[ランドロードの破産]

 

 そうこうする中、一年以上たった。 もうすっかり、新聞記事の件も忘れていた頃、マネージメントの不動産会社から一通の手紙が届いた。 「随分遅い、報復だな」と、恐る恐る封を切った。 それには「ランドロードが、新しく代わった」と書かれていた。

 

 新ランドロードには大手ファイナンス(融資)会社がなっていた。 しばらくして、この経緯に付いての情報が入った。

 

 例のランドロードは、新事業の為、この建物を担保にして融資を受けた。 聞くところによると農場を買ったそうだが、その経営がうまくいかず破産、この建物はファイナンス会社の物件となってしまったのだ。

 

 二年前、この建物を買いたいと言った人を、私は知っている。 その人は、12ミリオンで買いたかった。 ところがランドロードは15ミリオンならば売ると断わった。 当時は地価が最高値の頃で、彼は非常に強気だった。 その後、土地価格は下がり、この建物の担保額も3ミリオンとなってしまった。 私の新聞記事が出た頃、家主は新事業の資金繰りと事業に四苦八苦、自分の事で精一杯、私に報復などしている場合ではなかったのだ。

 

 ファイナンス会社はこの建物を3.5ミリオンですぐに売りに出した。 日本人投資家、地上屋がすでに、この町から去リ、土地ブームが下火になった頃、韓国、台湾、香港、シンガポールから大勢の旅行客が押寄せた。 その中に投資家がいて、値の下がった物件を次々と買い始めた。 今度は以前のような高値ブームにはならない。 彼等は最安値で一等地が手に入ったのである。 私のレストランの建物も、シンガポールの資産家が3ミリオンでファイナンス会社から買った。 私がここでレストランをしている間に、三人もの持ち主が替わったことになる。

 

 私はリ-スの延長を申し込んでいたが、こんな事情で遅れていたのだ。 もうかれこれ二年近くになり、すでに前のリ-スは切れていた。

 

 持ち主がファイナンス会社に代わった後、リースの回答をしてきた。 この時、私は、ソリシターを代え、これで四人目であった。 リンダと言う、綺麗で品のある中年女性、 行きつけの散髪屋さんから、彼女の事を聞いた。 「仕事熱心で、しかも手数料は通常」と評判が良い。 法律協会の一件で、前のソリシターには、さよならして、リースの交渉を彼女に頼むことにした。

 

 

 

[強い方への味方]

 

 彼女は最初、一生懸命だった。 ところがある時点より突然変身して、先方への押しが消滅していった。 「おかしいな」と思いながら、その原因が分らなかった。 結局、ランドロード代行、マネージメントの不動産会社に押切られ、こちらの要求は、ほとんど満たされなかった。 リースも二年間だけとなり、これなら、何の価値もなく、高いリ-ス書類作製費用が無駄となる。 私はソリシターに、「二年間のリ-スならもういらない」と断わった。 そして、もうリ-ス契約の更新を断念したのである。

 

私とランドロ-ド兼不動産会社はお互いに自由行動が取れる。 彼等に条件の良いテナントが現われたら、私を追い出すことが出来る。 もしそうなっても良かった。 新聞記事の一件で捨身になっていたからだ。 そのかわり、こちらも、新しく移転場所が見付かった場合とか、営業不振で店を閉めたいと思えば、何時でも出て行けるのだ。 私が来月分のレントを払うことで一ヶ月毎に延長していける、いわゆる月ぎめリースとなったのである。

 

移転をするとなれば、かなりの投資がいる、しかも将来性は疑問である。 でもビジネスだけは続けたい。 ランドロードから「出て欲しい」と言われるまで、ここに居座ることにした。

 

 町のあちこちに空店舗が出始め、家主達はテナントを見付けるのが難しくなっていた。 特別な事が起きない限り「出ろ」とは言わないだろう、あとは成り行き次第だ。 地価の値下がりで、レントは前よりも少し安くなった。 それにリース契約がないので、将来の値上げは一切なし、これがなりよりも良かった。

 

 例のソリシターから請求書が届いた。リース交渉の手数料であった。 長い期間を掛けて、交渉は不発に終った。 常にランドロード側、不動産会社寄りの仕事ぶりだった。 でもしっかりと請求をしてきた。

 

「彼女のオフィスビル、マネージメントは同不動産会社だ、依頼人よりも自分の方が大事だからな」と、ある人が言った。

 

 以前、クィーンズランド州の某知事氏がテレビで語った。 ソリシター仲間が、金銭亡者になっている姿を見て嫌気がし、その職業を捨てて政治家になったそうである。