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祖母が私の手を引いていた。

目の前には木の塀が続いている。
祖母の家の前の道路の、向かいにあった木の塀だ。

その木の塀沿いをしばらく歩くと、祖母はそっとそれを押し開けた。

一部が戸になっていた。

その向こうには・・・。


広い広い草原が広がっていた。

 

金色に輝く草原。
葉は緑なのに、金色に輝いている。

細い茎?
葦のよう。

それを静かに揺らす風。
どこまでも、どこまでも広がっていた。


お互い何も言わずに、その草原を泳ぐように歩いた。

しばらく歩くと、祖母がふと立ち止まった。

 

 

 

目の前には大きな山。
迫ってくるような存在感。

淡く紫色に染まった山。

富士山?

<これは・・・>
この”感じ”は・・・。

<神様だ>


風が少し強く吹いて、葦原の草を揺らした。
緑の香りが私を包みこむ。

 

「・・・さま」

祖母が何かを話したが、風の音でよく聞こえない。

「この子が・・・です」

その山に話しかけていた。

 

 ”この子が何?何て言ったの?”

すると祖母の声ではない声が頭の中に響いた。

 < 今はまだ・・・ >
(知らなくていい、そんなニュアンス)

山が言ってる。
そう思った。

その後、祖母は私の手を引き、
来た時と同じように木の塀を押して、外に出た。


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その夢を見たのは、小学4年生の秋。
当時は奈良に住んでいて、母の故郷がある福岡に、毎年夏休みの間に帰省していた。


ずっと後になって気づく。

あの山は三輪山だ。

しばらくこの山を富士山だと思い込んでいた。

その圧倒的な存在感から。


神そのものである三輪山。

 


 

この夢のことをしばらくの間、現実だと思い込んでいた。
それ程、他の夢と違って、「現実感」があった。

次に福岡に行った夏に確かめた。
祖母の家の前の道路に「木の塀」なんて、どこにもない。
それで、「あれは夢だったのか」と思った。


それから何年も経ったある日、母から聞いた。

 

うちの母方の家系は、夢で霊能力を授ける家系だったのだ。

 

( つづく )