今年、家の庭を大幅に改造して、花壇に植える草花はもちろん、土の一部を入れ替えることにした私は、早速シャベルで花壇の土を掘り起こした。
園芸には不向きと思われる粘土質の土を取り出すが、市の決まりにより土の廃棄は違法なので、家の敷地内で再利用するしかない。
しばらく処理に困っていたのだが、雨が降ると水溜りになりやすい窪みなどに埋めるとちょうど良い具合になった。
掘り起こし作業を終えたら、土が減った分を補うために当然新しい土を入れる必要がある。園芸用のトップソイル、培養土、土を水捌けの良い状態に改良するためのパーライト、肥料として発酵牛糞、裏庭に溜まっている枯葉の5つを混ぜて使うことを考えた。
さて、近いうちに発酵牛糞を買ってくることを我が夫に伝えると、こんな返事が。
「それなら、パパ(義父)のトラックを使おう」と。
ちょうどその頃、義父とその再婚相手の義父妻の2人は、私たちが暮らす場所から3000km離れた義弟一家の家に滞在していた。この会話をした日に義父たちは義弟の家を出て、帰宅に向けて出発していた。
しかし、何日かかってこちらに戻ってくるか分からないし、義父のトラックはコンディションは悪くないとはいえ23年が経つ。
義父たちの帰宅を何日か待った挙句、当てが外れ、自分でさっさと買いに行けば良かったと後悔するのは嫌だ。
この時期、日毎に暑くなっていくので、出来るだけ早く庭仕事を済ませたいという焦りもあって、義父が帰ってくるまでノンビリしていられないのである。
夫がすぐに「パパに聞いてみよう」「パパが持っているから借りよう」と言い出すことが普段から多いので、私は“また義父か・・・”と、疲れを感じずにいられなかった。私が断る度、夫とちょっとした口論になるからだ。
仮に義父が持っていたとしても、長年地下室で塩漬けになったものを借りても役に立たず、結局は買い出しに行くことになるということが過去に何度か経験しているので、結果は予想がつくのである。
私が義父のトラックを使うことに反対すると、夫は
「だって牛糞でしょ?それを君の車で運ぶっていうの?運搬している間に荷崩れを起こして牛糞が車の中に散らばったらどうするんだよ!?」
と言い、夫としては良い案を出したつもりだったのだろうが、妻に遮られてすっかり不服に思っていた。
また、夫がこのように言うのには、ワケがあった。
昔、義父の同僚が新車を購入し、それから間も無く、知り合いの牧場経営者から肥料に使う馬の糞を分けてもらうことになり、その人はその新車で運ぶことにしたのである。もちろん、後部座席を倒し、一面にビニールシートを敷いたと言うのだが・・・。
入れ物に入れて蓋をしていたと思われるが、帰り道を走っている途中の振動で入れ物がひっくり返ってしまい、新鮮な馬の糞がそこら中にこぼれてしまったのである。私もその話を義父から直接聞いたことがあり、どうやってクリーニングをしたのかは不明だが、よりによって新車を使うなんて、義父が「バカだよな」と言っていたのを私も覚えていた。
夫は私が同じことをやりかねないと思ったようで、自分の車を使うなら義父のトラックの荷台に載せろと言っていたのである。
それでも私はこのように夫に言い返した。
「あのさ・・・、発酵牛糞って“発酵処理”をしてあるから臭いは無いんだよ?」
園芸も家庭菜園も全くやらない夫は、発酵だろうがなんだろうが、牛糞には変わりないのだから臭いものを車の中に積んで運ぶなんて・・・と思ったらしい。
日本で暮らしていた頃、私は発酵牛糞を使って家庭菜園や園芸をやっていたので、よく知っているが、ほぼ無臭である。
私はこちらに越して来て以来、これまで何度も自分の車で土を運んでいるが、毎度、ビニールシートを車内いっぱいに敷き、家の敷地の修復用のトップソイルや肥料を買うときに中身が漏れないように袋に損傷がないものをわざわざ選び、車に積むときは荷崩れが起きないようにしっかりと工夫を行なっている。
それでも夫は信用せず、「パパは多分、3・4日で帰ってくるよ。待てば良いだろう!?」と私に抗議した。
確かに、義父妻が義弟一家の家から一刻も早く帰りたいとか、体調を崩しているなら大急ぎで帰ってくるかもしれない。
でもそうじゃなかったら?
私は、「待てない。」と言った。そして、
「3・4日後に帰ってくる?週間天気予報によれば、ちょうどその頃から3日間、雨や雷の予報だよ?そんな中で買いに行くの?私は嫌だよ。」
「天気なんかすぐに変わるかもしれないだろう?」
「そう、外れるかもね。でも予報通りになったら、1週間後までは買いに行けないよ。それと、お義父さんが帰ってきた途端、トラックが故障したらどうするの?」
「その時は自分の車で・・・」
「そうなるんだったら、自分で明日行っても同じだと思うけどね。」
「・・・(無表情で私を見つめる夫)」
「それに、トラックを使うにはアナタに協力してもらうことになるし、そうなればアナタの都合にも合わせなければならない。私は今すぐ買いたいくらいだから、お義父さんの帰りを待つつもりはないよ。明日、行ってくる。」
夫は“勝手にしろ”と言いたげに無言で書斎に入っていった。
はい、私は勝手にさせていただきます。