母の面会で 居室にいる時、

私の背後から 挨拶をする声がして


入ってこられたのは、
施設の往診に来られた先生でした。

私たち親子の、いや私の家族の
ホームドクターの先生です。

30年近い付き合いのある

かかりつけの先生です。



現在、私も 先生の患者です。

先生は はっきりと 大きな声で
母に声をかけられます。

すると、目を閉じていた 力のないはずの母が


目を開けて、先生の方へ、
弱々しくも両手を上げたのです。

明らかに表情がかわり、力が入っていました。


先生に何か訴えています。

以前から 足が痛いと言っていたので、

おそらく 痛みをとってほしいと

お願いしているように見えました。


痛いところを自分で触っています。


先生が、

注射しようか❓

と言われると、小さく頷き、

注射は、嫌だなあ❓
と問われると、

思い切り首を横に振っていました。、

治るなら、注射の痛いのを我慢するのかと


私が聞くと、 小さく頷きました。


…だそうです。
と、私が先生に言うと、
先生は苦笑いして困ってました。

もう、注射どころではないから。

湿布を貼ると、皮膚が薄くなっていて
剥がす時大変なので
せめてジェル状のものを塗布してよいか
聞いてみようかと思いました。

酸素マスクをして、目を開けるのも
しんどそうな母が、
先生の声に対して 大きく反応し、
嫌いな注射をしてほしい。

と訴えるのは、先生を信頼しきっている

証拠だと思います。

そして、しんどい時の

心のよりどころとなっている人。

私も直接 先生に質問しました。

点滴を希望するか、決めておいてほしい、

とナースから言われているのですが、

その点滴はどんな効果があるのか。

先生、ためらいもせず
「格好だけです。」 と。

そうですよね。

「本来、水分補給のためだけど、
点滴して、どれだけ体に取り込めるか。
それに、注射がすごく痛いから。」

家族に対して、何もしていないのではなく
これだけのことをやってますよ。

と、目に訴える効果ほどしか

ないのです。


先生は、私が介護士として働いていた事、
何人もの利用者を最期まで看取って

知識がある事を 知っているので、


ストレートに聞く私に対して
ストレートに答えてくださいます。


点滴をしても

母の血管は、もろくなっており、

針がまともに入らない事、

点滴をしても漏れやすい事、

体も当然浮腫むので、本人にとって

苦痛になる事、


それらは わかっています。


母がまだ 会話をしていた時、

点滴は 痛いから嫌だ と泣いた話しをして、


兄夫婦とも、
今更そんな痛い思いを
させなくてもよいのではないか。

という結論になった事を  先生に話すと


先生は

そうなんですよ‼️

と言われました。

もろい血管に針を刺されるだけでも
どれほどの痛みがあるか。

しかし、どの選択をしたとしても、
全て私たちのエゴのように思える。

と話すと、
先生は、
〔知識に)助けられているんですよ。

と静かに言われました。

何も知らなければ、注射さえ
すればいいと思い、それが最良だと思う。

知識があれば、話し合って
納得のいく結論を出せる。

どちらにしても、倒れないようにしてよ。
と言われました。

今日も、何が母にとって一番苦痛なく
最良なのかを 考えています。


母は、認知症とはいえ 感情はあります。
助けを求めるには、職員さんや私達しか
ありません。
先生にあれだけの反応を見せたのは、
それだけ先生を信頼し、
自分を助けてくれる人だと
わかっているのです。

先生の信頼を得る方法は、
往診のあり方なんだろう と
しみじみ思いました。