「外山滋比古『思考の整理学』をなぜ東大生が根強く支持するのか? 」を外山滋比古氏の講演会『思考の整理学を語る』を聞いた東大生の感想より読み解く!!
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僕と外山滋比古氏との最初の出会いは入試問題でしたが、10年以上前に、たまたま本屋さんで立ち読みした『月刊武道』という雑誌に外山滋比古氏(「高専柔道」で鍛えられていたためなのか?)が書かれたコラムがありました。とても良い記事だったので、その場でメモを取りました。それで、今でもはっきりとその文章を覚えています。そのコラムの中で外山氏は「私は長年に渡り『英語青年』の編集長を務めたが、私がその中で一番大変だったのが『編集後記』を書くことだった。英語の文章ならば、すぐに書けるのに日本語で書く『編集後記』の文章がなかなか書けなかった。それかがら私は『日本語で文章を書く訓練』をするようになりました。」と述べられていました。『英語教育の専門家である外山氏』が、お年を召されてから、思い立って日本語の学習を改めて始められたのです。それぐらい『母国語の学習が大切だ』ということを外山氏の話は物語っています。
僕は、この後、外山滋比古氏の本をたくさん読みました。他の英語の専門家と違い、着眼点が素晴らしい上に文章が実に分かりやすいでした。これは日本語の学習を一生懸命になさったからにほかなりません。
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刊行から40年読み継がれて287万部(筑摩書房発表)
『新版 思考の整理学』(ちくま文庫 630円+税)(初版年月日2024年2月8日、発売予定日2024年2月13日)
「東大特別講義『新しい頭の使い方』(『思考の整理学』を読んだみなさんへ伝えたいこと)」という文章が文庫本の最後に添付(てんぷ)されました。
すでにダブルミリオンセラー(200万部突破)、トリプルミリオンセラー(300万部)も間近?
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外山滋比古は1923年生まれ。文学博士、評論家、エッセイスト。東京文理科大学英文科卒業。『英語青年』編集長を経て、東京教育大学、お茶の水女子大学などで教鞭(きょうべん)を執(と)る。専攻の英文学に始まり、テクスト、レトリック、エディターシップ、思考、日本語論の分野で、独創的な仕事を続けた。著書に『思考の整理学』『ことわざの論理』『「読み」の整理学』『知的生活習慣』『伝達の整理学』(筑摩書房)など多数。2020年7月没。
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《筑摩書房からのお知らせ》 2009年7月17日
外山滋比古先生『思考の整理学を語る』(東大駒場キャンパスにて講演)に付いて 
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※去る7月1日、『思考の整理学』が昨年東大生協で一番売れた本に輝いたことを記念して、外山滋比古さんが東大駒場キャンパスで講演されました。質疑応答まで1時間半、ずっと立ったままノンストップで、東大生に向けて熱く語られました。その内容のエッセンスを、ここでちょっとだけご報告いたします。
「受験という、知識の量や記憶力の戦いで見事勝ち抜いてきた東大生を前に、『知識の量と思考の力は反比例する』と断言する外山先生。思考力を高めるための処方箋とは…。」

