夏目友人帳 伍 第1話 「変わらぬ姿」

小さい頃から時々、変なものを見た。
他の人には見えないらしいそれらは、おそらく妖怪と呼ばれるものの類。
俺(夏目貴志)と同じく見える人だった祖母、夏目レイコは妖怪たちとの勝負に勝った証に名前を書かせた。妖怪たちに自在に命令できるというその紙の束『友人帳』を遺品として受け継いだ俺は訪ねて来る妖怪たちに相変わらず名を返す日々。


夏目が道を歩いていると後ろから壷が来た。たてまわりに転がり続けるなんて普通の壷じゃない。夏目は家に逃げ帰った。

ニャンコ先生に話すと上手くまいてしまえたのだから、どうせ大したやつではあるまいと言った。だといいけど。

そういえばレイコさんはどうやって身を守っていたんだろう。名前を返すたび見えてくるのは、いつも同じ祖母の笑顔。何度返しても見えてくるレイコさんは、いつもひとり。


塔子さんに頼まれて夏目は街に出かけた。ニャンコ先生はスイーツに大興奮。立ち話をしている親戚の女性を見つけた。せっかくの機会だからと挨拶をする。

母方の祖母のことに詳しい人を知りませんかとたずねると、親子二代、身よりもなくて変わり者でと迷惑そうに話す女性。話しづらいことを聞いてすみません、ありがとうございましたと夏目は言った。

その様子を見ていた友人の田沼が大丈夫かと声をかけた。夏目は田沼に話した。今の女性は父方の親戚で、祖母のことを聞きたかったのだが、返ってくる言葉はほとんど同じで、俺と同じで見える人だったから、変人だったとか心を病んでいたとか。
祖母のレイコさんは結婚せずに子供を産んだと小さい頃に聞いた。俺の母は父親を知らない。だからきっと男に捨てられたんだろうとか思いレイコさんのことを知るのが怖かった。でも妖(あやかし)たちが話してくれるレイコさんはどこか違っていて、だから。

夏目には大切なおばあさんなんだなと田沼。聞いてくれてありがとうと夏目は言った。帰り道、ニャンコ先生にごめんなと謝る夏目。なぜ謝ると聞かれ、わからないけど先生たちの中のレイコさんは笑っているから先生には話したくなかったんだと言うと、何だそれは、お前はほんとうに意味がわからんとニャンコ先生は言った。


翌朝、玄関に壷が立っていた。「見つけたぞ、夏目レイコ。返して、宝物を返して」という壷に俺はレイコさんじゃないんだ。友人帳に名前があるなら返しますと言うと「泥棒レイコ」と壷。泥棒っていったい何をと聞くと、私の宝物、大事な友だちを奪ったくせにと言った。
どうしたとニャンコ先生が駆け寄る。返さなければ代わりにあなたの宝物をもらいに来ると言うと壷は去った。塔子さんがご飯よと呼ぶが夏目とニャンコ先生は壷のあとを追う。


壷を見失った。小さな小屋があった。人の気配はないようだがとニャンコ先生。中から顔を出した女に壷の妖怪をこの辺で見失ってと話した。祖母に何かを盗られたと言っているが事情がわからなくてと言うと、夏目レイコは壷からとても美しい人形を盗んだのよ、知らないのと言った。
寂しいレイコはきっと欲しかったのね。あなた孫なら遺品の中でも探してみたら。レイコという名を聞いて妖怪たちが集まりはじめた。いったん帰るぞとニャンコ先生。



家に戻ると、ご飯も食べずにどこに行っていたのと塔子さんに叱られた。急にジョギングがしたくなってと言うと、行ってきますとただいまはきちんと言いなさいと滋さんに言われた。はいと夏目。
とにかくもう一度あの小屋へ行ってみると友人帳を持って夏目が出かけようとすると、どうせ言いがかりだから放っておけとニャンコ先生。そうはいかない、代わりに俺の宝物をもらいに来ると言っていた。家にいると滋さんたちに目をつけられるかもしれない。

