全然短いお話になって無いじゃん…なげぇよ、と思っている方。
もうしばらくお付き合い下さいm(__)m

Title 《消えない星になりたい3

■□■□■□■□■□■□涙が乾いて脱力しきった腰を上げると妙に身体が重く感じた。スーツのジャケットを脱ぎ捨てて、どのくらい放心しただろう…。
テレビもつけず、無音の空間。部屋の中はカーテン越しに渋い緑色の空気で満ちている。昴の気配が無い事で、余計に昴を感じてしまう。このまま眠って、考えるのを止めてしまいたい衝動にかられる。
何故、気付かなかったのか…。
何故、言ってくれなかったのか…。
俺には昴を追いかける資格は無いのかも知れない。
会いたい…。
でも、会ってどうしたら良いのか、分からない。
昴は、俺から去って行ったのに、会ってどうしたらのか…。
よくよく考えれば、勝手に被害者ぶっていた…。
用意周到に人を欺ける程、器用ではない昴が、あんなに綺麗さっぱりいなくなったと言うのに…。

突然、インターホンがなって我に返った。
深まった深緑の薄暗がりの中に異様な蛍光色で19:58とデジタル時計の文字が浮かんでいる。
こんな時間にうちを尋ねて来るやつの心当たりが無くて、玄関に意識だけ向けて黙っていた。幸い電気もテレビもつけて無いので完全な居留守状態だ。

「岡本ぉ、開けろぉー」
緩い声がくぐもって聞こえた。ため息が出る。
やれやれと思いながらも、玄関に向かい、扉を開ける前にもう一度躊躇する。
「居るんだろー」
ため息が出る。
「居ちゃ悪ぃかよ。ここは俺ん家だ」
玄関を開けるとにんまりと笑う高木がコンビニの袋を下げて、格好つけて立っている。
「飲もうぜ」
いやに真剣な顔。やっぱり開けるべきではなかった。こいつは俺の心の中を見透かすのが好きで、女にモテる上に仕事も出来て、お節介まで焼けると言うスグレモノなのだ。

「お節介か?」
「いや、友情でしょ」
「キモい」
「照れちゃって…」
軽口を叩きながら、高木はいそいそと部屋に上がり、コンビニの袋から買ってきた缶ビールをテーブルに並べる。俺は洗面所でコンタクトを外し、顔を洗った。眼鏡をかけ、部屋に戻る。「荒れてんなぁ」
「ほっとけよ」
「まぁ飲め」
雑然と散らかった部屋で、にこやかに笑いながら高木は既に自分の位置を確保して飲みはじめている。
俺はこいつが何故ここに来たかがわかっていた。だから玄関を開ける前に一度躊躇したのだ。何だか居心地が悪い。
「今日は女の予定はなかったのか?」
なるべく核心から遠ざかる「断った。男の友情はハムより厚いのだよ、岡本君」パーマなのかくせ毛なのか自然に流れる長めの前髪をかき上げながらニヤつく顔に本気でどつきたくなる。「頼んでねぇよ」
「あぁ、頼まれちゃいねぇけど俺が岡本と飲みたかっただけだよ」
こう言う台詞に女はひっかかるのだろう。高木は人を喜ばす言葉や仕草を良く知っている。自分がこうしたかったんだ、と意識表示をされると「迷惑だ」とはなかなか言えないもんだ…。「俺には大切な人なんて居ないからな…」
ぽつりと零した高木は、初めて見る顔をしていた。淋しい子供のようで、言葉をかけるタイミングを失う。タバコをくわえ、針山の様な灰皿をごみ箱にひっくり返して、テーブルに戻す。「お前は、確かに無愛想だし器用では無いけど…本物しか持って無い。俺みたいな偽物に囲まれて安心してるヤツとは違うよな…」
高木もタバコに火をつけ、宙を見ながら呟く。
「本物…?」
「あぁ、俺はちゃらんぽらんだからな。岡本みたいに信用も無いし、相手だってそれを承知の上で、俺のそこを利用するんだ。だから本当に困った時に、俺を必要とするヤツは居ない」
ニヤリと笑いながら、淋しそうな高木をどう扱って良いのか分からずに、俺は黙っていた。
「岡本は、相手が本当にして欲しい事しかしない。だから件数は増えなくても、お前が契約した取引先は好意的で、良い取引先だ。長く良い取引が出来る」
「買い被り過ぎだろ…」
「そう思うか…?」
意味深な質問を、真剣な顔で問う。居心地が悪い。
「お前は、何故、昴ちゃんに会いに行かない?」

真っすぐに睨むように俺を見る高木に、無表情のままうろたえる。
何故…。
そんなの「昴が望んでいるか」がわからないから…。
あぁ、そう言う事か…。
高木の言わんとする事が読めて俺は顔を上げた。
「俺は、会いたく無いヤツには会いたく無いって言うと思うよ。昴ちゃんがあえて無言で出てっちゃったのは、お前が望むようにして欲しかったからじゃ無いのか?昴ちゃんは望めばお前が傍に居続ける事を知っていたんじゃ無いのか?」
「そうだな…望めばそうしたさ。だけど、そうしてくれとは言わなかったんだ。あいつは…言わなかった」「あえて、な」
「あぁ、俺に選ばせる為にな…」
「答えは出てるんだろ?」「あぁ、たった今、出た」
ズレた眼鏡を戻して、残りの酒を煽る。
高木はサラミをくわえてニヤニヤと笑う。本気でどつきたくなる。
女にモテる上に仕事も出来てお節介な男は、酒を飲むと雄弁になるらしい。
だが、玄関を開けた後悔は消え、都合良く居心地はそんなに悪くは無くなっている。その後、憂いと共に白々と夜が更ける中で久しぶりに深く眠った。

次回へ続く!