中華圏で18日から旧正月の「春節休み」が始まった。円安や観光ビザの条件が緩和されたのを追い風に中国などから多くの観光客が日本を訪れ、百貨店やホテルは早くもにぎわっている。

 東京の高島屋新宿店は18日、春節の福袋を用意した。外国人向けに税金がかからない免税品を入れた。風呂敷や手ぬぐいなどの雑貨を詰めた税別3千円のものなど約80種類、計1800個になる。

 午後から中国人観光客の姿が目立ち始め、夕方には免税カウンターに列ができるほど。高島屋によると、大阪や京都を含む主な5店では、18日の免税品売上高が昨年の春節休み初日の4倍を超えた。

 カジュアル衣料店のユニクロは18日から免税の手続きができる店を4店から35店に増やした。スーパーのダイエーも16日から、免税の手続きができる店を7店から103店に広げた。

 京都・宇治では商店もにぎわう。平等院の参道沿いにある宇治茶専門店「三星園上林三入(みつぼしえんかんばやしさんにゅう)本店」には18日、中国や台湾からの観光客が次々に立ち寄った。

 中国・杭州から訪れた工場経営の何若虚さん(35)は石臼でひく抹茶づくりを体験し、高級抹茶4缶を1万円で買った。「抹茶は上海の料亭で飲んだ。すごくおいしかったからほしいと思っていた」

 この宇治茶専門店を営む上林三入さん(59)は「店頭に立って40年以上になるけど、いまが一番忙しい」と話す。

 中国の日本大使館などが1月に出した訪日ビザは約25万件に達する。昨年より7割多く、1月では過去最高だ。ほとんどが18日から1週間の春節休みを利用した観光客とみられる。

 中国は経済成長で国外への旅行者が増えている。さらに円安で日本での買い物が割安になったり、日本政府が1月にビザを出す際の経済力や訪問先などの条件を緩めたりして日本の人気は急上昇している。今年の春節休みの国外旅行先では、日本はタイ、韓国と並ぶトップ3とされる。

 日本の観光庁によると、14年に日本を訪れた中国人1人あたりの買い物額は平均12万7千円になり、外国人全体の平均買い物額の2・4倍になる。昨年10月には日本政府が免税品の対象を広げ、百貨店など小売り各社は中国人観光客の呼び込みに力を入れている。(北川慧一、内藤尚志)

■沖縄へ北海道へ 訪問先多様化

 訪れる先は地方にものびる。中国の大手旅行社の担当者は「個人客が沖縄へ向かっている」という。

 沖縄県ホテル旅館生活衛生同業組合によると、沖縄本島では18~22日の期間はホテルの空き室がほとんどない。「プロ野球のキャンプ見物に春節休みが重なり、例年以上の人出になっている」という。

 パウダースノーで知られる北海道ニセコ町のスキー場には18日、「2人の息子にスキーをさせたくて」という中国人男性(45)が家族4人で訪れた。

 ニセコ町では2月半ば以降、町内の主なホテルはほぼ満室だ。客の約7割が外国人とみられ、中華圏から訪れた人が多い。町内のほとんどの飲食店には、町役場が翻訳した中国語と英語のメニューがある。

 ただ、訪日客向けのビジネスは多様になっていて、中国を重視する地域ばかりではない。

 となりの倶知安(くっちゃん)町はオーストラリアからの観光客が目立ち、中国語の案内やメニューはほとんど見かけない。町の担当者は「町内の宿泊施設はコンドミニアムが多く、長期間滞在する欧米型の旅行向き」と話す。

 13年度の外国人宿泊者5万3千人のうちオーストラリア人が半数近い2万3千人を占め、中国人は2千人にとどまる。地域ごとに観光客を引きつけるための特色づくりも進んでいる。(吉田拓史)

■GDPにも貢献

 日本政府観光局が18日に発表した1月の訪日外国人数は、前年同月より29・1%増の121万8千人にのぼった。なかでも中国からの訪日客は前年同月より45・4%も増えた。

 観光庁の久保成人長官は「円安、免税品拡大、ビザ緩和と好条件がそろい、今年の春節は中国から多くの方が来られると期待している」と話した。

 昨年日本を訪れた中国人は前年より83%増の240万9千人になり、国・地域別では台湾、韓国に続いて3番目に多かった。三菱UFJモルガン・スタンレー証券で経済分析をする服部隆夫氏は「まだまだ伸びる余地がある」とみる。

 中華圏からの客は日本の国内総生産(GDP)にも貢献する。服部氏によるとシンガポールやマレーシアなどを含めた中華圏から訪れた人の旅行消費額は14年全体で1兆3300億円にのぼり、名目GDPを0・3%押し上げたという。(土居新平)

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 〈春節〉 中華圏では旧暦の正月を春節と呼び、新暦の正月より盛大に祝う。中国本土だけでなく、香港、台湾、シンガポールなどでも祝う。今年は19日が「元日」にあたり、中国では18日から24日まで春節休みをとる人が多い。