戦後まもなく肉料理・コロッケなどを提供。「秋葉原の象徴」と親しまれて来た「肉の万世 秋葉原本店」が、今年三月末で閉店することが、先日公式HPで発表され、話題を呼んでいる。

 

「肉の万世」は、1949(昭和24)年9月9日開業。元は電気商だった創業家が、GHQの食肉一般販売開放を受け「これは好機」と電気商とは無縁の食肉小売&肉料理レストランを始めた。

 

「万世」の名の由来は、現在も本店が建つ創業の地が、神田万世橋の袂である事に由来する。昔サラリーマンだった私が、「肉の万世本店」の前で「神田万世橋、焼肉の、〇〇〇~・〇〇〇~・〇〇セ~」と酔った勢いで「万歳」をしてしまい、周囲からドヒンシュクを食らった思い出がある(肉の万世の皆さん、本当にゴメンナサイ)。

 

その後関東一円へ出店を開始。現在では系列店を含め、28店舗が存在する。3月25日にはAKB劇場があるドン・キホーテ秋葉原店向かいのアキバプレイスに29店舗目の店が誕生する中での本店閉店。関係者によると、アキバプレイスの店舗が事実上の本店扱いとなり、事務部門など本社機能は、近隣のビルへ入居予定だと言う。

 

関係者に取材を続ける中で「肉の万世 秋葉原本店」の閉店は、なんと10年以上も前から社内で議論されてきたという。外食を取り巻く環境が変わり、宴会や大人数の会食が売り上げの主力だった「肉の万世」は急速に売り上げを減らし、2000年以降、毎年「肉の万世の幕引き」に関して議論が続いて来たと言う。そこに止めを刺す形となったのが、昨今のコロナ禍。売上・利益共に95%減という会社存続の危機を迎えていたそうだ。

 

当面のキャッシュフロー確保のため、「肉の万世」は2021(令和3)年3月、秋葉原本店のビルを約百数十億円で日鉄興和不動産へ売却。この事実が、不動産関係者からメディアに伝わり、一次「肉の万世、廃業か?」と騒がれた。その後、リースバックという形で本店の営業を継続してきたが、アキバプレイス店の開業に目途が付いたことを機に、本店閉店を発表したそうだ。

 

このところ、歴史的社会的価値の高い施設が、相次いで廃業や無期限閉鎖に追い込まれている。

直近では、川端康成や池波正太郎が執筆の定宿としていた神田駿河台の「山の上ホテル」も、先だって無期限閉館となった。「山の上ホテル本館」の建物は、建築的価値が高く、近く国内の名立たる建築家有志が「山の上ホテル本館」の重要文化財指定と国による保存を求め、所轄省庁へ働きかけを始めるという。

 

「麻布台ヒルズ」「虎ノ門ヒルズ」など近代的な街も、魅力的だ。しかし古くから続く伝統や老舗を「時代の流れ」だからと一掃する向きには異を唱えたい。

 

「温故知新」という言葉がある。「古きものを大切に新ながらも、新しい知識や価値を取り入れる」という意味だ。「肉の万世」は私企業とて、貴重な東京の文化財である。形は変えても、今の創業の地で営業を継続出来る様、公財私財が力を合わせ知恵を絞れないものだろうか。