「それでどんなのがあるかのう。土地勘が全くない妾たちがここら辺をうろついていても時間が過ぎるだけじゃぞ」
「しかも、普通の人間には見えねえしな」
紫音の言ったその一言は穂美に現実を教えるのに十分だった。
「そうじゃった。これだと何も買えぬではないか‼」
和尊の財布を握り締めがっくりと穂美はうなだれた。
「おいおい、そんなことで一喜一憂するのはらしくねーぜ。それだったら地元の妖怪にお願いすればいいじゃん」
のんきに言う紫音の温度差に穂美はイライラしながらも顔を上げる。
「藤川市というのはなんの町かと考える。これは穂美の方がよく知っているんじゃないか?」
「…どこにでもある地方自治体じゃないかや。何か面白い話でもあるんかの?」
すると紫音はすっと町のとある看板を指さす。
「えっ、そうなのかや。全く知らんかったのじゃ‼」
紫音の指の方向には輝夜姫のマークが描かれたこの町の特徴ある看板だった。
「この町は輝夜姫に縁があるとこらしい。しかも関係する寺とか岩とかが結構残っているんだとさ」
「じゃあ、一番見込みのありそうなところを探すことになるのかや?」
「ただ、月に帰っているって結末で終わっているんじゃなかったか。それだと無理じゃねえの」
「それだったら輝夜姫を前面に押し出して町をPRするのは難しいんじゃないかの。伝承があるからそれをヒントにしてPRはできるからのう」
二人はとりあえず高速の真下を歩きながら何か手掛かりはないかと市街地に向かって探しているとIC近辺に差し掛かった時に穂美がある物に気づいた。
「紫音、竹摂公園とある看板があるのう。そこなんかはもしかしたらなにかあるかもしれんのじゃ」
かなり歩いてきたので、お菓子屋に行くのも考えるとそこに寄るくらいしかできなかった。それに何かしらありそうな公園の名前だ。
「面白え、そこに賭けてみるか。もしダメでも私たちが勝手に行動しただけで普通に車に戻ればいいだけだしな」
紫音も乗り気のようで、二人はその公園に少し小走りになりながら向かうと、大きな木に『竹摂公園』と彫られた入り口が見えてきた。
「ここっぽいのう…。いたって普通の公園じゃな」
公園をきょろきょろ見回す穂美。
「竹がかなり多いことを除けばじゃが」
「なあ、流石にこんな名前がついて普通の公園というのはちょっとねえんじゃないかと私は思う。だって、周りを見るとここは住宅地のど真ん中にあるんだぜ?」
公園の周囲は紫音の言う通り住宅が密集していて、まるで孤島のようだ。
「中を見て回るにはそこまで時間はかからなさそうじゃし、息抜き目的で回るだけでもいいんじゃないかや?」
「本来の目的と全然違えじゃん…」
「細かいことは気にしない方が好かれるんじゃぞ?」
「はいはい、わかったよ」
二人は公園の中を歩いてみるが、最初に穂美が言った通り竹林が多くそれ以外は少し大きめの公園と言う感じだった。
「外れだったかもしれんのう。別段ちょっと違う雰囲気もなかったのじゃ」
残念そうにする穂美に対して紫音はしばし考え込んだ後、口を開いた。
「光天の丘とか言うところが私にはちょっと違和感を感じたな。穂美は奥の方まで行ってねえだろ?」
「奥の方?」
穂美はその丘に着いたとき、普通の丘だと一目見ただけで下って行ったのだ。
「ぱっと見何もなかったからの。スルーしたのじゃ」
「左奥の方になにやら変な空気が流れてたんだよ。いかにも人外どもにしかわからねえような空気でチリ一つないような清浄すぎる感じが私にとって気持ち悪かったぜ」
丘の左側には竹林があるがそれだけだ。ただそれが逆に妖しいと紫音は思ったらしい。
「あそこまで綺麗だと妖怪は近寄れねえ。あんなところにズカズカと踏み込んでいけるのは神様くらいじゃねえかなー」
「それなら紫音はどうして近寄れたんじゃ?」
すると紫音は大きくため息をついて自身の両手を大きく広げた。
「この巫女服と御幣とかのせいだろ。私は妖怪なのにこのせいで霊力が強まっているから大丈夫だったんじゃねえの?」
穂美は紫音が気になったという丘に再度行ってみることにした。