進撃の巨人   #71   導く者





☆前のお話は → 「第60話~第70話 あらすじまとめ

★1期 → 「進撃の巨人 第 1話~第25話

★2期 → 「進撃の巨人 第26話~第37話

★3期 → 「進撃の巨人 第38話~第59話





「コラ。お客さん、その子はおさわり厳禁なんですけど」



「違うんだ、ヒッチ。これは...巨人の記憶っていうのは接触がきっかけになることが多くあって...何か重大な情報が手に入るかもしれなくて...決して疚しいことを考えていたわけじゃないんだよ」
「そりゃ男の子だもん。アニの重大な情報が気になるのもわかるわ」
「ひぃ。僕が悪かったから入場禁止だけはどうか...」



「そんな事しないってよ。アニも話し相手が私だけじゃ退屈でしょ。まったく、あんたは...寝てるだけなのに何でモテるのさ」



「あの子に熱を上げるのもいいけど、世間がどうなってるのかわかってるの? これ読んで」



「兵団が権力に固執するあまりエレン・イェーガーを不当に拘束...兵団への疑念が過熱している...」
「兵団は民衆が満足いく回答なにも言ってくれないしね」
「かと言ってジークの存在や地鳴らしの件を明かすわけには...」



「エルディアを救えるのはエレンだけだ」
「食い殺された国民の無念を晴らせるのはイェーガーだけだ」



「これは...」
「兵団本部全域を民衆が取り囲んでいるんだって...」



「おい、ヒッチ。お前も手を貸せ」
「うっ。仕事が増えるよ...」



「アルミン」
「ミカサ。よかった。無事に来れたんだね」
「うん。ようやくもらった時間を無駄にできない。急ごう」



「調査兵団の新兵?...」



「何であの子たちが本部に?」



「私はあの日エレンに会いに行きました。今まで黙ってきたことをお詫びします。これでは義勇兵が拘束されるのも無理ありません」
「またえらくしおらしいのお」



「私は思っていた。あなた方は世界を知らない。このまま議論を先送りにし続けていけば手遅れになると。危機感を覚えていたのはエレンも同じでした」
「それで、エレン自らマーレの中枢に潜伏し兵団を動かすように助言なさったか」
「そんなことは言ってません。ただ兵政権にはっぱをかける必要があるとは申しました」
「それだけかのう。危険を冒してまで密会するからには具体性のある取り決めを交わすものじゃろう」
「おっしゃる通り公の場であっても我々は彼との面会を申し出ることすら叶わない立場でした」
「それでも密会に踏み切ったかいもありエレンの誘導に成功しジークが望んだとおりの結果を得たわけじゃな」



「そんな事では意味がありません。私はただエレン・イェーガーに私を知ってほしかっただけで...」



「いえ。我々にとってエレンの持つ始祖はマーレを打ち砕く望みなのです。彼は我々が望んだとおりマーレに大損害を与えました。いえ、想像以上です。彼はたったひとりで我々を長年苦しめてきたマーレに天罰を下したのです。それほどの器の持主である彼が始祖を宿しているという事実。ピクシス司令。今、我々が目にしているものが何かおわかりですか? 我々は歴史が変わる瞬間に立ち会っているのです。ふたりの兄弟によって世界は生まれ変わります。私はそれを彼らの近くで見ていたいだけなのです」
「つまりエレンと密会した真の目的は好奇心であると?」
「そうなります。他の義勇兵は私が密会したことを誰も知りません。すべては私の軽率な行為。あなた方を欺いたのは事実です。私の行動はすべてエルディアを思ってのこと...」



「わしもそう信じたい。エレンと交わした会話のすべてお聞かせ願おう。うまい嘘のつき方を知っとるか。時折、事実を混ぜてしゃべることじゃ」





「まったく。この期に及んで我々を疑うなんて正直、失望しましたよ。俺たちは仲間でしょう? この3年間、共に汗を流して培った鉄道も貿易もこの島を豊かにしたはずです。俺たちはエルディアに尽くしたのに...はぁ~」



「すまない。10か月前の鉄道開通式から、こんなことになるとは...」
「まったくですよ。皆でエルディアの未来を誓い合ったのに」
「...えっ、イェレナがエレンと密会したことを認めた?...本当ですか?」
「本当に知らなかった?」
「知りませんでしたよ。本当に」



「うん。本当に知らなかったと見える。私にはね」
「イェレナが...」
「イェレナがそんなことするわけない。とは言わないんだね。彼女ならやりかねないと思っているから?」



「そんなことは...」
「順序は正しくないが君たちを拘束しなくてはいけない理由ができた。イェレナについて知っていることはすべて話すんだ。我々の今後のためにも」



「知っての通り我々義勇兵を組織したのはイェレナです。最初は互いに疑心暗鬼になり、うまくまとまらなかった。その度に彼女は自ら手を汚すことでジークさんや組織への忠義を示してきました」



