中島みゆき「世情」③ | 愛 カラオケ

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日本にはイイ歌が多すぎる

  

 

 

 

  私の「中島みゆき体験」を書く。

 

 17年前、中島みゆきさんが作った曲「すずめ」に心を奪われた。

 

 曲を提供された増田けい子さん(元ピンクレディー)が、テレビ番組で歌っているのを聞き、心がビクッと動いて、CDを買い繰り返し聞いた。

 

 ♪♪…別れの話は陽の当たる

    テラスで紅茶を飲みながら 

    あなたと私の1日の1ページを読むように

 

    別れの話をするときは

    雨降る夜更けに呼ばないで 

    あなたと私の一生が終わるように響くから…♪♪

 

 女性の失恋の物語である。

 女性の未練心の奔流(ほんりゅう)である。

 

 半月近く毎夜、増田版「すずめ」を聞いた。少しハスキーな声が趣を増した。ヘッドフォンを使い、音量を大きめにした。

 

 CDプレーヤーの横に置いてあったテレビの画面に、ヘッドフォンをつけた私自身の首から上が映っていた。50歳ちょうどのおじさんである。

 

 

 酒が進んだ。

 やれやれ。

 

 ♪♪…私あなたにもらったパステルの

   私の似顔を捨てたいわ

   焼くのはあまりにつらいから 

   夜の海に捨てたいわ…♪♪

 

 

  夜の海を永久に漂う似顔絵。

  未練の地獄なのか、それとも

 

  さらに酒が進んだ。

 

                

 

 「中島みゆき ミラクル・アイランド」(新潮文庫)を読んだ。

 

 このブログを書くためである。

 

 本は1986年刊。270ページ。中島さんと詩人の谷川俊太郎さんの対談を柱に、30人余りの音楽評論家、文学者らが文章を寄せている。

 

 

 「恋愛感情の不条理」「おいてけぼり」「深いあきらめ」「だまし絵に引き込まれる」「喪失感の先取り」「苦しむ自我を見詰めるもう一人の自我」

 

 例えばこうした調子の文芸的なワード(語句)が各文章で駆使されて〝みゆきワールド〟の深い場所を探求している。

 

 よく分からない文章も多い。何度か熟読すると表向きの意味は分かる。しかしどうしてこうした理屈(またはヘ理屈)を持ち出す必要があるのかが了解できないのだ。

 

 まあでもそんなもんだろう。芸術系の評論文は、難解すぎるのがデフォルト(標準)だからね。平易だと馬脚を現しやすい。まして相手は油断禁物のみゆきさんだし。

 

 

 

 しかしなかで映画女優・山口千枝さんの「アマンド・ピンクの夢」が私には感じるものが大きかった。

 

 ひとつ挙げるとこんな箇所だ。

 「かっこ悪さや、ひがみや、未練たらたらのグズや、ねたみや恨みやおめでたさを、微に入り細に入り、きめこまやかに、たくみに唄うことで、女のこたちの胸をキュンとさせ、鼻水流してみっともなくふられた自分の姿をどこかですりかえて、うっとりさせてくれる。(略)。悲劇のヒロイン気分にさせてくれる。中島みゆきはペテン師だ。それも上等な」

 

          

 

 夜の海(おそらく海底)をいつまでも漂うパステルの似顔絵がヒロイン気分を演出させるなあ、と気が付いた時点で、私と山口さんは、みゆきさんの同じ掌の上にある。

 

                        (続く)