「テニスはラケットスポーツ界の頂点に立ってるからな、普通に考えて負ける訳ないだろ」


「なに現役バド部に勝てると思ってるわけ?」




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普通に負けた。




コートも無ければネットすらないので何とも言えないが、彼女は割と容赦なくボディめがけてスマッシュを打ち込んできた。



……なんか、思ってたんと違う。






「えいっ」


「冷たっ!」




何とかジェシカに勝とうとユーチューブでバドミントンの動画を漁っていると背後から首筋にスポドリを押し当てられた。




ありがたくペットボトルを受け取り、半分ほど飲み干すと彼女は暑いし汗をかいたから水遊びをしないかと提案してきた。






もちろんと二つ返事で了承の意を返し、近場で水鉄砲とシャボン玉を調達した僕らは多摩川へと向かった。








錆びれた踏切を渡りローカルすぎる小道を抜け視界が明けるとそこには緑で生い茂った河川敷と対岸に立つ東京のビル群の姿があった。




一見近いようでその間に横たわる大きな障壁。





なるほどこれが東京と神奈川の関係の縮図なのであろう。









それからというもの、僕たちはボートを担ぎながら川から上陸してくるおじさんの群れに向かってシャボン玉を飛ばし、水鉄砲を片手に互いの背中を追いかけ回しては意外と寒くね!?と家から持ってきたバスタオル(僕の)を取り合った。











「綺麗……」






すっかり辺りも暗くなり、向かい合うようにしゃがみこんで線香花火の綱を握っていると、誰かさんが思わずといった様子で言葉をもらす。




ふと顔を上げると、そこにはほんのりと照らされたジェシカの姿があった。





その顔にはさっきまでとは違い、無闇に触れると二度戻ることはない、そうとでも言うような脆くて危なげで儚い表情を浮かべている。





ーーあぁ、そうか。





僕は彼女の内面に触れてしまったような気がして、少し逡巡した後「そうだな」と当たり障りのない言葉を返した。








「もう何それ笑笑、もっとこうさ『君のほうが綺麗だよ』とか気の利いた言葉はないわけ?」


「自分に正直でありたいからさ」


「ひどっ!?」















別日、強奪されたバスタオルを返してもらった後にジェシカは福岡へと引っ越して行った。



それを機に、ラインが繋がっているとはいえ彼女との距離は疎遠になってしまった。



それでも時々、こうしてふわふわと雲に包まれたかのような3日間を思い出すことがある。






家に帰り風呂からあがり、紙袋から柔軟剤の匂いに包まれたバスタオルを取り出すと、ひらひらと一枚の紙きれが宙を舞った。








『今回は私の勝ち!
  次会う時までもっと練習しといてね♡』








この時僕はバドミントンで天下統一することを決意するのであった。