タクシーに乗り込んだ


後部座席の
端と端




宿泊先のホテルに戻る道。



窓ガラスに移る

隣の女は


厚い化粧に
甘ったるい香水




あれ‥‥


この香水‥‥









背の高さも

メイクで隠しきれないあどけない目元も







香りまでも



あいつと一緒なんて。





少しずつ抜けるアルコール
幻想の間で


あいつを感じる香りに包まれながら



浮かんでくるのは


やっぱり


あいつの笑顔と
頰を膨らませた顔。


そして

目を閉じて大きくため息を漏らした

このまえのあの顔だった。




『‥あの、登坂さん?着きましたけど‥‥』





『‥‥あぁ』




違う。


声が違う

髪が違う。

爪の形だって違う。



何もかも違う




『ん‥‥こっち。』



頭ではわかってる。


わかってるんだ。






タクシーを降りて
地下駐車場のエレベーターに乗る。





最上階の俺の部屋の前


振り返ると

なんか申し訳なさそうな顔して
少し後ろをついてきてた。









部屋の中まで来た凜は
何か言いたげな顔をして
バックも置かずに立っていた





『その香水‥‥何つかってんの?』


『‥‥シャネル。』


『‥‥そっか』


『きついでしょ‥‥』


『だな(笑)‥‥嫌いじゃないけど。


『貰ったんです。
恋人に。』

『‥‥?』

『奥さんと同じだったけど‥‥』


『‥‥ひどい男だな。』



冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出す


ひとくち口に含んで
乾いた喉を濡らした。







『すいません、余計な話しちゃって‥‥』

『いや‥‥全然いいよ。』



『あの‥‥』



『ごめん‥‥』

『え‥‥』




『今日は‥‥これだけでいいから‥‥』



部屋の灯りを消した。




幻想のあいつを

強く抱きしめる。




俺の鼓動に
耳を澄ませるあいつ




胸に耳をつけて‥‥



俺の胸に手を当てて‥‥




『ちがう。』


凜『え?』



『手はここ』





『耳はここ』






あいつは背中に手を回したりしない。



きつく抱きしめ返したりもしない



俺には‥‥な。










忘れる事なんてできんのかな。



こんなにも違うのに。



あいつじゃないのに







香りひとつでこんなにもかき乱されるなんて



やっぱ女は魔物だ。








思い知らされた





気づけばこんなに

溺れてしまってた事に。




『‥‥会いてぇ‥‥‥‥』


思わず漏れた言葉に

女はただ黙って
胸に顔を埋めた