「寝食を共にした友であっても、こちらを疑ったマーレ人はすべて事故死として葬った。俺たちもそれがマーレに奪われた祖国のためだと信じることで乗り切ったんです」



「変だな。彼女が兵政権に反発してまでマーレ兵の人権を譲らなかった。そこまでマーレ人に容赦のなかったイェレナが...この島で...よし、私について来てくれ。オニャンコポン」
「えっ...」



「ハンジは相変わらず飛び回っているらしいな」
「はい。確かめないといけないことがあると」
「ああ。義勇兵ひとり連れ回すことを許可したが君たちとエレンを面会させることはできない」
「どうしてでしょうか」
「義勇兵とエレンの接触が明らかになったからだ。エレンは義勇兵と密会したことをひた隠しにして今回のマーレ強襲劇に及んだ」



「現在は密会を企てた首謀者や関係者への調査が続いている」



「エレンは今回の発覚を受けて以降、黙秘したままだ。彼が単独で過ごしたマーレでの時間についても依然として空白のまま。おそらくエレンはジークに操られていると我々は見ている」



「他ならぬ君たちだから話したが、くれぐれも内密に頼む」
「エレンが...そんな...」



「エレンは、どうなりますか?」



「それは?」
「ん? 何でもない。置き場に困った物を先ほど新兵に運ばせたんだ」



「しかし総統。エレンが黙秘するのでしたら、なおのこと僕たちふたりがお役に立つのではないでしょうか。確実にエレンから真意を聞き出せるとは申しませんが試して損はないはずです」
「事態はより慎重を期す。話は以上だ」



「なぜ...アルミンの言う通り損はないはずなのに...どうしてダメなの?」



「考えられるとしたら兵政権はすでにエレンを見限っているのかもしれない」





「失礼します」



「もしそうだとしたら、始祖の継承者選びが始まっている」



「あの部屋の会話を聞いて来る」
「待ってよ。ミカサ」
「大丈夫。バレないようにできる」
「今、兵規違反を犯しちゃまずいよ」
「状況がこうなった以上は兵団の方針をいち早く知る必要がある。何があっても私はエレンを...」











「アルミン。ケガは?」
「...大丈夫」



「あんたたち、無事なの?」
「ヒッチ。何があったの?」
「いきなり総統の部屋が...」
「総統は?」



総統...( -人-)



「心臓を捧げよ。俺たちの怒りが届いたんだ。今こそ戦う時だ...」





「心臓を捧げよ。心臓を捧げよ...」



「ザックレー総統の私物である特注のイス。これに爆弾が仕掛けられていたと見ている。総統を含む4名の兵士が犠牲となった。犯人もその目的も不明」



「彼なら一日中、私と一緒にいたし義勇兵は全員軟禁中だ」
「では他に考えられる勢力は?」



「あのイスは新兵に運ばせたと総統は申しておりました」
「どこの新兵だ」
「総統は新兵とだけ。しかし僕とミカサは総統の部屋を訪れる前に本部から立ち去る新兵を見ました。調査兵団です」



「調査兵団といえばエレンの情報を外に漏らして懲罰を受けた者どもがいると聞いたが。まさか...」



「緊急事態です。エレン・イェーガーが地下牢から脱走しました」





「...総動員して捜索するんだ...」



「いったい何が起こっているの?...」















「多いな。何人いる?」



「ここにいる者以外にも俺たちの味方は兵団内に潜んでいる。ダリス・ザックレーを爆弾で吹き飛ばした者もいる。このエルディア帝国を救えるのはお前しかいない。エレン・イェーガー」



「大丈夫だよミカサ。エレンならわかってくれる。話し合えばきっと...わかってくれる...」



「ジークの居場所を特定する」





「フロック・フォルスターを含め100名あまりの兵士が檻の中から看守ごと姿を消した。そのすべての兵がエレンの脱獄と同時に離反をしたと見られる。総統の殺害もやつらの仕業と見て間違いない」



「やつらでは困るな。反兵団破壊工作組織イェーガー派と呼称しよう。そしてイェーガー派の目的は...わかるかハンジ」
「ジークとエレンの接触を果たすことがすべてだろう。そしてエレンを中心とした兵団組織の変革。総統の殺害は彼らの強い意志を示している」



「今回、直接の引き金となったのは兵団がエレンから始祖を移そうと画策していたからだ。我々に何のしらせもなく」
「しらせていればどうなるかぐらい見当がついたさ。何よりイェーガー派の多くは調査兵団からだという。どう責任を取るつもりだハンジ団長」
「いくらでも処分は受ける。しかし今、私が兵団を退くことより無責任なことはない。それにイェーガー派はまだ、どの兵団にどれだけ潜んでいるかわからないだろ」



