八方塞がりで気分が落ち込むと、宝くじを買う癖がついてしまった。


仕事も趣味も人間関係も全てが駄目、お金がないせいでいつまでも生活は苦しく我慢しっぱなしの生活。

合法で無課税の大金、すなわち宝くじ当選金が貧乏人にとって唯一の救いの神なのである。


昔は宝くじを買う人間を馬鹿にしていた。

はした金で一発逆転を狙うのは現実逃避してるだけ、努力もしない怠け者、あるいは大金に目がくらんだ守銭奴が買うものだと思っていた。

その通り私は大馬鹿者である。

宝くじの当選確率は天文学的な数字で、少しでも現実的な考えを持っていたらたかが数百円、数千円出しただけで到底当たるはずがないと鼻で笑うだろう。

それは分かっている。

分かっているんだがもしかしてという希望を持ちたくて、万年金欠のくせに少額の金を延々と落とし続けている。

売り場で買うのは人に見られるのが恥ずかしいという偏見から、私が買うのはもっぱら公式サイトのオンライン購入である。

これがとても便利で、ベッドの上でゴロゴロしながら指先一つで買える。文明の利器様々である。


私が主に買うのはロトである。

年末ジャンボなどは(一枚単位で買えるとはいえ)10枚セット3,000円というのが貧乏人には手を出しにくい値段のため、数百円で買えてしかも大きく当たれば何億円というロトの方がお手軽に一攫千金という夢を持てる。

貧乏人なので毎回は買わ(え)ない。買うのは大金を掴むチャンス、キャリーオーバーの時である。

決まった数字は特にないが、自分の誕生日などよく選ぶ数字はいくつかあり、他にその時の気分によって指定された分だけ数字をポチポチ選ぶ。

そして購入してから当選日まで、当たった大金をどう使うかで頭がいっぱいになる。本当にアホの極みである。

世の中には今までの当選結果から出やすい数字、周期などを割り出して統計的に購入する人もいるそうだ。実際にそういった方法で購入し、結果を公表している宝くじYouTuberもいる。

私はただ直感で選んだ数字で、運良く当たると思い込んでいる。これが30を過ぎた大人がやることか。

そう思いつつ、毎度舞い上がった頭でお金の使い道についてあれこれ考えてしまう。

まず引っ越したい。

現在住んでいるのは家賃が安い所で、無職で(今から仕事をするにしても)低賃金の私にとっては非常にありがたいのだが、

安い分壁が薄く、住人の物音が響きやすい。住民の質も悪く治安も良くないので大金が手に入ったらまずもっと良い部屋に引っ越したいという願望があった。

自分で働いて高収入を得る、というのは私にはもう無理で望み薄なので、宝くじに賭けるしか道はないのである。

そういう妄想をしながらネットで賃貸検索をするのが楽しいのだ。

駅近で利便性の良い土地、建物は絶対にRC造が良い、外出しやすいよう低すぎず高すぎない階数で、玄関が広く、二口コンロで、風呂トイレ別で、床暖付きで…と夢は広がるばかりである。

普段なら立派な賃貸マンションの情報を見てもどうせ借りられる訳じゃなし、と虚しくなるだけなのだが、

宝くじを買った直後は別で、どんな高い賃料でもここもあそこにも住める……グフフ……と酒池肉林状態なのだ(頭の中では)

他には旅行へ行ったり好きなものを買ったり、もう我慢なんてする必要はないのだ。大金を手に入れたんだから湯水のように使える。

しかし使いすぎてあっという間に無一文になってはまた働かなければいけない。贅沢しつつ一生働かずに生活するために、一年に使えるのはこのくらいで……と電卓を出して計算したりもする。

これが当選日まで毎日続く。

自分で書いてて悲しくなってくるが、こんな事くらいしか日常楽しみがない孤独な人間なのである。人間ここまで落ちぶれたら本当に終わりだ。

待ちに待った当選日の次の日(公式サイトでは結果が反映されるのが翌日なのです)

もう半分当たったような気持ちで公式サイトを開き、購入した宝くじの結果を見る。

ワクワクしながら見ると……そこにはハズレの灰色の文字。

一等どころか一つの数字もかすっていない。文字通りの全敗だ。

私はがっくり落ち込む。また億万長者になりそこなった……。