新潟県の佐渡島で農作業や子育ての傍ら、割烹着(かっぽうぎ)姿でおしゃれな曲を歌うグループが、都会の音楽ファンの間で注目を集めている。地元では無名なのに、東京や大阪のCD店とラジオ局が取り上げた。日常生活を大切にしたいと、素性はいっさい秘密の4人組。その名は「婦人倶楽部(クラブ)」だ。
 1990年代に流行した「渋谷系」と言われるおしゃれなポップ音楽と割烹着姿のギャップが魅力だ。名前は「婦人A」といった愛称を使い、婦人BとDが歌、AとCが佐渡の芸能・文弥(ぶんや)人形を繰る。
 きっかけは13年夏。アマチュアバンドの催しを見た婦人Aが「バンドをやってみんか」と仲間を誘った。「何かできたらいい」「日本ではなく台湾に行きたい」と盛り上がり、14年3月に台湾でのイベントに出ることに。ただ、誰も洋楽器を弾けなかった。
 そこで当時、佐渡に住んでいた作曲ユニット「カメラ=万年筆」の佐藤望さんに曲作りを頼んだ。地元の芸能で培った発声と度胸をいかしてポップ音楽グループとして台湾にでかけ、半年後には東京のCD店などでライブをした。
 婦人Cは「農閑期と稲刈り直前だから出かけられた」。森に囲まれた山あいの暮らしを送りながら、柿をもぐアルバイトに出るメンバーも。CD1枚目の録音はメインボーカルの婦人Bが乳飲み子を寝かしつける傍らでやった。「生活がメイン。都会に来いと言われても無理」と婦人A。あくまでクラブ活動で、大規模なPRはしていない。
 ただ、反応は各地に広がった。全国的にCD店舗を展開するタワーレコードでは、渋谷店の視聴コーナーにCDを置いたが「大変好評で品薄の状態」。コーナーでの取り扱いをいったんやめて入荷次第再開する予定だ。仙台、名古屋、大阪にある一部店舗では客の注文を受け付けて販売する。
 先月10日には、NHKのFMラジオで曲が流れた。リスナーからのリクエストに、番組ディレクターが「いい曲だ」と放送を決めたという。大阪のFM局でも放送された。
 婦人Bは「とてもうれしい」と話すも気負いはない。今後の展開はどうするのか。「アイドルだと年をとったら・・・・・・と思うけれど、『婦人』でスタートしたから活動期間は無限ね」「次に行くならパリ!」「でも暮らすのはやっぱり佐渡ね」--。婦人たちの語らいは止まらない。