7月4日に実施された英国庶民院選挙(総選挙)にてリシ・スナク首相率いる与党で議会の過半数を占めていた「中道右派、保守主義、反欧州」の英国保守党は獲得議席121議席(251減)となり与党は歴史的大敗を喫した。逆に最大野党で「左翼、共和主義、社会主義、反欧州」の労働党は獲得議席412議席(211増)となり、第2野党で「中道左派、社会民主主義、親欧州」の民主自由党が獲得議席71議席(63増)でそれぞれ野党の地滑り的大勝を記録して14年ぶりの政権交代は確実となっている。躍進すると見られた極右政党で「反イスラム移民、反欧州過激派大英再建党(リフォームUK)の獲得議席は5議席に留まった。


 英国は同じ議員内閣制である日本国やドイツと違い、議会による首相指名選挙を経ずに総選挙の結果次第で翌日新首相が国王に任命される。新たな首相は最大野党労働党の党首を務めるキア・スタマー氏が就任するものと見られる。

 

 労働党政権発足を受け、閣外協力(非連立政権の協力関係)すると見られる「左翼、環境保護政党」の緑の党は声明で「より大胆に、より勇敢に、より懸命に働かなければならない」と語った。

労働党のキア・スタマー党首

【議会選挙の結果の詳細】
 選挙結果を受け、リシ・スナク首相は敗北を認めたうえで「責任は党首であり首相である私にある」と宣言、7月5日を目処に辞任すると見られている。

 選挙結果は与党保守党にとって極めて破滅的な物になった。与党保守党は372議席で議会の過半数を占めていた状況から一気に野党に転落する羽目になった。

総選挙前の庶民院の議席
総選挙後の庶民院の議席

 保守党はリズ・トラス前首相を始め、国防大臣、ブレグジット(EU離脱)担当大臣、経済担当大臣ら主要閣僚の殆(ほとん)どが落選。まさしく歴史的大敗となった。

 労働党は地滑り的大勝となったが実は得票率自体は前回大敗した2019年総選挙の時から1.9%しか上がっていない。一方保守党は20%近くも下落している。

【保守党政権歴代首相】
(相次ぐ失政と不祥事で5人もの首相交代劇)

 保守党が議会選挙で大敗し、14年ぶりに政権交代を許したのは、結局与党保守党に原因は帰結する。2010年英国保守党政権が発足以来、僅か14年でキャメロン、メイ、ジョンソン、トラス、スナクと5人の首相が入れ替わり立ち替わりで交代した。

 それは保守党政権の歴代首相らの不祥事が原因だと言える。保守党の歴代首相らは、相次ぐ不祥事と失政で辞任している。

〚租税回避疑惑で辞任〛2010〜2016
デビッド・キャメロン首相

 2010年の総選挙勝利による保守党政権発足後の最初の首相はデビッド・キャメロンだ。キャメロンは英国史上最年少で首相に就任し、野党で中道左派、親EU派の民主自由党と連立を組み、不安定な政権を安定化させた。

 キャメロン首相は保守党内では中道改革派に位置する人物で在任期間中は植民地支配についてアイルランドや中国に謝罪したり、同性婚を認めるなど保守党政治家には見えないリベラリストだった。

 キャメロン首相はEU残留を強く主張し欧州各国との関係を強化した。また「チャイナUKファンド」の副理事を務めるなど中国との関係も重視した。

 しかし「パナマスキャンダル」と呼ばれる租税回避疑惑が浮上し2015年に英国首相を辞任、庶民院議員からも辞職した。保守党歴代首相の中では比較的まともとされている。

〚公約違反で辞任〛2016〜2019
テレーザ・メイ首相

 2016年の与党保守党 党首選挙でアンドレア・レッドサム候補を破り首相に就任。キャメロンとは異なり保守主義右派路線の政治家でEU離脱を強く主張していた。また親EU派の民主自由党との連立を解消した。

