【テーマ・ひるやすみ】


それが肉体の要だと
わたしの右手は再三書いてきたし
わたしの両目は再三見てきたのに

書いていても
見ていても
知りませんでした。

分数がそれだけで
割り算の答えなのと同じで

腰という文字はそれだけで
ものすごい答えなのでした。


答えが目の前にあったのに
ちっとも気がつかなかった。






【テーマ・ほけんたいいく】


わたしはどこかの河原で
小石遊びをしています。

気になる小石
そうでない小石

きれいな小石
そうでない小石

好きになった小石
そうでない小石

どう感じたものであっても
感じたものはできるかぎり
慎重に積み上げていく遊びです。


言葉を集めれば集めるほど
ひとつひとつは間正直でも
集合体はうそになるように

小石も集めれば集めるほど
ひとつひとつは美しくても
集合体は重力に対して弱い。


崩れ落ちることを予期したときから
無垢な遊びごころは徐々に失われて

崩れ落ちることを恐れたときから
それは小石遊びではなくなります。



予感はあったのです。

劇的に快復していたはずの冷え症が
春ごろからまた訪れていました。

呼吸はいつしか浅くなり
足はひどくむくんでいました。


積み上げた小石の塔。

次に積み上げる小石は
あそこでわたしを呼んでいたのに

わたしはその声をきかないで
塔が崩れないような小石を探した。



次に積む小石がどんな小石であっても
あとひとつ積んだら塔は崩れるのです。

ならばあそこで積まれることを
切に望んでわたしを呼んでいる
あの小石を積み上げればいい。

それなのにわたしは
今にも崩れてしまいそうな
塔の傍らを離れられず

別の小石をつかんで積んだ。

そして、塔は崩れ落ちた。

これまでひとつひとつ積み上げた
気になる小石もそうでない小石も
きれいな小石もそうでない小石も
好きな小石もそうでない小石も

すべて、崩れ落ちた。



そういう心境です。

魔女の一撃とよばれる
腰への激痛は文字通り
わたしを腰砕けにしました。

生まれてはじめて
ハリ治療を受けました。

まだ思うように動けません。



あそこで次の小石が
光っています。

見失わないように
気をしっかり持っていたい。



なにがいけなかったのか
わかっているのです。










【テーマ・おんがく】


電子ピアノの人工樹脂の鍵盤。





小さな傷跡が無数にあります。

全88鍵のうち
中央の鍵盤にはたくさんの傷跡。
両端の鍵盤にはあまりありません。

何気に眺めていて突如
スケールの練習をしようと思いました。

いま取り組んでいる
ベートーヴェンのソナタの
第二楽章と第三楽章のなかに
高い音から滝のように流れ落ちる
彼独特のフレーズがあります。

子どものころから
スケールは大の苦手で
どうしてこんな練習を
しなきゃならないのか
わかりませんでした。

いまなら少しだけ
わかるような気がします。

繰り返し行うことで習慣化し
体得というかたちで記憶される
手続き的な記憶はそれだけでは
無味乾燥でドラマはありませんが

知的好奇心と同梱された
知識という名の記憶もそれだけでは
裏付けに欠けて物足りないものです。

体得と知識と経験が合わさって
そこに自分だけのドラマが生まれたとき
はじめて満足のいく記憶となり得ます。

そうなってはじめて
習慣化するほどの反復が
いかに大事かということが
おぼろげにわかってきます。

子どものころには
わからなかったはずです。



鍵盤の傷跡を眺めていて
まだ傷のあまりついていない
未知のオクターブの世界にも
踏み込んでみたくなりました。

ワンフレーズが広音域に渡る曲は
きっと山ほどあると思いますが

いつか88鍵すべてを自由に
行き来するような演奏が
できるようになりたいな、と

ふと思いました。


流れ落ちて砕け散る
滝のようなフレーズ。

練習あるのみです。


それと

学典の勉強も
始めました。