、身支度の手伝いを頼んだ。決闘を前に、清兵衛は秘めていた想いをついに打ち明ける。「果し合いに打ち勝ったら井口家に嫁に来てほしい」と。しかし朋江は清兵衛に縁談を断られた後、会津の有力な家中との縁談を受けてしまっていた。

 

余吾の屋敷。意気込んで乗り込んだ清兵衛が見たのは、憔悴した余吾善右衛門だった。「お主とすこし話がしたい。まぁ、かけんか」

 

苦しかった浪人時代…労咳で亡くした妻子…藩のために一心に働いた末に命じられた切腹…互いの苦しい境遇に共感しあう清兵衛と余吾。しかし清兵衛が妻の葬式代のために父から譲り受けた刀を売ってしまったことを知ると、余吾の目付きが変わった。小太刀でやっつけるなど、もってのほか!

 

壮絶な果たし合いに打ち勝った清兵衛は、傷だらけの体のまま自宅に戻った。朋江を思い生きて帰った清兵衛。清兵衛の無事を待ちつづけた朋江。2人の心が重なり合った…

 

第26回日本アカデミー賞では全部門優秀賞受賞を果たし、助演女優賞を除く全ての部門で最優秀賞を獲得した。また、第76回アカデミー賞において外国語映画賞にもノミネートされるなど、海外でも高い評価を受けた。

 

やるな、山田洋二監督。

この次は、三部作の2部で。