山廃仕込みの蔵、蔵付酵母の蔵、木槽天秤しぼりの蔵として有名な上原酒造さん。

自分が上原さんの不老泉を取扱いさせていただいてから商品を試飲するたびに、

予想していたものよりも身体に優しく馴染む味わいから個性のある旨味に圧倒され、

一つ一つ細かく見て行きたいものの、山廃仕込みのお酒に対するイメージも

だんだんと変わりました。

 

思っていたよりも飲みやすくて、優しい旨みに触れると、また一杯と飲みたくなる。

懐かしさを感じる風味と、お酒の色…どうしても一度、蔵にお伺いしたかったのです。

 

やはり、蔵付酵母、木槽天秤しぼりの二つは、目で見てみないと分からない。

 

 

上原さんの不老泉の生産量は年間で約400石の規模と聞きまして、予想よりも

少ない生産量にも関わらず、全国にファンを持つ日本酒です。

蔵に入ると、すぐに仕込み水が豊富に湧き出ています。

 

 

 

比良山系伏流水、かばたの湧き水。さっそくいただきましたが、軟らかい水で

美味しい!これが不老泉のベースとなる仕込み水、滞在中もずっと湧いていて、

水の量も大変豊富です。銘柄に泉が付くのにも、理由がありますね。

 

上原さんに質問すると、このエリアでは他の地区でも湧き水は出てくるものの、

鉄分も含んでいるそうで、上原さんの周辺だけは鉄分がなく、仕込み水として

使用出来るもので、創業当時の酒蔵さんの水を見る目といいますか、先人の知恵に

改めて敬意を感じます。

 

 

 

蔵の中に入りますと、驚きが沢山ありました。

 

 

木桶仕込みの木桶、目減りするなど、夏場のメンテナンスが必要で、

何かと手間のかかる木桶ですが、上原さんでは現役バリバリ。

もともと四つあったものの良い所だけを組み合わせて二つにした木桶です。

木桶のメリットは、木が寒さからもろみを守るそうです。これも先人の知恵ですね。

現在は木桶を造れる職人さんがいないため、長持ちして欲しいと

願うばかりですが、こちらの木桶を使って仕込まれるものが玉栄です。

もろみを見ると、元気な泡ありです。蔵付酵母の力です。

 

 

麹室を外からチラッと見せていただくと、昔は蓋麹にしていたものの、

検証してみたら自分の所では箱麹の方が良かったということで、

現在は箱麹にて製麹をされているとのことですが、全て手作業。

 

 

 

こちらが、蔵付酵母の宿る酒母室。開放タンクが何本か並び、この場所に

入るのには勇気がいりますが、蔵付の山廃酒母を見学させていただきました。

自分自身、山廃の酒母、それも蔵付の酒母を見るのは初めてでした。

 

 

「これが最後の酒母で完成です、この時期まで来るとホッとしますね。」

とは上原さん。過去、予想外の事もあって、蔵付酵母のリスクについて

失敗した事も教えていただきました。相当大変だったことを聞きました。

 

やはり、そう簡単に蔵付酵母のお酒を製造するというのは難しくて、

リスクを背負いながらの仕込みになるという覚悟もいります。

長年その土壌を作っていき、それでもリスクもあるものですから、

手間もかかるし、覚悟もいる。でも、造りたいお酒は山廃仕込みで

蔵付酵母こそが上原酒造の不老泉という信念です。

 

山廃仕込みの蔵付き酵母は全て天然の微生物の賜物で発酵力が強く、

長期の熟成にも耐えることが出来ます。

 

 

甑は木の甑を使用していました、これもまた自分は初めて見ます。

「木の甑のメリットは保湿性、吸湿性でムラなく蒸米が出来ます。

蒸した米が立ってくれる。」

 

その先に進むと、なんと大きな自社精米機に遭遇します。

 

 

「経済学出身の経営者はやらないけど、醸造出身だから俺は。

一年のうち8か月は休ませてしまう機械、実際に稼働するのは

4か月ということになるけど、米の管理も自分たちでやりたい。

自分達の目で米の出来の良し悪しを確かめて、それに合わせてどのくらい

枯らし期間を取るかどうかも含めて、造りたい酒の為にね。」

 

この後、ついに木槽天秤しぼりの登場ですが、想像を超えたサイズの大きな

天秤搾りでした。