およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群をヒトは古くから畏れを含み、
いつしか総じて『蟲』と呼んだ。
(2006年に放送されたものです)
★2014年4月~12月「蟲師 続章」→ 蟲師 続章 あらすじまとめ
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蟲師 第22話 沖つ宮




「産み直し」のことを調べるためにギンコは島を訪ねる。はるばる来たが初日の収穫はなし。島の人間は手強い、ゆっくりやるかとギンコが思っていると沖に見える岩のまわりの海が光っていた。近くにいた女性・澪(みお)にあの光は何ですかねとたずねる。海ボタルにしちゃ明るいし漁火にしちゃあんまり小さい。
さあ私にもと答える澪に、へえ、あんたには見えるのかいとギンコ。あなたはああいうものに詳しいのかと澪に聞かれて、ええ、まあそういう生業でと答えた。娘のイサナが爺ちゃんが戻ったからご飯にしようと澪を迎えに来る。澪はギンコに野宿にはヘビが多いから良かったら家へどうぞと言った。
家に戻ってお客さんだよとイサナが言うと、どちらさんだい「マナ」と澪の父。澪は父にその子はイサナよと言い父はすまんと謝った。食事の後、ギンコが海を見に行くと光は見えなかった。澪が来て月が出てきたからあれはもう現れないと思いますよといい、産み直しのことを聞きにここへ来たのかと言った。何かご存じでとギンコが言うと澪は話した。
あの光はいつもあの岩のあたりから現れる。あの岩の下には「竜宮」と呼んでいる海淵(かいえん)があり、あそこで命を落とした者はまったく同じ姿でもう一度生まれてくる。澪はギンコにイサナはまともな子供に見えましたかと聞き、あの子は私の母の産み直しですと言った。
助からない病の母を生きているうちに沈めてやらないとと運ぶ父。澪は嫌だと言ったが母は消えてなくなるのが恐ろしいから許してと言った。またここへ戻ると思って眠りたい。父は竜宮に母を運ぶと海に沈めた。そして明日は望月(満月)という晩に澪は父に頼まれた。
母さんに会いたくないのか、みんなマナが戻るのを待っているんだ。夫も母も次々と失くして辛いだろうが子を生せば糧にもなろう。お前しかいないんだと頭を下げる父に澪はわかったわ、産んであげると言った。でもその子はもう母さんじゃないからマナとは呼ばないと約束してと言った。
望月の晩に父は竜宮から赤い卵のようなものを持ち帰った。一粒でいい人が飲めば子になり、ひと月の間、海に沈めた者の姿になると父。澪は赤い玉を飲んだ。そうしてイサナが生まれた。夫が亡くなったのはイサナが生まれる2年も前だから亡夫の子どもということはない。私はあの子が何者なのか知りたいと澪は言った。まだ何とも言えないが、あの子はまともな人間に見えたし腹を痛めて産んだ子に違いあるまいとギンコ。ただ祖母によく似た子どもと思っていればいいんじゃないかと言った。
眠れない澪。母はそういう時は大きな魚になったつもりで青くて静かな深い海にゆっくり潜っていくとこを思い浮かべるといいと言っていたことを思い出した。翌日ギンコがイサナに聞くと、そうよ私は婆ちゃんの産み直しなんだって、そんなのならたくさんいるよと言った。
あの子もそうよとイサナが指さす。ヘビに噛まれて死にかけて産み直された子、嫁に行ってすぐに鱶にやられて産み直されて旦那さんは十何年も待ってまた祝言を挙げたという夫婦、みんな産み直されて幸せに暮らしているのよとイサナ。お前さんも幸せかとギンコが聞くとマナと呼ばれると少し困るが母さんのところに生まれて幸せ、この海も島もみんな好きと答えた。竜宮に舟を出してみたギンコだが何も見えず変わった様子はなかった。満月の産卵を待つことにする。
失った愛しい者を取り戻せる島。望めば永久に別れずにすむ島。ならばここはまさしく楽土だ。だが、澪は言った。よく似た子どもと赤子の頃は思った。母の子どもの頃は知らないが成長するにつれ顔や細かい癖や何もかもが知っている母の姿に近づいていく。母とは別れたはずなのに同じ姿で私を母と呼ぶ。自分が産んで育てた娘が、自分の娘と思えない。
満月の晩にギンコは竜宮の奥から出て来るたくさんの赤い卵を見た。持ち帰って調べて澪に話す。あの粒はやはり何らかの蟲が作り出しているように思う。確証はないが粒のなかにあったのは様々な生物の「胚」でそれを取り込んだものが海へ流したものと同じ姿のものを宿すということはその蟲は生物を胚の状態に戻す作用をもたらすものと考えられる。
あの子は身体的にはあんたの母と同一人物でこの先ますます近づいていく。だがあんたに産み育てられたから母にはなれない。あの子にとってあんたはひたすら母なんだ。ギンコの言葉に私がしっかりしてやらなきゃと澪は言った。
明日、帰るとイサナに話すギンコ。これ以上首を突っ込むとこの島をほっといていいかわからなくなる。お前らの幸せを奪う権利なんてないのになと言った。ありがとうとイサナ。私も母さんが死にそうになったら産んであげるんだと言った。
翌日は悪天候でギンコは島に留まることになった。嵐がひどくなって寝つけない澪とイサナ。あんたも寝つけないことあるのねと澪が言うとイサナはあるけどいい方法を知っていると言った。眠れない時は大きい魚になって海に潜るところを思い浮かべるといいんだよ......母と同じ話、澪は嵐の中、外に出た。しっかりしなきゃ。
流されそうな舟を見つけた澪は取りに行ったが大波が来て流されてしまった。みんなで探すと舟は竜宮の光に向かっていた。喰われるから近づくなと言われたがイサナは舟を出す。ギンコも一緒に舟に乗り慎重に近づく。光が澪の舟を囲んで蟲が海に引きずり込もうとしていた。澪は来ないでと言ったがイサナは海に飛び込んで澪を助けた。舟に乗せたがイサナが蟲に引っ張られ手を差し出したギンコも一緒に落ちてしまった。
海に沈みながらこれはとてもかなわないと思うギンコ。このままこいつに喰われれば俺も胚にまで戻してくれるんだろうか、悪い冗談だな。すると蟲が急に離れて行った。澪が飛び込んでギンコとイサナを助けた。嵐が止んでいた。あれはなぜ急に消えたんだろう。空には月が出ていた。そうか月だったなとギンコは気づいた。
翌日、あの蟲のことはごく一部がわかったにすぎないが、発光して生物をおびき寄せて捕えおおもとの姿にまで戻して排出する。生き物の生きた時間を喰う蟲と言えるかもしれんなと澪とイサナに話すギンコ。何にせよあれのことをあんたらはよく知っている。折り合いがつかないところも時間をかければいずれ馴染んでいけるだろうと言った。
あの時、何も考えずに飛び込んだろうとギンコが言うとイサナは、ごめんねと笑った。あのまま母さんが喰われても産み直せばまた会えたのにというと、でもそうしたら母さんの生きた時間は食べられてしまう。そんなの寂しい。生きた全部を誰かにあげるくらいなら母さんのまま死んでしまうほうがまだいいと言った。
母さんと同じだ、さすがあんたは私の子だ。澪はイサナの頭をなでた。島を離れるギンコ。澪とイサナが手を振っていた。その島で「産み直し」はこの先も通常的に行われることだろう。死にゆく者の慰めに、残される者の空洞の埋め合わせに。それを望まずに死にゆくことは、得難く幸福なことかもしれないから。
★原作では第5巻にあります。