『啓蟄や 寒さに震え 虫も出ず』(拙句)
昨日は『啓蟄(けいちつ)』でしたが、とても寒くて雪が降ったところもありました。僕の住んでいる八王子でも降りましたが、そんなに降っていなかったので昼前にはすっかり解けていました。
ちなみに「春季の二十四節気」は『立春(りっしゅん)』『雨水(うすい)』『啓蟄(けいちつ)』『春分(しゅんぶん)』『清明(せいめい)』『穀雨(こくう)』と続きます。『啓蟄』は、二十四節気の一つで第3の節。陰暦二月の節(旧暦1月後半から2月前半)、『雨水』の後15日、すなわち3月6日ごろに当たります。「啓蟄」の語は『※月令(ぐわつりやう)(げつれい)』に言う『仲春の月、蟄虫(けいちゅう)咸(みな)動き、戸を啓(ひら)き始めて出づ』からきていて、『啓』は「ひらく」、『蟄(「ちつ」は慣用音で、漢音「ちふ」、呉音「ぢふ」)』は「虫などが土中に隠れ閉じ籠(こも)る、巣ごもり」という意味で、「啓蟄」で「冬籠りの虫が這(は)い出る」という意を示します。『啓虫』とは、「土中にひそみかくれて、冬籠(ふゆごもり)しているもろもろの虫」です。このころ土中に冬眠していた蟻・地虫・蛇・蜥蜴(とかげ)・蟇(ひき)・蛙の類(たぐい)が穴を出てくる意ですが、日本ではもう少し遅れるのが普通です。このころ「初雷(はつなり)」が轟(とどろ)き、冬籠り中の虫の目を覚ませるので、『虫出しの雷』『蟄雷(ちつらい)』とも言います。
ところで『二十四節気のけいちつ』を漢字で表す時、中国では『驚蟄』の名称を用いましたが、日本では『啓蟄』の名称を用いるようになりました。『二十四節気の名称』のうちで日本と中国で異なっているのはこれだけです。
※『月令』とは月々に行なわれる政事や儀式などを記録したもの。特に、「礼記」の月令篇を「がつりょう」と読むところから、それをさすことが多い。
『啓蟄』という語から「ユーモラスで俳意が感じられる」ので実に「俳人好みの節気」だと言えます。実際に虫や蛇等が穴から出てくるのはもう少し先のようですが、『啓蟄』は「柳の若芽が芽吹き、蕗(ふき)の薹(とう)の花が咲くころ」と言えるのではないでしょうか。
ちなみに『啓蟄』が『季語』として俳句によく詠まれるようになったのは『近代俳句』、主として『高浜虚子(たかはまきょし)』以降のことです。
『傍題季語(ぼうだいきご)』にも
「※驚蟄(けいちつ)」「蛇(へび)穴を出づ」「蜥蜴(とかげ)穴を出づ」「※地虫(じむし)穴を出づ」「蟻(あり)穴を出づ」「※蟄雷(ちつらい)」「※虫出しの雷(かみなり)」等があり、多彩です。
※『驚蟄』とは冬ごもりの虫が地中からはい出ること。 また、その虫。 蟄虫。
※『地虫』とは狭義には甲虫類のカブトムシやコガネムシ等の幼虫であり、広義には蛇や蛙なども含まれる。
※『蟄雷』とは冬ごもりの虫が姿を現すという意味。
※『虫出しの雷』とは冬眠をしていた虫が穴から出て来る頃という意味。
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『啓蟄』を詠んだ有名な俳句20選
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高浜虚子
『啓蟄の 蟻が早引く 地虫かな』
『 犬耳を 立て土を嗅ぐ 啓蟄に 』
『 啓蟄や 日はふりそそぐ 矢の如く 』
『 蜥蜴以下 啓蟄の蟲 くさぐさなり 』

水原秋桜子
『 香薬師 啓蟄を知らで 居給へり 』

山口青邨
『 啓蟄の 蚯蚓(みみず)の紅の すきとほる 』

川端茅舎
『 啓蟄を 啣へて(くわえて)雀 とびにけり 』

加藤楸邨
『 啓蟄の 風さむけれど 石は照り 』
『 啓蟄の なほ鬱として 音もなし 』
『 啓蟄や 指反りかへる 憤怒仏 』

飯田蛇笏
『 啓蟄の 夜気を感ずる 小提灯 』
『 啓蟄の ひとり児ひとり よちよちと 』

星野立子
『 啓蟄の 虻はや花粉 まみれかな 』

中村汀女
『 啓蟄や われらは何を かく急ぐ 』
『 啓蟄の すぐ失へる 行方かな 』

日野草城
『 啓蟄や はればれとして 東山 』

角川春樹
『 啓蟄や 衣干したる 雑木山 』

大野林火
『 啓蟄の 大地月下と なりしかな 』

森澄雄
『水あふれゐて 啓蟄の 最上川』

臼田亞浪
『 啓蟄の 虫におどろく 縁の上 』