優子は屋上を出た後、すぐに学校の門へと向かった。

急いでいたわけじゃない、ただ何となく足が無意識のうちに進んでいた。

誰もいない廊下を歩く優子の手には先程の小銭が握られている。





「神頼みでマジなんか見つかんのかよ…」




小銭を手の上で投げながら言った。

ジャリジャリといった音が響き渡る。



廊下を曲がり、下へと続く階段へと出た。階段を降りようと優子が歩を進めたその時、踊り場に一つの人影があった。
優子は目を見開く。踊り場からその鋭い眼差しで優子を見上げていた。






「よぉ…有名人。」


相手が言った。




「おめぇは…」




踊り場に立っていたのはラッパッパ副部長セリナ。腕を組み、壁に寄りかかっている。




「フン、副部長がこんなとこで何してんだ。ラッパッパってのもえらく暇なんだな。」





「そうだな…誰もラッパッパの階段登ってこないんで、わざわざ降りてきてあげたってところか。」





セリナはそう言い口角を上げた。
しかし優子の表情にも余裕があった。




優子が不敵に微笑む。




「なるほど・・・今ここであんたをぶっ飛ばしてあげたいところだが…今日はいいや。」




「フッ、ちょっとは分かるようになったじゃないか?頭でも打ったのか?」





「んなんじゃねーよ!あんたと違ってこっちは忙しいんだよ!」



そう言う優子だったが心では違った。この人とは自分のマジを見つけてからやりたい、マジな拳同士ぶつかり合いたいと思っていた。





「…そうかそれは残念だ。」



そう言いセリナは寄りかかっていた壁から離れ、階段を上ってきた。そして優子に近づく。そして静かに口を開いた。





「一つ言っておこう…」



そう言い人差し指を立てる。




「なんだよ?」




「…お前は何か勘違いしてないかい…私は副部長だ。お前が倒す…目指す場所はトップなんじゃ?
フッ…まぁお前が慎重に上に上りたいってなら…相手してもやってもいいが?」





セリナが微笑む。
そして優子の横をすり抜け歩き出していった。





「…部長か…いいじゃねえか、一気に階段上ってやるよ。」



優子が窓の外を見る。




「やべ、日が暮れちまう、早くいかねーと。」




そして階段を降り走りはじめた。



少し廊下を進んだセリナだったが、立ち止まり走り去る優子の背中を見ていた。
セリナは気付いていた。先程の言葉を言った後、優子の目が少し変わったことを。





「…フッ…ちょっとはいい目になったんじゃ…?」






そう言いセリナは再び歩き出し、屋上へと続く扉をゆっくりと開いた…







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篠田が囲まれる。

連れてこられたのはどうやら古びた神社のようだ。

周りには誰もいない。

木々の葉は風に揺れ、不気味な音を立てていた。

 



「こんな所に連れ出してどうしたんだ?」

 


篠田が尋ねた。その表情は状況とはかけ離れ、落ち着いていた。





「フンっ、そんな余裕ぶっこいてて大丈夫なのか?」

 


そう言いローズたちがここへ連れて来るまでに持ち出した鉄パイプや、木刀などを出し始めた。

 

篠田も想定内だったので驚きはしなかった。

再びローズたちが話し出す。




「チームを抜けるってことがどういうことか教えてやろうってことさ。金ヅル逃がしたのもあるしなぁ。

おめぇみてーなデカブツはなあ、一生黙って後ろについときゃいいんだよ!」




「なるほど、制裁ってわけか・・・まあいいだろう・・・」




篠田が静かに呟いた。
その落ち着いた立ち振る舞いに、ローズたちがからかう。



「おい、おめえこの状況で勝てるとでも思ってんのか?こんなやつにビビる1年の奴等も大したことねーな!」





篠田以外の皆が一斉に笑う。

篠田は表情一つ変えない。

そして静かに口を開く。




「お前ら、今まで私が本気を出していたとでも?フンッ、そう見えてたならお前達の目は相当な節穴だな…」





「なっ…どういうことだ!」






ローズ達が驚くのも無理はない。篠田の言葉どうりローズは篠田の゛本気゛の力を見てはいなかった、というより見させてもらえなかった。
少なからず篠田はそう解釈している。




「だから言ったろ?お前達と一緒なら゛マジ゛になれねぇってなぁ。」





「フンッ、なんだよそれ?その余裕もすぐなくならしてやるよ、デカブツ!」


そしてローズ達は手に持つ武器を構えはじめた。



「まぁ、武器でも持たせなきゃ、フェアじゃねぇだろ?」




不敵にほほ笑んだ。



ローズたちの表情が怒りに変わった。




「おめえら!仲間だったからって遠慮はいらねぇ。手加減すんな!ぶっ殺せ!」



 

ローズのリーダーが叫ぶ。

しかし篠田は構えることひとつせず、目の前の”敵”に向かって言う。



 

「私がいつお前たちを”仲間”といった?」



篠田の目に力が入る。

 



「フン!殺っちまえ!」



ローズたちは一斉に篠田に向かって駆け出した。

 





 

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門を出た後、優子は一人歩く。

 

屋上で言われた神社は、いつもの帰り道の途中にあった。

どこにでもあるような神社だったので、いつもは何気なく目にしている程度であったが、1度だけ優子は立ち寄ったことがあった。春、木々に満開の桜が生い茂っており、まるで優子を誘うかのように、小枝が風に揺れていた。

その美しさに見とれた優子は、数分間その場で眺め続けた。

それ以来行くことはなかった。

しかし優子の心と足は確実に神社へと向かっていた。

屋上で聞いた言葉にはどこか説得力がある。

見つかるなんて思ってはいないが、行かなければ後悔しそうな気がした。

明日でもいいのだが、なにか今日でないといけないような焦燥感を優子は感じていた。





神社が見えてきた。




「あの神社のこと…だよな。」





遠目からでも歴史ある神社だと言うことが分かる。
夕日が照り、辺りは静寂に包まれていたが、優子が近づいていくにつれ、声が聴こえてきた。
普通の声じゃない。叫びあっている。それか喧嘩だということに優子はすぐに気付いた。




「おっ、こんなところで、いいね~。声からして5.6人ってとこか?」




優子の本能が高ぶり、神社へと駆け出した。
そして神社の前に立つ。
境内の前では、優子の予想通り何人かが喧嘩をしていた。いや喧嘩じゃない、そこには圧倒的な力の差があった。振りかざされる鉄パイプや木刀を鮮やかに避け、的確に相手の急所に打撃を入れていた。それはまるでプロ格闘家が子供を相手しているかのようだった。





「…!あいつは!」



優子が驚く。優子はここに今日来た意味が少し分かった気がした。運命など信じてなかった優子だが、不思議と胸のうちからそういった感覚が込み上げてきた。
しかし優子自身、喧嘩をする直前の高ぶりのようなときに感じるものと違ったこの感情が何なのかよく分かっていなかった。






「えっと…あいつ何て名前だったけな…確か~

それにあいつが相手してんのあいつの連れだったんじゃねぇの?」


考えている内に、辺りは再び静寂になる。境内の前には、篠田以外たっている者はいなかった。





「にしてもあいつ、やるなー。息一つ切らしてねぇ。」




優子はゆっくりと神社の中へと歩いていく。




篠田がゆっくりと顔をあげる。そして優子と目があった。
篠田は何も言わない、ただたっているだけだ。



その瞬間優子は時が止まったように思えた。















「お、おめぇ…泣いてんのか…」













To be continued …