友人からPD-L1染色に関する質問が来ました
↓
「お元気ですか!
免疫染色のことでお聞きしたいことがあるのですが、PD_L1抗体の組織全体の注意事項にパラフィンの温度を60度を超えないようにと記載がありますが、パラフィンの温度、しかも60度を超えないということが染色結果(抗原に対して)なにか強い影響を与えるものなのでしょうか?
今まで気にせず包埋していましたが、パラフィン融解槽の温度は60度を超えています…
先日、友人にこの記載どう思う?なにか対策している??と質問され、私も調べては見たもののパラフィン温度に関する文献等は見られませんでした。 不活化などでより強い温度をかけるのに、パラフィンての60度というのも理解できずです。
何かご存知でしたら、教えていただけると助かります。 どうぞ宜しくお願い致します。」
一緒に添付されていたデータシートはコレ
60℃なんて、自動包埋装置(VIP)の中で普通に到達している温度です。
パラフィンを溶かすための温度。なので「通常のブロック作製プロトコールではダメってこと?」となりますよね。
ではなぜこの温度なのか?ということですが、
こういった分子標的治療薬の免疫染色のガイドラインってASCOが決めたりしています。HER2とかもね。
米国臨床腫瘍学会です。
今、私は米国のMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで働いていますが、
こちら米国のブロック・・・白い。
米国では、白い軟パラフィンを使ったりもしています。
つまり、融点が60℃以下ってことです。
ですので、
「60℃以上の温度を受けた組織での染色で検証をしていません」ってことです。
「この温度内であれば、染色性は確かです」ということ。
それがそのまま日本に来ているので、文章の内容が
「え、無理じゃない?」という状態になってしまうのです。
日本は硬パラフィン使いますからね。
(こちらでは「日本のブロック、めっちゃ切りやすい!めっちゃいい!品質いい!」と言われます)
実は、がんゲノム検査のFoundationOne検査にも切片取扱い時の温度の注意点があります。
こちら(米国)では未染色標本を作製する際、回転式ミクロトームで、切片をそのまま温浴槽に浮かべて切片を伸ばします。
日本では水に浮かべて、ガラスの上に切片を載せ、伸展器で切片を伸ばしますよね。
ここも米国と日本の違いです。
米国では温浴槽にそのまま浮かべるので、温度が熱すぎると切片が溶けたり散ってしまうので「ぬるい」温度設定なんです。
いつも、だいたい39℃くらいかな。
日本だと伸展器の温度は40℃より高いですよね。
この差なんです。米国のメーカーの試薬や検査なので、これも
「この温度より高い温度では検証していません。」ってことです。
こういう場合、どうすればいいのか?
PD-L1の染色をする検体だけ、別にブロックを作製するのか?・・・確かにそれがベスト。しかし、ブロックを作製する時点では、どの染色をするか分からない場合もありますよね。
こういう時こそ、「妥当性確認」です。
ISO15189で検査の品質を維持するために、免疫染色で新しい抗体や染色を導入する際に本来やるべき工程です。
(皆さん、やってますか!?)
「本来の染色性(品質)と同じである」ということを確認・証明します。
一番確実な方法は、
今回のPD-L1を例に挙げると
例えば・・・
「1つの試料から、60℃以下の温度で作製したブロックと、通常の方法で作製したブロックを、同じ方法で薄切(伸展温度とか)し、両者を1枚の同じスライドガラスに載せて、データシート通りに染色し、染色性を比較」します。
1枚のスライドガラスに両者を載せるのは、出来る限りその他の条件を同じにするためです。
(1枚ずつ別のスライドガラスに載せると、染色時にタイムラグが生じる可能性があるので、そういった差を一切なくすためです。)
正しい検査結果を得られる(品質を維持することが出来る)ことを証明するのです
これが必要です!!!!