まったく、お前もレイコも面倒なと言いながらニャンコ先生も一緒に出かける。宝物。もし俺の大事な人たちをそれとみなされたら。とにかく今は離れていよう。小屋に行くと誰もいないようだった。口髭の小妖怪が現れて、そこに住む妖は恐ろしく手がつけられないやつだから早く逃げろと言った。ありがとう、だったらお前も危ないだろうと連れて行く。

面で顔を隠していたが、ニャンコ先生を猫のふりをした子豚だなと小妖怪w ニャンコ先生怒るwww レイコという名前を聞いたことがあるかと聞くと、盗人レイコかと言った。カヤツボが人形を盗まれたと騒いでいたことがあった。大切な友だちなのに夏目レイコが羨ましがって盗んでいったと。

妖怪たちが出て来て、芦原の森にずっと前に人の子が捨てて行った人形があったと言った。あれならまだ落ちているかもしれないと聞いて森へ行く。


人形を見つけた。これかな。あのレイコさんが人形を欲しがったなんて意外だな。


俺はレイコさんには笑っていてほしいのに、今なにを知ってもやっぱり何もしてやれないんだな。人形は見つかったのかと小屋にいた女が声をかける。だから今、壷の妖怪をさがしにと夏目が言うと、それは違うと女。そんな小汚くなかった。もっと美しい。髪も着物もそんな泥は付いてなかった。女はカヤツボだった。

やっぱり返す気がないのね。あなたの家へもらいに行ってくるとカヤツボ。斑の姿になったニャンコ先生が調子に乗るなとカヤツボを追う。


この人形じゃないのか。じゃあどこに。ひとりになった夏目は大きな妖怪に捕まった。こんな時に。反応している。やっぱり夏目レイコだと言う妖怪は友人帳に名前がある者のようだった。俺はレイコじゃないから放してくれと夏目。早く放れないと意識を飲まれる。


ドングリ好きの妖怪の前にレイコが現れて女の子を見なかったかと聞いた。高いところから人探しをしたいから肩に乗せてくれとレイコ。ドングリより美味しいものをあげるからと言った。ドングリより美味なものなどないと妖怪が言うと手伝ってくれたら、お饅頭というものを今度持ってきてあげるとレイコは言った。


私が怖くないのかと妖怪。あなたに鳥がとまっているのを見たわとレイコ。妖怪は鳥は好きだが人間は好かんと言った。森に迷い込んでいた近所のお屋敷の少女を見つけた。人形は見つけてあげるからとレイコは少女を家に帰した。

今日は森が珍しく賑やかねと人形を抱いたカヤツボが現れた。その人形はあなたのかとレイコが聞くと、そうなの、きれいでしょうとカヤツボ。あの子をお友だちにしようと転ばせたら人形を落としたからもらったのと言った。
落とし物は持ち主に返さないと。それはあの子の大事な物だとレイコは言うが、これはもう私の友だちだからダメよとカヤツボ。それとも人形とあなたを交換して私の壷に一緒に入るかとレイコに手を伸ばした。ドングリ好きの妖怪がレイコを連れて逃げた。

いいことを教えてやろうと妖怪。あいつはカヤツボといって恐ろしいやつだが、日が暮れるとどこでも眠くなって壷の中で寝てしまうからその隙に取り返すといい。人の子は嫌いなのに教えてくれるのとレイコが言うと人間は嫌いだが小さな生き物は嫌いではないのだと妖怪は言った。
じゃあやっぱり私も今度お饅頭を持ってくるわとレイコ。最近、変わった人に会った。人間のくせに私に話しかけてくる。木に登ったら危ないとか遅いのに外を出歩くなとか。男のくせに小うるさくて苦手なんだけど、たぶん他の町に住んでいてたまにこの町に来るみたい。その人が時々、お饅頭を買ってくれるの。七辻屋というとても美味しいお店なのよ。


