交通事故で臨死状態となった小山たまえ(のん)は、天界と現世の中間の町・三ツ瀬にある天間荘に宿泊する。そこには大女将(寺島しのぶ)と女将・のぞみ(大島優子)、のぞみの妹・かなえ(門脇麦)が住んでいるが、のぞみとかなえは、たまえの腹違いの姉であった。いずれは、死を選んで天界へ行くか、現世に戻り臨死状態から生還するかを選ばなければならないたまえだったが、天間荘で暮らすうち、彼女は家庭の温かさを知り、天界にも現世にも行きたくないと思い始める。。。

原作漫画を読んでいなくても、ストーリーが進行すればこの作品が東日本大震災に関係していることが判るだろう。物語の終盤には、揺れる町と津波がしっかり描かれ、あの未曾有の大震災で被災した人々を新たな切り口で描いた作品であることが明確になる。
多くの人々の命を奪ったあの大震災をモチーフに描いた映像作品は数多くあるが、本作は、「亡くなった人々」と「大切な人を亡くした人々」の心のつながりを描いた秀作。
そして何よりも特筆すべきは、本作がこれまでの描き方では決して無い、新しい形の「鎮魂」を描いていることだ。

たまえは、現世では一人ぼっちであったが、天間荘では家族に囲まれ充実した日々を過ごす。いずれ天界に行くか現世に戻るかを決断しなければならないが、生きられる人は生きるべきという本作の結論は、やはり支持したい。
父は、たまえに「人は死んだら終わりではなく、現世で生きる人たちの心の中で生き続ける」と説く。
あの震災で生きたくとも生きられなかった大女将と2人の姉そして父は、現世に戻ったたまえの心の中で生き続ける。
これこそが究極の「鎮魂」なのだ。

三姉妹を演じたのん、大島優子、門脇麦は、そのキャラクターの個性を見事に活かした名演。
その脇を寺島しのぶ、永瀬正敏、そして三田佳子がしっかり固め、堂々の2時間半の大作を存分に楽しませてくれた。

 

☆☆☆☆☆(星5つ・満点)【10月29日観賞】