*『勉強ができる人』は『知的メタボリック』
「明治以降の日本人がやってきたのは、外国の知識を借りてくることばかり。知識をたくさん身につけていることが『頭がいい』ということだと思い込んできた。しかし知識を増やすばかりでは考える力は身につかないし、知識の記憶と再生については、とっくにコンピュータに負けている。
しかしコンピュータにできなくて人間にできることがある。それこそが『選択的忘却』。人間は、頭の中にある無意識の価値観のネットを通すことで、意味のあるもの大切なものと忘れていいものを選別し、不要なものはどんどん忘れていくことができる。
この無意識の価値観は、人間が生まれてからだいたい5~6歳でできあがる。この時期の人間は、最高の思考力、最高の感受性を持っている。目も耳も非常に発達していて、新しいものをどんどん吸収し、どんどん忘れ、新陳代謝が活発。この間にその人の個性、昔の言い方での『魂』の中核ができあがり、それによって『選択的忘却』をする。
ところが学校に入り、文字を使って情報や知識を増やしていくようになると、生まれつき持っていた、ものを考えたり感じたりという知的能力は失われてしまい、回復することができない。一方、知識を記憶していくことは推奨され、いわゆる勉強ができる子、勉強をよくする子は、知識の量を増やしていく。知識は大変有用ではあるが、ものを考える手間や面倒さを省く、代用するので、知識があると考えることをしなくなってしまう。知識の量と思考の力は反比例する。知識が増えるとクリエイティブでなくなる。
知識を食べ物にたとえてみれば、食べ物を食べたら、胃の中で消化し、腸で栄養を摂り、いらなくなったものを排泄するように、知識も頭の中の胃袋のようなところで消化し、さらに大事なことを引き抜いて、いらなくなった知識は排泄せねばならない。ところが知識を捨ててはいけないという考え方が強いあまり、不要の知識を捨てることができない。これが続くと、『知的メタボリック』という状態になってしまい、たいへん危険。勉強ができる、知識をたくさん持っているのに、独創的な思考をすることができない、『知的メタボリック』に苦しんでいる人はたくさんいる。」 
と、容赦なく続く頭でっかち人間への批判。 
『特に文科系は、外国の知識を仕入れてきて日本語に移し替えて日本で発表しているだけ。国際的な批判を受ける勇気を持って、外国語で論文を発表するこということをしなければ』
なんて、耳が痛いのは東大生ばかりではないのでは?
それにしても、最高の知的能力は小学校に入る前に失われてしまったなんて!
では知的メタボ解消のための秘策はあるのでしょうか。
 
*『忘却を恐れない』
「残念ながら子どもの頃に持っていた知的能力を回復することはできないが、コンピュータにもまねできない『選択的忘却』の能力を高めることはできる。新しい知識を入れたら不要なものはどんどん忘れ、頭の中をきれいに整理していれば、その人の個性に基づいて新しい知識をこれに適応させたり、かつて頭に入れた情報の芽が自分の中から出てきて、新しい発見につながったりということが起きる。子どもに戻るのでなく、思考力をルネッサンス、記憶力もルネッサンス、新しい想像力、空想力、判断力、工夫、先を読む力、予想、相手の気持ちを洞察する、同情、いろいろな精神活動、クリエイティブな精神活動の力を、努力によって身につけることができるのではないか。それには、まず『忘れる』こと。
ただ忘れるのではなく、うまく忘れることが重要。そのためにはどのような方法があるか。まずは、睡眠。レム睡眠の間に、我々は入ってきた情報、知識を価値観ネットに照らして無意識に仕分けしている。一晩にレム睡眠を5回ほど繰り返し、入念に無意識の忘却作業をしている。朝、目が覚めると頭の中が整理されてスッキリ掃除されている。目覚めてから起き上がるまでの10~20分ぐらいが、ものを考えるベストタイミング。中国ではこれを古来『枕上の時間』と呼ぶ。
現代は情報過多で、夜の睡眠だけでは充分な忘却ができない。そんな時には散歩がいい。少なくとも40~50分は歩く。できれば1時間~1時間半。しかしそんな時間がない場合は、風呂に入るのもいい。アルキメデスの有名な逸話もある。また、夜の睡眠だけでは足りない人は、昼寝もいい。昼寝をして目を覚ました時が、ものを考えるのにいい。それから、健康には悪いが、煙草も有効。それに適度なアルコール。もう少し穏やかなものでは、コーヒーを飲む。たとえば会議中にコーヒーブレイクを取ると、また積極的に頭を動かすことができる。学校でも、休み時間は大事な忘却の時間。できれば15分ぐらいは取って、外へ出て体を動かし汗をかくようにすると、その都度頭の中がきれいになり、学習効率が非常に上がる。ものを考える力も記憶力も活発になる。これからの子どものための教育は、忘却を恐れない教育、子どもの時に持っている知的能力をできるだけ維持しつつ知識を身につけていく教育にすることだ。
知識はものを考える時の敵であり、忘却はものを考える時の味方。しかし知識が不要というわけではない。私たちは新しい頭の使い方を考える必要がある。知識というものをうまく活かし、自分でなければできない個性的、独創的なものを考える力とうまく合わせる。最近話題になっているハイブリッドカーと同じ。知識と思考は反比例する関係で仲が悪い。しかし両者をうまく融合させれば、ハイブリッド知性になる。理性と知性、記憶と思考を融合させて、思考一辺倒のパスカルやデカルトのもう一歩先を行く、新しい人間文化の基本、ハイブリッド文化を飛躍的に伸ばす可能性がある。
文科系の情報の蓄積、理科系の思考性を兼ね備えた総合的な人間は、専門家という寒々しい存在に対し、豊かで人間味があり、しかも新しいものを生み出す創造力のある存在となるだろう。ここにいる皆さんも、個人の生活の中で理性と知性の融合を試み、成功して大きな成果を得てほしい。」
その他にも、東大生に贈る言葉として『無敵は大敵』、つまり、『あなた方は向かうところ敵なしと思っているだろうが、それではそこから成長できない、好敵手を持って常にそれと張り合い、自分一人では出せない力を引き出しなさい』というお話をされました。
また、東大生との質疑応答の中では、  
『本を読まないのはいいことだ。読むなら、本当に価値のあるものを。そして、これはすごいと思ったら、最後まで読まずに途中でやめてしまう。その先は、自分で考える』という編集者の度肝を抜くお話、『夜に勉強しないこと(情報が整理されていない状態では効率が悪い)』、『呼吸は、吐いて、吸って。忘却と記憶も、記憶して忘れるのでなく、あらかじめ忘れておいた頭で記憶する。マイナスから始めれば、後からくるのはプラスです』
といったお話が、次から次へと飛び出し、あっという間に予定時間が過ぎてしまいました。
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■なぜ東大生が根強く支持するのか? 
外山滋比古氏の講演会『思考の整理学を語る』を聞いた東大生に書いてもらった感想

