7話 待ち合わせ2

 「登ろっと」でめんどくさい文章は確認済みなので、一般的な注意事項で目新しいものはほとんどない。

前回受けた説明と異なるところは、山のルートに関することぐらいだ。少々退屈ではあるが、鳥のようにそれなりのスピードで飛びながら、ルート上の注意事項を確認するので、結構楽しい。

 実際に仕事の後や週末に、この世界で登山を楽しむ人が結構いる。1日のログイン時間は限られているが、国を象徴するような大きな山や多くの人が入山すら出来ないような頂に誰でも挑戦することができるので、絶景と相まって人気のコンテンツになり、現実世界よりも数百倍の登山客がいる。また、このためだけに、ログイン可能時間が長い業務用の高性能ディバイスを購入する人もいるくらいだ。

 現実の山を登るというのに、何故わざわざ貴重なログイン時間を使ってこのようなレクチャーを受けるかというと、死なないためである。つまるところ法による規制。仮想空間が提供するリアリティ溢れる登山はAIによる最適化により当日の状況がある程度は再現されてしまうため、面白さが半減するとか批判もあるが、未導入と導入済みでの事故率の差は明確で数字は嘘をつかない。そのためいつからかは知らないが、入山前に必ずレクチャーを受けなければならない事になった。どうしても受けたくないのであれば、登山技術を継承し、プロの登山家目指すしかない。狭き門である。

 30分程の説明を受けた後、最初の家屋に戻ってきた。

「これでレクチャーを終わりです。 同時に申請が終わりましたので、後日結果をご連絡します。

 気になることがあったら、遠慮なく聞いてください!」

そう言って、一礼したウサギはアイコンになった。

人によっては2、3回レクチャーを受けなければならない事もあるらしいので、私たちが1回で終わったのは幸運だった。

「どれくらい時間残ってる?」

私が友人に訪ねる。

「10分切ったくらい。 微妙な感じ。」

「出る?」

「んー。せやな明日の時間延ばしたいし、出るわ。 そっちは?」

「まだ15分以上あるし、どこかのライブ行ってくる。」

「いいなー。じゃぁすまんけど、出る。また明日」

「また明日」

連日の長時間ログインか、今日別の時間にログインをしていたらしい友人は残り時間が短く、挨拶を済ませたらこの世界から移動した。ー遅刻は確信犯だな。

 

 この世界ではどこかしらで何時でもイベントが行われており、ログイン時間に制約があるので短い時間でも様々なことが楽しめるようにショートコンテンツは豊富に取り揃えられ、例を言えば音楽で手軽に楽しめる1曲ライブがある。この様なショートコンテンツは待ち時間や隙間時間に利用することができるため、特にレクチャー等のメインコンテンツの後にオススメが表示される。そのため、目の前に浮かぶ画面は田舎の風景に似合わずカラフルになっている。

 仮想空間を利用する場合は豊富なコンテンツを出来るだけ時間制限ギリギリに詰め込んで楽しむ人が大多数であり(安全装置による強制ログアウトがある為)、私も例にもれず豊富なコンテンツにお世話になっているが、現実世界で登山をしたり、先程の様にショートコンテンツで時間を潰さず、ウサギのAIと長々とおしゃべりする人はかなり珍しい部類だ。あの人間には負けるが。

 

 

※登場人物、団体などはフィクションです。