カヤツボが寝ている隙に人形を取り返したレイコは、妖怪にありがとうと言うと少女に人形を返しに行った。

道で少女の母に会い、その人形をなくしたと娘が大泣きして帰って来たがどうしてあなたがと聞かれたレイコは、拾ったので届けに行くところでした。娘さんに返していただけますかと人形を渡そうとするが、母親は新しいのをもう与えたからそれは差し上げるわと言った。

でも困りますとレイコは言うが、いいのよと言うと母親は去った。あの娘がお嬢さんから盗ったのかもしれないのによろしいんですかと使用人に聞かれた母親は、やめなさい、気の毒なお嬢さんらしいじゃないのと言っていた。

レイコはカヤツボを訪ねるが留守だったので人形を木の上に置くと大事にしてくれる者のところにあったほうがきっといいわと笑った。

私の記憶を覗いたな。お前レイコじゃないと妖怪。夏目は、孫の貴志です。友人帳に名がありますね。名は返します。けれど今は放してくれませんかと言った。カヤツボは祖母が人形を盗んだと怒っています。早く帰らないと俺から代わりをもらうと。

そうだ早く放せと小妖怪。ついて来たのか、危ないから離れてくれと夏目は言った。変わった人の子だと言うと妖怪は夏目を放した。レイコと同じ姿なのにただ笑っていたレイコと違って表情がコロコロ変わる。心もコロコロ動く。

さっきお前が見つけたのがあの人形だ。カヤツボのやつにも教えてやったが汚れたそれはあの人形だとは思えなかったのだろうなと妖怪。祖母のこと、ありがとうございました。必ず名を返しに来ますと言うと夏目は家へ急ぐ。口髭の小妖怪にもありがとうと言った。

俺には宝物がいっぱいで、それは最近、俺を弱くしてしまうほど。けれど、

夏目が家に戻るとニャンコ先生が斑の姿から戻って、何をしていたんだ夏目、そもそも私にこの家を守る義理はないのだぞと言った。ありがとう、カヤツボはと夏目。先回りして見張っていたがまだ来ておらんとニャンコ先生は答えた。

日が沈んだから今夜はもう来ない。では早朝、迎え撃つかと言うニャンコ先生に、でもその間にやってみたいことがあるんだと夏目は言った。

塔子さんに人形を見せて、知り合いの物なのできれいにしてあげたいのだが方法がわからなくてと相談した。



塔子さんと先生の力を借りて何とか土や草を落とすことができた。


人形を玄関先に置くと夏目とニャンコ先生は家の中でカヤツボを待った。

翌朝、カヤツボが来た。人形を見つけると、わあきれい、あなたここにいたのね。私と一緒にいてよ、大事にするから一緒に帰りましょうと言うと、良かったと人形を抱えて帰って行った。
記憶の中のレイコさんは、いつ見ても不敵な変わらぬ姿。

約束のお饅頭をくれたレイコに妖怪は、大丈夫か、人に疑われていたようだったがと聞いた。平気よ、でも慣れないお節介なんてするもんじゃないわねと言った。人の子に名乗る名などないという妖怪に、あなたの名前が知りたいから私と勝負しないかと言った。


名を返しに行くなら道が違うぞとニャンコ先生。七辻屋の饅頭でも買おうと思ってと夏目。たくさん買えよ、私はあれが大好きだと喜ぶニャンコ先生。ああ、俺もだよ。
☆次回 「悪戯な雨」
【感想】
久しぶりの夏目友人帳。第4期は4年以上前だったんですね。変わらず、いいお話でした。よけいな感想もツッコミも必要ない感じだね。これからしばらく毎週ニャンコ先生に会えるし、楽しみがまたひとつできました。
夏目友人帳 21 [ 緑川ゆき ]