今回は久々の読書感想文ですがこの投稿に”AI”は一切使用しておりません(笑)。さて読み終えたのは小川哲著”地図と拳”です。小説の舞台は旧満州で長い時間軸(日露戦争前夜から戦後まで)の中で世代を超えて展開していきます。自分は歴史小説が好きなのと母親家族が北海道から満州に渡ったので一度読みたいと思い、図書館に予約したところ人気が高くて4ヶ月ほど待ちました。この小説の特徴は主人公と思しき人が複数登場し、全17章の中で時間の経過と共に交代していきます。小説では日中戦争や太平洋戦争を満州国からの視点で描かれており、主人公たちはある意味でとても冷静というか醒めた目で見ています。やがて戦局が不利となると撤退を”転進”、全滅を”玉砕”と表明している本国の戦争方針に彼らは絶望し、敗戦を確信していきました。
細かい内容については避けますが印象に残った二点をご紹介します。まずは小説の第14章冒頭で泥棒の”城島源造”なる人物が登場しますが彼曰く、泥棒が恐れているものは3つあると述べていてなかなか興味深かったです。その3つとは以下のとおりです。(以下本文より抜粋)
1.住人の寝言~訳の分からない言葉ならまだしも意味の通った内容を口にされると思わず心臓が止まりそうになる。
2.噛みつく犬~吠える犬は住人も分かっていてそれだけでは起きてこないが噛みついてくる犬は始末に負えない。
3.雨の日~雨音は侵入音を消す効果はあるがその分住人の眠りも浅く、手すりや壁が滑りやすくて地面には足跡が残る。
言われてみればなるほど納得ですが作者は一体どうやってこのような泥棒の心情を手に入れたのでしょうか(笑)
もう一つは小説に登場する架空都市の”仙桃城”が実際には撫順である事です。と言いますのはこの架空都市は奉天(現在の瀋陽)の近くで炭鉱都市という設定になっており、その条件に合致する場所は撫順(ぶじゅん)以外にはあり得ません。その撫順には母親家族が満鉄の保線・警備強化の為、北海道から移り住んでいたので小説には急に現実味が帯びてきました。満州国建国の主たる目的は資源確保でその代表格が当時”世界一の露天掘り”と謳われた撫順炭鉱です。
ここで採掘した石炭を石油に転換しようとしましたが当時の技術力では無理だったようです。やがて新たな石油資源を求めて南部仏印へ進駐、その結果アメリカとの対立が激化して最も避けたかった対英米戦=太平洋戦争に自ら舵を切ってしまいました。真珠湾攻撃を聞いてアメリカの参戦を確信したソ連のスターリン、中国の蒋介石、イギリスのチャーチルは大喜びしたようです。相手が大喜びするなんてそんな戦争ありますか?
最後に集英社さんへの要望になりますが本が分厚過ぎて読みずらいので(笑)二部構成にしてもらえないかと思います。
と言う訳で本日は“地図と拳”という小説のご紹介でした。おしまい。
母親の両親が故郷~北海道~満州~引き揚げと国策に翻弄された状況を投稿しておりますのでご興味ある方はご覧ください。