・「忘却」ということが非常に印象に残りました。忘れなさそうです。

・勉強術や時間活用術など効率を重んじる指南書が書店に並ぶ現在、外山先生が主張する「忘れる技術」が一番輝いているように感じられた。

・講演を聞いてもすぐ忘れてしまうので、感想を求められるのが苦手だが、忘れることを軽蔑しないどころかむしろ尊重するというお話に安心した。しかし、講演を聴いたのが夜なので、眠い。

・外山先生の一つ一つの言葉に何か熱いものを感じた。creativeなものを感じた。

・自分は文系で、やはり思考より知識が得意。思考は理科系に任せておけばいいと思っていたが、それを覆される講演だった。

・自分は理系で、専門知識で押し通す癖があるので、反省した。

・独創的な思考をするためにはどうしたらいいかという内容だったが、外山先生のお話自体が非常に独創的だった。

・思考と知識の融合について、具体的に考えていきたい。  

・先生の考えと、自分の中の未完成な考えをすりあわせていると、自分の中の思考方法や知識というものの捉え方に、新たな発展が現れるように思えました。

・ひたすら本を読んで知識をため込んでいこうと思っていたので、考える重要性を再認識できて本当に良かった。

・思考していない、思考できないと悩んでいたので、ヒントになった。

・考える力がないのは記憶力が悪いためだと考えていたが、忘れることが大事と聞いて、肩の力が抜けた。

・外山先生はパワフルで潔い。

・この講演の内容を忘れて、また思考して、創造したい。

・「知識一辺倒」の大学生にとって耳の痛いお話でした。

・今の時代に必要なのは、情報を手に入れることよりも「捨てる」ことなのだ。

・他分野との接触、混在が新しい思考法を生み出すという考えがとても新鮮に思えた。

・大学やその先で求められている「学び」に対する姿勢が、少し分かった気がする。

・知識に偏った勉強をしてきたからこそ、それじゃいけないんだ、と思いを新たにした。

・考えがまとまらない時、くよくよするのがいちばんいけない。

・メモをとり、整理する癖がつきました!
   
