『いってらしゃい!』


『あー‥‥今日遅くなるから、晩飯いらねぇ。‥‥つーか‥‥いってらっしゃいませだろ?』


『わかっ‥‥かしこまりました。‥チッ。』





マンションのドアの外

広臣を見送る。

『てめ‥‥舌打ちしやがったな。。』

『‥‥』



私は家政婦。

こうなるまでの話しはこうだ。


私のママは
登坂家の家政婦をしていた。

母の名前はヨシコ。

先月病気で他界してしまった。



登坂家とは小さな頃から
家族ぐるみの付き合いをしてきた。

家も近くて
小学校‥中学校と休みの日にも放課後にも

自分の家に帰るように
私は広臣の部屋に帰っていた。


だけど年の近いわたしと広臣は
いつの頃からか
思春期を迎え

子供の頃のように
仲良くじゃれ合う事も
なくなっていた。




坊ちゃんとあまり仲良くしてはいけません



母ヨシコも口うるさく言っていた。


母が亡くなった事で

急遽おじ様から呼び出された私は

あろうことか

東京で独り暮らしをする
広臣の家政婦を頼まれてしまう。


しばらくぶりに会う広臣‥‥

もう何年も会話らしい会話も
目を合わせる事も
なくなっていた。



家政婦と言っても

いわゆる身の回りの世話。

食事の準備に部屋のかたづけ‥‥。


美容師をしてる広臣は

ほとんど家に帰って来てない様子で

カギを渡されて
勝手に家に入った時も

怒られるどころか‥

私は1週間
ご主人のいない部屋で過ごした。




広臣はご主人様で‥

私はお給料を貰うわけで‥‥

これは仕事なんだと‥‥

生きてく術なんだと‥‥

そう言い聞かせてここに来た。






広臣は

私の初恋の人‥‥


そして

初めての男だ。


もちろん広臣はそうじゃなくて‥‥

広臣にはほかにもたくさん女の子がいて。

二番目でも‥

三番目でも

構わないって

あの時はそう思ってた‥‥。





心と体

その2つが欲しかった。




広臣は私を必要としてくれた

彼女が居ても

居なくても。

私を求めてくれたあの頃‥‥。






私は勘違いしていた




広臣の心は

わたしのものにはならなかった。


キスはしてくれた





だけど

何度私が言っても

広臣が1度も言わなかった言葉‥‥



『好き』




それが全てだ。






私達はただ
体を重ねていただけ。


一方通行だった。


まだまだ子供だったのかもしれないけど

あの時の熱量は
今はもうない。

『お前の身体‥‥気持ちいい。』

そう言われて

私の持ってる物で
広臣が喜ぶなら‥‥

そんな事を思ってた。








嫌われるのが怖くて

あえて私も何も聞かないままだった。



高校生になった私は

一度だけ

たった一度だけ

広臣の気持を確かめたくなった。




はじめての告白。



だけどフラれた。


広臣『これから先、お前を好きに
なる事?‥‥

好きだった

大好きだった。

広臣‥‥。






広臣『絶対ないわ(笑)』




私の初恋は

あっけなく終わった。






それから私にも何人か彼氏が出来た‥

好きになれるって思ってた‥‥

なろうと思って努力もした。

だけど

どんなに好きだと言われても
どんなに優しくされても

無理だった。



私の心は

広臣だけだった。




広臣が言った『絶対ないわ。』


冷たい言葉だけど

少しでも期待させた私よりマシだ。






昔からそう

広臣は期待させるような事は

絶対言わなかった。

約束は必ず守ってくれたし

私を大事にしてくれたのも事実。

まるで妹のように。





高校2年になる頃には
全く会わなくなった。


私は急いでた。


早く忘れなきゃ。

早く離れなきゃ。



なるべく遠くに‥‥

もっともっと遠くに‥



卒業して遠くの大学に行って‥‥



なのに‥‥


やっと離れたと思っても

私の中の広臣は

消えることなく

ずっとずっと私を助けてくれる。

ずっとずっと支えてくれる。





私の中の広臣は

 きっとあの時のまま‥‥

私の恋心はあの時のままだった。







いつの頃からだろう

わたしは恋をする事を辞めた。



いつかきっと広臣を忘れさせてくれる人が

現れるはず。


そう信じて。








 