 外交面ではキャメロン首相は欧州と中国を重視したがメイ首相は米国と日本を重視した。特に日本国とは事実上の準同盟と評される程の友好外交を樹立した。しかし経済面での失政と主要公約であるEU離脱がなかなか進まなかった事から公約違反と批判され2019年に退陣し、議員からも辞職した。

〚自粛規制違反で辞任〛2019〜2022
ボリス・ジョンソン首相

  メイ首相の辞任を受け2019年に与党 保守党の党首選挙が実施され、元ロンドン市長のボリス・ジョンソン候補がジェレミー・ハント候補を破り勝利した。右派、極右の民族主義者とされるジョンソン首相はEUからの離脱を強硬に主張し2020年1月に達成させた。

 一方過去に右翼新聞で人種差別的な記事を書いていたという疑惑や同性愛者への極端な対応が問題視された。2022年に新型コロナウイルスの規制自粛中に首相官邸でパーティーをしたという疑惑(パーティー・ゲート)を追及され辞任した。その後責任を取り庶民院議員からも辞任している。

〚公約違反で史上最短辞任〛2022.9〜10
リズ・トラス首相

 ジョンソン首相の後任を選ぶ、与党保守党 党首選挙で反ジョンソン派のリシ・スナク候補を破り圧勝する。

 しかし減税や賃上げなどの主要公約を就任後わずか2日で破棄した為公約違反との批判が上がり就任後わずか50日で辞任(英国最短記録)。その後今回の総選挙で敗北し議員からも落選した。

〚リシ・スナク首相〛2022〜2024
リシ・スナク首相

 2022年の保守党党首選挙ではジョンソン派のトラスに敗れた物のその後の保守党党首選挙では、対立候補を圧倒し首相に就任した。

 欧州初の有色人種出身の首相、及び欧米ではオバマ大統領についで2人目の有色人種の政治指導者となった。またキャメロンを抜き英国史上最年少の首相となった。

 以上の事から就任後は期待されたものの1ヶ月足らずでレームダック化し2024年の総選挙で与党 保守党は大敗した。

【労働党圧勝の要因】
 労働党が今回圧倒的な勝利を手にする事が出来たのは大きく分けて2つの要因がある。
 
 1つは、コービン党首時代の社会主義マルクス主義路線の放棄だ。
労働党のコービン前党首

 2015年から2020年まで労働党の党首を務めたコービン氏は筋金入りの共和社会主義者、マルクス主義者で「民営企業の大部分の国有化や法人税と所得税の大幅な引き上げ、富裕層の資産の凍結し貧困層への支援に充てる、君主制と貴族制の制限もしくは廃止を問う国民投票の実施」など極めて左翼的な姿勢を示した。

 またコービン時代までの労働党は保守党や極右の大英再建党と同様に反移民、反EUの立ち位置をとっていた。

 その為、親EU派の中間リベラル層や穏健労働組合の支持が得られず2019年の総選挙では中間リベラル派の票が民主自由党など他の中道左派、親EU派の社会民主主義政党に流れてしまうなど労働党は大幅に勢力を弱体化させた。

 2020年から労働党の党首を務めるキア・スタマー党首はコービン時代までの社会主義、マルクス主義路線の放棄を宣言。またEU欧州との関係改善を打ち出すなど積極外交の展開を表明。中間層や中道系労働組合の支持を回復させた。


 2つ目の理由が保守党があまりにも国民に嫌われていると言うことだ。前述した通り労働党の得票率は2019年、労働党が大敗した総選挙から僅かに1.9%しか上がっていない。一方保守党ら20%以上の下落をマークした。

 スナク首相は選挙後の声明で「労働党が勝利したのではない。保守党が負けたのだ」と発表したのは上記のような理由からである。
【日本に重なる状況】
 一方今回の英国の政権交代という事象は日本国でも起こり得ると考えられる。英国保守党が数々の不祥事で国民の信用と信頼を失い、敗北したように自民党は保守党以上に様々な悪事と非道の限りを尽くしている。

 SNS上では英国選挙及び政権交代を受け「岸田自民党も吹き飛ばそう」「自民党も歴史的大敗させてやりたい」「英国国民の判断力が羨ましい」といった声が挙がっている。