・根底にある理念は自ら学べ、という点だと感じた。

・高校生の時は意味が良く分からなかったけれど、大学に入って文章を書くようになり、先生の仰っていたことの重要性が良く分かった。

・今の自分を肯定して考えることの楽しさを教えてくれます。

・時を経ても変わらない価値がある。

・この本を読んでいないなんて、人生の半分を損している。

・コンピュータも「選択的忘却」を身につけてしまうかも。人間は創造的活動力を強化せねば。

・数学の問題を考えている時など、知識と思考のバランスの必要性を感じる。有効な手法をいくつか頭の中にストックしておくことは重要だが、時にはそういうものから離れて、自分の頭一つで考えなければ前に進まないこともある。

・自分のオリジナルな考えを、自信を持って堂々とかつ楽しそうに話す先生の姿が、一番印象的でした。

・パラドキシカルな話が多く、面白かった。先生のお話を愚直に実行したら、大変なことになりそうだが、確かに真理の一面をついていると感じた。

・知識であふれかえっている社会を生きていくためには、それらの知識を吸収する仕組みをどのように有していて、それらがどのように働いているのかを認識するとともに、吸収した知識をどう生かせるかを考えなくてはいけないと思いました。
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今回の講演のテーマは、『思考する力をつけるためにはまず忘れること』ということでした。『忘却』については、今年12月に刊行する『忘却の整理学』で、もっと詳しく述べられる予定です。どうぞお楽しみに!
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225万部突破! なぜ『思考の整理学』(外山滋比古/筑摩文庫)は東大生から根強く支持されるのか?
ダ・ヴィンチWEB 2018年3月8日
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1983年に刊行され、1986年に文庫化された外山滋比古の『思考の整理学』が「2017年東大生協文庫売上」1位を獲得。2016年に続き2年連読で1位を獲得し、2008年に初めて1位になってから10年間で7度目の快挙に輝いたことがわかった。『思考の整理学』は、「自らの体験に則し、独自の思考のエッセンスを明快に開陳する恰好の入門書」といった学術エッセイだ。もともと16万部のロングセラーだったが、2007年に岩手県の『さわや書店』店頭に並んだ『もっと若いときに読んでいれば…』というポップをきっかけに人気が再燃。2008年には東大・京大生協の書籍販売ランキングで1位を獲得し、“東大・京大で一番読まれた本”のフレーズが生まれた。このフレーズを帯で使ったところ売上が加速し、2009年には累計発行部数が100万部を突破。その後も変わらず新たな読者を増やし続け、2016年には文庫化30年目にして200万部を突破し、時代を超えて読み継がれている。
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同書には、「これからの時代で必要とされるのは、自力で飛び回れる飛行機人間である」「思考を整理するうえで、寝かせることほど大事なことはない」「本当にやるべきことは、1つのことだけに注力しているとなかなか見えてこない」「知識をいたずらに所蔵してはいけない」「必要なもの以外は忘れてしまうべきだ」など、時代に左右されることのない独自の洞察が満載。ストイックに“やらなければいけない事”を並べ立てる一方通行な中身ではないため、実生活で思い当たる事柄に改めて気づくはず。30年以上前の本だが、内容が普遍的で古くならないことがロングセラーの最大の要因だろう。
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“知識を詰め込むだけでは、考える力は養われない”という著者のメッセージは、知識偏重型の勉強をしてきた東大や京大の学生をはじめ、多くの読者に伝わっている。200万部以上読まれるほどの大ベストセラーになったのは、大学生のみならず社会人や年配の読者、誰にとっても必要とされていることの表れであり、年代も世代も超えた支持を集めた結果。自分の頭で考え、自力で飛翔するためのヒントが詰まった同書は、コンピューターやAIが発達した今こそ、その重要性を帯びているのかもしれない。
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