歴史上最も暴力的な時代が始まる I

 暴力的な20世紀と比較して、19世紀は平和な世紀だったと言えます。しかし,1914年に第一次世界大戦が始まってそうした様相を一変させました。 第一次世界大戦が始まる以前の大陸ヨーロッパの状態に就いて、歴史家A・J・P・テイラーは次の様に述べました。 

「1914年、ヨーロッパ全体は単一の文明社会をなしており、それはローマ帝国の最盛期を凌ぐものであった。人は旅券を持たないでも大陸じゅうをくまなく旅行する事が出来、ロシアの辺境地方にまでも行く事が出来た。

……時折、何等かの保健衛生上の要求を満たす他は、特に法律上の形式手続きをしなくても、仕事や余暇のために外国に移り住む事も自由であった。通貨は全て金と同価値であった。尤も、この安定感は、究極的にはロンドン市の財政家達の手腕に掛かっていた。政治の形態にも共通するものがあった。

……殆ど何処においても人は法廷に於けるほぼ公正な取り扱いを確信する事が出来た。宗教上の理由で殺されたりする者はいなかった。政治上の論争などのさいに全般的な苦々しさの示される事があったとはいえ、政治上の理由で殺される者もいなかった。個人の資産は何処においても安全であった」

「サラエボからポツダムまで」拠り。



 ジョセフ・ウッド・クラッチはこう述べています。 「第一次世界大戦[1914-1918年]は……数世紀来高まっていた楽観的な見方、安らぎの気持ち、自信、そして、文明は遂に正道を見い出した故にその将来は安泰であるといった考え方に終わりを齎した」 「1914年の春から夏にかけて、ヨーロッパは異例なまでの平穏さに包まれていた」と、イギリスの政治家ウィンストン・チャーチルは書いています。人々は一般に将来に対して楽観的でした。ルイス・スナイダーは自著の、第一次世界大戦の中で、「1914年の世界は希望と約束に満ちていた」と述べています。