そんな時にママが倒れて

あっと言う間に
居なくなってしまった。

ママ‥‥

ごめんね

自分を大事にしてって言ってたよね。

たくさん愛されなさいって‥‥

ママ‥‥

ママ‥‥

会いたいよ‥‥。






ガタンッ!!





?!‥‥そんな事を考えてたら
玄関で物音がした‥ ‥

ドンッ

ガタガタ‥‥

ガチャガチャ

バタンッ






あれ?広臣帰ってきたかも‥‥?


廊下の電気を付ける。

この部屋の照明は

どの部屋も
淡い光

部屋のインテリアも
広臣らしいシンプルな物が多い。

『ひ‥‥ろおみ?』

物音がしなくなったその先には

体を曲げて寝ている広臣の姿

そっと近づいてみる。



何年ぶりだろ‥‥

こんな近くで広臣を見るの‥‥


『大丈夫?‥‥お水‥‥飲む?』



広臣『んぁ?‥‥‥‥ユゥ?‥‥‥リン?‥。』



相当酔った広臣は
私を彼女だか友達だかと思ってる様子。

『広臣?おじ様の言いつけでね?あなたの身の回りの世話をするようにたのまれたの?‥わかる?』

広臣『~。。』

わかんないか‥‥

今日はそのまま‥‥寝せよう。。


ソファーまで運ぶか‥‥。

腕を首にかけて

広臣の脇に潜り込む

『ちょっと!‥‥ほらっ!ソファーまで歩いて!』

広臣『あァ?‥‥んだょ‥‥』

『お‥‥おもっ‥‥たい‥‥』

ドサッ!

『はぁっ‥‥はぁ‥‥』

広臣『‥ん~‥zzz』

寝てる‥‥

‥‥

そっとソファーの横に膝をついた。

『ひろおみ‥‥?』




こんな形だけど

あなたの傍にいれること‥‥

今は嬉しいの‥‥



『ひろおみ‥‥ママがね‥‥いなくなっちゃったから‥‥

あたし‥‥独りぼっちになった。

あなたの所に‥

居てもい?‥‥』



ソファーに寝る広臣の
髪を撫でた


広臣『‥‥ぅ‥‥ん‥』

『‥お酒‥くさいよ‥‥‥』


ソファーで眠る広臣に
薄いブランケットをそっとかける


明日

目覚めたら

きっとびっくりするんだろうな‥‥

怒るかな?

そんな事に頭を巡らせながら

私は今日までだからと

留守中にずっと
寝ていた

広臣のベッドで眠りに落ちた。




明日からは

隣の部屋に布団敷いて‥‥

寝るからね‥。


‥‥






‥‥

『ちょっと待って!』

広臣『‥無理』

『やっ‥‥えっ?!ヤダヤダ!何してるのっ///』

ベッドの隅に追い詰められた私



広臣『お前がしたいっつったんだろ?』

え?‥私が?‥言った?

『‥でで‥電気っ!//』

とりあえず明るいのは嫌‥‥

広臣『あ゙~も。いいじゃん‥明るい方が興奮するし?‥』

広臣?あれ??

なんか‥‥

『‥//』

ピッ‥‥

文句をいいながら部屋の照明を
ひとつ落とす

広臣『ほら‥‥手どけろ‥。』

  

えっ?!

いつの間にか

下着だけになってる!

『‥‥///』

恥ずかしくて俯く私

広臣『んっ!』

なに?

『‥‥?』

チラッと広臣を見ると

覗き込むようにキスをしてくる。


重なりあった唇は

俯く顔を何度も何度も掬いあげる。

『んっ‥///はぁっ‥‥』

ずるいよ

広臣‥‥

こうやっていつも私は

広臣を受け入れてしまうのわかってる。


広臣『お前の唇‥‥やわけぇ‥‥』


あれ?

