長い沈黙の後


ため息のようにこぼれ落ちる
彼女の言葉


『鍵‥‥』




岩田『うん‥』


小さな声




『鍵をね‥‥返しに行ったの‥‥』



岩田『うん』


『久しぶりに話せるかなって‥‥


岩田『おしゃれしてったんだ‥‥』


『でもね‥‥‥』



岩田『もう忘れなよ。』







『できるなら‥とっくにしてる‥』






岩田『‥‥じゃあさ



今だけ‥‥





忘れて。』



思わず強く抱きしめた。


隙間がなくなるまで
何度も何度も抱き直す



『ふぇっ‥‥』



こんな事言ったけど

俺から香る香水で

彼女はまた胸が張り裂けそうなはず。



だけど

こうでもしないと

君はいつまでも

今のまま‥‥







こんなに静かに泣くんだ‥‥




ポタポタ‥
ポタポタ‥‥



俯いた瞳から止まらない涙








彼女から
そっと回された腕

ティーシャツの背中をくしゃっと掴んで
俺の胸に頭を寄せた









声に出さなくても聞こえる

彼女の心の声





それを受け止める事が
俺にできるのか‥






‥‥‥‥‥


どのくらいこうしてるんだろう。


トントンとリズムよく
背中を叩いてる。

岩田『落ち着いた?』



『‥‥あ‥ごめんなさいっ。』


パッと離れた彼女は
マスカラの滲んだパンダ顔


岩田『かわいいパンダがいる(笑)』


『パンダ?‥‥あっ!』

とっさにキョロキョロ鏡を探す仕草が
可愛すぎて‥‥



岩田『シャワーあびといでよ。』


『え?』


岩田『それと鍵』


『鍵?』


岩田『隣の部屋の鍵と‥‥臣さんちの鍵。』


『‥‥?』

岩田『俺に預けて?臣さんには俺が返す。』



彼女はためらいながら
そっとカバンに手を入れる



チャラ‥‥‥



『‥‥』


財布からカードキー



岩田『君は‥‥ここに居て?

俺、毎日ちゃんと帰ってくるから。



一緒にご飯たべて‥‥


一緒にテレビ見て‥



ただ


一緒にいよ?』




コレは俺にとっても賭。


彼女にとっても賭。



そうなると


臣さんにとっても賭。





ただ傍に彼女がいるだけ


所有権は誰にもない。


臣さん‥‥

俺が本気になる前に


早く取り返しに来ないと


本当に俺のものにしちゃうよ。







テーブルに鍵を出す彼女




岩田『俺達、付き合おう?』



しばらく考えた彼女




『返事‥‥待ってもらえますか?』




岩田『もちろん。お試し期間って事でいい?』







彼女はシャワーを浴びる。







預かった2つの鍵を
引き出しの奥に入れる。





岩田『さて‥』




シャワーを浴びた彼女



岩田『今日はもう休みな?』


『あの‥‥』



岩田『ん?いいよ?ベッドで寝て?』


『岩田さんは?』


岩田『俺はここで寝るよ』


『‥』

岩田『なに?一緒に寝て欲しい?』


『えっ?!ちがいます!!』



岩田『一緒に寝たくなったらいつでも言って(笑)』


『‥‥お休みなさい。』





岩田『ふふっ‥‥‥おやすみ。』


『あの‥‥』


岩田『ん?』


『ありがとうございます‥‥』



ペコリとお辞儀をして
そのまま寝室に入っていった。






深夜の2時‥‥



なんだか眠れずなんどもソファーで寝返り




岩田『はぁ‥‥』


カーテンを少しだけ開ける。





相変わらず降り続く雨







季節は夏を迎えようとしてる。

今日は七夕



織り姫と彦星も

今年は会えない?


それとも

この広がる雨雲の上で

こっそり会って

気持ちを通わせてる?