かつて不登校だった愛知県出身の漫画家・棚園正一さん(32)の漫画「学校へ行けない僕と9人の先生」(双葉社)が、話題になっている。作品は子どもの視点で親や周囲の人々を描く。改めて「人生を頑張って生きないと」と語る棚園さんに、思いを聞いた。

 名古屋市在住の棚橋さんは、愛知県内で育った。小学1年の時に担任の先生とうまくいかず、不登校に。病院に通ったり、学校に着いても教室に入るまで数時間かかったりした。結局、小中学生時代の約半分は不登校だった。「学校に行っていない引け目と、どんな大人になるのだろうという不安でいっぱいだった」と当時を振り返る。

 転機は中学生の時、ファンだった同県在住の漫画家・鳥山明さんと出会えたこと。母親が鳥山さんと小学校の同級生で、知人を介して自宅を訪ねた。学校に行っていないことや漫画家になりたいことを話すと「学校に行ったらその経験を漫画に描けるから便利かもね」。でも、その程度のことなんだ、と憧れの人の言葉に世界が開け、気持ちが楽になった。「漫画を描くことを大切にして生きていこうと思えた」と話す。

 その後、定時制高校などを経て、予備校で学んで大検を取得。名古屋芸大を卒業して、現在は漫画を描きながら専門学校の講師などをしている。

 不登校の経験を漫画にすることは、担当編集者から提案された。「自分の過去をそのまんま描いた。でも病気だったり、貧乏だったり、もっと不幸な人はたくさんいるのに、こんなの面白いのかな?」と考えていた。「それが普通だった」ため、描きながらつらい思い出に苦しむこともなかったという。ただ、“わかりやすさ”は心がけた。「不登校の子を勇気づけようと思ったわけではない。会社でもどこでも、周囲になじめない人、普段漫画を読まない人に届いたらうれしい」と話す。

 2月末に出版され、反響は予想以上だった。「元気が出ました」「こんな気持ちなんですね」という不登校の親子や、教師やNPOなどサポートする側の声などが届いているという。「うちの子には当てはまらない」という感想もあるが、「どんな状況でも子どもを認めてあげるのが大事、と言いたい」。

 自作漫画の単行本出版は夢だった。巻末や帯には鳥山先生がメッセージを寄せてくれた。発売前には、手描きの宣伝ポップを手に、名古屋市内の本屋約60軒をまわった。鳥山さんの本と並べて置いてくれた本屋もあった。今、心に響く言葉がある。東京でのサイン会で、ある書店の店員に「この漫画の何がいいかって、君が今、頑張ってるところだ」と言われたことだ。

 今月、名古屋市内の不登校を考える交流会で話をする。「不登校も全て糧になった。たくさんの反響をいただいたこの漫画に恥じないように、自分が人生をがんばり続けることが大事だと思うようになった」と前を向く。