お酒くさい‥‥?




胸に回った手のひらは

ブラに収まった胸を

少し強引に引き出すと

指先で優しくなぞる。

『ンッ‥‥ヤダッ//』

先端をペロリと舐めると

広臣『好きなくせに‥』

そう言って

脇腹やオヘソのまわりにキスを
落としはじめた

『‥‥やぁ‥‥っん///』

時折感じる舌の感触が
くすぐったくて‥‥


広臣『ユカ‥‥なんか‥胸大っきくなってない?』

?!

『‥‥‥え?ユカ?』

広臣『え?』













『えっ?‥‥』

広臣『‥え?‥』









『き‥‥きゃぁぁぁぁーーーーーー!!』

広臣『はっ?!おまっ‥‥?!』



ガバッ‥‥

ベッドの手前と奥

お互いびっくりして

落ちる寸前まで離れる。

広臣『は?!なんだよ!なんでお前がここにいんだよ!』

『‥‥あ‥‥ごめん。。って!!
私仕事!おじ様から頼まれたの!


広臣『は?だからなんでお前が!』


『広臣だって何してんの?!帰って来ない部屋でずっと待ってたんですけどーーー!!』

広臣『ここは俺のベッドだ!』


『誰も寝ないベッドに寝ようが寝まいが私の勝手でしょ!だいたいソファーに寝てたのになんでココにきてんの?!』



広臣『なんでお前の勝手なんだよ!ここは俺の部屋の俺のベッドだ!』


『てゆうか触ったでしょ!謝ってよ!』


広臣『あぁ?!なんでお前の胸触ったぐらいで俺が謝んなきゃいけねぇんだよ!ここに寝てるお前が悪い。』


『なにそれ?!』


広臣『あーむしゃくしゃする。とりあえずやらせろ。』

『はぁぁ?!なんでそーなるの?!』


広臣『知らねぇよ!』

‥‥

‥‥

と、まぁ

会話にならない会話をし‥‥



リビングに移動した。




ここに来た経緯を広臣に話す。

『ふぅ~ん‥‥』

ボサボサ頭をポリポリ掻きながら

頭いてぇ‥‥

っていいながらソファーに
偉そうに座る広臣。



私は冷蔵庫からお水のペットボトルを
出して飲もうとした。


広臣『って‥おい‥‥勝手に飲むな!』

『え?!ケチ!』

広臣『つーか‥‥久しぶり‥‥だな。』


『え?‥‥今頃?』

広臣『つーか、お前ここに居るの?ずっと?』

『‥‥はい。おじさまにはそう言われてる。』



広臣『とりあえず明日‥‥出てってよ。』


『‥‥』

広臣『家政婦とかいらねぇし』

『‥‥』



広臣『‥‥な?』


私は何を期待してたんだろう。



広臣が喜ぶとは
思ってなかったけど‥‥



『おじ様に頼まれてるんだもん!』




広臣『おやじ?あー‥‥あとで連絡しとくわ。』





‥‥



ねぇ、広臣。

私‥

行くところなんて

ない。



私をを必要としてくれる人‥

もう居ないの。








『‥‥だよね?‥‥本当さ、私も正直おじ様何考えてんのーって思ってたし‥‥
帰るね?‥‥ごめんごめん。あっ‥‥広臣仕事でしょ?今日の夜までにはでてくから‥‥ほら!荷物‥‥持ってきてるし。1週間も居たから‥‥結構増えちゃって(笑)‥‥っ‥ごめんねっ!




広臣『‥‥』









人前で泣くのは辞めなさい


ママに言われてた。




ママのお葬式でも
泣かなかった

一人になったとき

これでもかというほど泣いたけど。







もう

泣かない。




そう決めてたのに‥‥







広臣は私の心を簡単に壊す