「そうだな。俺の目の前にいるかもしれない。今お前らが自爆しても不思議じゃない」
「ローグ。バカなことを言うな」
「どうやって証明する? それができない以上は、お前ら調査兵団を野放しにしておくわけにはいかない」



「よさぬか。客人の前であるぞ。仲間同士でいがみ合うより先に、やるべき事があるだろう。ハンジ、ジークの拘留場所を知るものは?」
「現地で監視にあたるリヴァイと30名の兵士。そして補給と連絡を受け持つ3名。あとは私だけだ」
「ならば、その3名をここへ。ナイル、女王の住処は安全か?」
「限られた者しか知りませんが、今一度確認します」
「エレンがまず狙うは、ジークとの接触。そしてヒストリア女王。まずはこのふたつの守りを万全の物とせよ」

「了解」



「ピクシス司令。総統を失った今、我々を束ね統率することができるのは、あなただけです。何か今後の展望はございますか?」



「うむ。これはもう、わしらの負けじゃ。エレンに降参しよう。兵団内部に敵を抱えといてはどうにもならんが、仮に徹底して敵をあぶり出すにしても、どれだけの血が流れることか。そんな愚行に費やす時間はどこにもない。多くの兵に兵団を見限る決断をさせた...我々の敗因はこれに尽きる」



「そんな。総統らを殺した連中に頭を下げるおつもりですか?」
「ザックレーとの付き合いは長い。革命に生き革命に敗れるなら、やつも本望じゃろう。何より、4名の死者はその弔いの代償にエルディア国の崩壊を望んではいないだろう」
「それではイェーガー兄弟に服従するおつもりですか?」
「服従ではない。イェーガー派にジークの居場所を教えることを条件に交渉を図る。我々は従来通り地鳴らしの実験を見守り、これにエルディアの存続を委ねる」



「但し、我々の親玉を殺された件を、ここに不問とする。これで数百人、数千人の同志が殺し合わずに済むのなら...安かろう」
「それでは各員、取り掛かれ」
「了解」



「指令殿」
「たいへん見苦しいものをお見せしましたのう」



「いいえ。どの国も通った道です」
「あなた方の安全も絶対とは言えませんな。どうか事態の収拾まで港でお過ごしくだされ」
「はい。私どももエルディア国の勝利を心より願っております」



「ミカサ様。何かありましたら、すぐに私どもの船までお逃げください」
「キヨミ様のお心遣い感謝いたします。しかしながら私はエルディア人ですので生まれ育ったこの島の行く末を見守りたいと思います。どうか私のことはお気になさらずに」



「何をおっしゃいますか。私どもがここに来たのは、あなた様のために...」
「地下資源がなくてもですか? この国の主導権を握るのが誰であろうと地鳴らしさえ成功すれば、というお立場ですよね」
「ええ。地鳴らしの力が本物でなければヒィズル本国からははしごを外されることでしょう。これまでの交渉は水泡と帰しアズマビト家は最後を迎えましょう」
「でしたら、なおさら頼るわけにはいきません」



「激動の時代の中でアズマビト家は変じてきました。今や金勘定にあさましい女狐の汚名がとどろく始末と成り果てました。ただ、ミカサ様の母君が残された一族の誇りまで失ったわけではございません。この国がどうなろうと、あなた様だけはお守りいたします」



「まさか総統を殺したエレンに協力するなんてな」
「まだエレンがやったと決まったわけじゃない」
「声が大きいぞミカサ。俺たちはイェーガー派じゃねえのかって疑われてんだぞ」



「実際どうなんだよミカサ。おまえは?」
「私とアルミンはあの爆発に巻き込まれるところだったと言った。これでもわからないのか」
「はあ?」
「やめるんだ...」



「ピクシス司令の言う通り兵団内での争いは自滅でしかない」
「ではすべてはエレンとジークに委ねることに問題はないとお考えですか?」



「いいや。それはよくない。この状況を踏まえた上でジークやイェレナによって仕掛けられた保険が効果を発揮してきている。そして保険は他にもまだあると考えるべきだ。私たちはこれ以上無様に翻弄される前にジークの思惑を明らかにしよう。もちろん私の早とちりならそれでいいんだけど」
「何かあてがあるんですか?」
「彼女が守ったマーレ人捕虜の労働環境が怪しい...」



「例えば、レストランとか...」



「すごい建物」
「こんなとこ初めてだ...」
「よかったなあ、お前たち」
「今日は、うんと食うときなさいよ」









「チッ。兵団のやつら騒々しいな」





★次回 「森の子ら」