5年ほど前の話。

父親が有名なお店のハンバーガーを買ってきてくれたので、実家に取りに行った時のこと。
無事にもらい、エレベーターで下まで降り、止めてあった自転車に乗ろうと外に出た時、雨が降っていることに気付いた。
傘を取りに再度実家に戻ろうと思い、ハンバーガーが入った袋をハンドルにかけて振り替えると、いつの間にかマンション入り口に男が立っている。

こういうと失礼だが、ホームレスのようなみすぼらしい格好の中年。
もちろん、知り合いでなければ見たこともない。

すれ違わなければ入り口に立てるはずはないので、不審に思いつつも、オートロックなので「開けますよ」と声をかけ一緒にマンション内に入った。
その流れで一緒にエレベーターに乗る。
階層を訪ねると、私の実家よりも低い階を指定した。
上昇中のエレベーターの中で、男が何かボソボソ言っている。

「雨、雨だねぇ…雨だねぇ…」

しゃがれた声でそればかりを繰り返している。

「そうですねぇ、降ってきましたね」

と、適当に相槌を打っていたら男の指定した階に停まった。

怪我をしているのか、片足を引きずりながら開いたドアに歩いていく。

突然、こちらを振り返り、大きな声で、

「ハンバーガー!ハンバーガーおいしいよねぇ!!」

と叫び、ゲラゲラと下品に笑いながら降りていった。

あまりにも突然な奇行にびっくりし、自然にドアが閉まるまで身動きひとつとれなかった。

その男がなんだったのかもわからなければ、それから見かけたこともない。

※当たり前だが、なぜ男が私がハンバーガーを持っているのを知っているかというのが問題になる。
知り合いにこの話をした際に指摘された伏線になりうる事象をひとつずつ否定しよう。

・入り口で出会った時にハンバーガーの袋が見えた
トマトが入ったジューシーなハンバーガーだったため、父がアルミホイルで厳封してくれたのち、ただのコンビニ袋に入れた。中身は予想がつかないどころかまったく外からは見えない。

・エレベーター内にハンバーガーの匂いが残っていたのではないか?
高層マンションのため、エレベーターは2台ある。降りてきたエレベーターと、男と乗ったエレベーターは別なのでその可能性はない。また、記載した通り、傘を取りに戻った時、ハンバーガーは自転車のハンドルにかけてきたため持っていない。